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パリに長期滞在して感じた「日本から世界へ」の歩み方

こんにちは!ファクトリエ代表の山田(tocio_yama)です。

ファクトリエは、「語れるもので、日々を豊かに」をミッションとしています。日本各地のこだわりを持った工場と一緒に「良いものを、長く着る」をテーマに商品を作っています。

"長く愛用して頂く"ため、

-ベーシックなデザイン
-高い品質・耐久性
-適切な修理(交換) 

を心がけています。

20年ぶりにパリへ

Jstarxに選んでいただき、渡仏してきました。

経産省主催のJ-StarXの起業家の海外派遣プログラムに参加し、10名の起業家とともに約2週間、パリに行ってきました(J-StarXは、世界を舞台に活躍する起業家を育成するために、志高い挑戦者にトッププレイヤーとの繋がりをサポートしていただけるありがたいプログラム)。選考時からデロイトトーマツベンチャーサポートさんには大変お世話になりました。

若手起業家10人と一緒に行きました

期間中は、STATION Fというインキュベーション施設に滞在。
”STATION F”は、フランス通信大手Iliadの創業者であるグザビエ・ニール氏が元々駅舎であった場所を購入、2億5000万ユーロ(300億円)を投資して作られた世界最大のスタートアップキャンパスと言われる場所です。

STATION Fは駅舎をリノベーションして作られた今風な施設

50,000m2に及ぶ敷地内には3,000を超えるワークステーションが配置され、スタートアップエリアやイベントスペースが整備されています。毎年、厳選された1,000のスタートアップ企業が結集し、「STATION F」はフランスのテクノロジーの拠点として、"French Tech"の具現化の場となっています。

現代美術館のような内装

特に学食のようなフードコート「La Felicità」は、入居者だけでなく地元の方も利用し、コミュニケーションの場として地域に根付いています(週末には行列ができるほど)。

滞在中、パリの経営大学院HEC Parisのサポートのもと、STATION Fで起業家プログラムやピッチイベントに参加し、現地の経営者やメンターと交流を深めました。この経験は、フランスという市場に対してビジネスをブラッシュアップする上でとても有意義な時間となりました。

今回の目的は、3つ。

・現地の消費者にファクトリエは受け入れられるか
・現地ブランドとの協業の可能性
・経営トップとの交流

上記3点が今回フランスに行く目的です。厳しかったコロナ禍を経て、なんとか売上も回復し、国内のお客様に喜んでいただける商品・サービスを展開できていますが、まだまだ国内の繊維産業の工場の減少が止まらず、不甲斐なさを痛感しています。

では、日本製には価値がないのでしょうか?そうは思いません。

私の友人・知人にはミニマリスト思考が増え、少数の良い服を長く着たい、という考えを持つ人は増えていると実感しています。今回のパリ滞在で、日本のものづくりの可能性を見つけてきたいと考えていました。

1.フランス人にも通用するか?

パリ独自のファッション文化

夕方、仕事終わりのリラックスタイムに友人で集まっておしゃべりする「ソワレ」に私も参加しました。そこで見たのは、パリジャンのコーディネート。ブランドもので全身を着飾るのではなく、さりげなく一点持つというスタイルです。ジャケットやパンツはノーブランド、バッグはシャネルなど、高級ブランドのアイテムを選びつつも、それを主張し過ぎないスタイルがパリジェンには好まれています。

夕方、友人たちと集まって語り合う”ソワレ”

どのようなブランドを買っているか、30-40代のフランス人男女10名ほどに聞くと、洋服の購入時に彼らが重視するポイントが分かってきました。驚いたのは日本と同じく、フランスでもミニマリストは増加傾向にあり、高品質なアイテムを慎重に選んでいたのです。また、インスタグラムを通じて、トレンドや新商品の情報収集には余念が無く、フランス製のブランドを応援する機運の高まりも感じました。

フランス人男女10名へのヒアリング結果(重複あり)

購買時に重視するポイントについては、環境意識への高まりから
Quality(品質)・Durable(耐久性)・Sustainable(持続可能性)
という言葉を頻繁に耳にしました。これらの価値観が洋服選びにおいて中心になっているようです。

どんな人がお客様になるか

アートディレクターのJean氏は理想のお客様像

ヒアリングした消費者の中には「ミニマリスト」思考であり、「MADE IN JAPANが好き」という意見を持つ方が数名いました。日本製は高品質であり、信頼性があるとの印象がフランスの消費者には浸透しているそうです。例えば、日本のデニム職人の技術や素材を活かし、洗練されたた商品を提供することへの可能性を感じました。

高感度なセレクトショップKITH

ある夜に、飛び込みで訪問したのは「KITH PARIS」というお店です。
2年前にオープンしたばかりの同店はパリの話題のセレクトショップで、凱旋門の近くにある3階建ての店舗は16,000平方フィートを誇り、同ブランドにとって最大規模となっています(エントランスから全ての内装が最高にカッコいいです)。

商談に応じてくれたゼネラルマネージャーAlex氏

店内に足を踏み入れ、店員の女性の方に「責任者の方はいますか?」と伝えると、30分後に店舗のゼネラルマネージャーが登場。ノーアポをお詫びしつつ、持参した商品を見せ、ファクトリエの商品について説明し、今後の可能性について双方意見を出し合いました。

打ち合わせの中では、MADE IN JAPANの良さはデニム以外にまだ浸透していないという指摘もありました。それに対して、デニム以外にも独自性と高品質な商品があることを伝え、実際に触れていただきながら、新しい展開やアイテムの提案をしました。

KITH PARISは「メゾン マルジェラ」や「ルード」「モンクレール」「コム デ ギャルソン」「アンダーカバー」といったファッション性の高いブランドを扱っています。世界中の観光客が訪れるパリのKITH PARISに置かれることは、日本のものづくりにとって認知度向上が期待されます。

今回即決とはいきませんでしたが、バイヤーのJastinを紹介してくれたので、諦めずにやり取りを継続していきたいと思います。

2.ラグジュアリーブランドと会う

ロエベのマネージングディレクターGuillaume氏

パリに着いた翌日、LVMHグループのLOEWEのマネージングディレクターであるGuillaumeさんとお会いしました(スターバックス・ジャパンCEOの水口氏から紹介いただきました)。※マネージングディレクターを翻訳すると社長と出てきましたが、CEOではないようです

Guillaumeさんは洗練された感性を持ち、ブランドを作る上で重要なのは「スタイル」「コード」「世界観」の確立だと強調されました。これらの要素がファクトリエにおいてもっと明確に表現されることで、顧客との深い繋がりが生まれ、ブランドの存在感が一層際立つとのアドバイスでした。

Guillaume氏はSTATION Fまで会いに来てくれました

協業の可能性を探る

「LOEWEとファクトリエでコラボできませんか?」と単刀直入に聞いた私に、Guillaumeさんは「どこかの業界で圧倒的な知名度を得ることが条件」と静かに話されました。

LOEWEが最近ジブリとコラボしたように、特定の業界において存在感のあるブランドは、双方にとって認知度の向上に繋がるためメリットがあるが、そうでなければコラボする意味がない、との意見でした。

とはいえ、「LOEWEはクラフトマンシップをとても大切にしているよ」とのコメントももらいました。それが、クラフトプライズという賞です。昨年は日本人女性2人、稲崎栄利子氏と渡部萌氏が受賞しています。これは日本のクラフトマンシップの高い評価を示す素晴らしい成果です。

クラフトマンシップの考え方はファクトリエにとってもブランドのアイデンティティを強化し、海外ブランドとの差別化するための重要な鍵となります。先行するラグジュアリーブランドから学び、日本独自の技術による機能性を追求しつつ、美しさやスタイリッシュさにこだわりたいと考えています。

素材提供の可能性

後日、Guillaume氏の紹介で同ブランドのレディース企画のトップVincent氏と素材調達のトップMichel氏と打ち合わせをしました。結論から言うと、この打ち合わせは非常に良い形で終わりました。

日本の繊維素材に対して興味はあるが、情報がないという彼らの課題に応えられるのではと感じました。この点については、ファクトリエが追求する日本各地の高品質かつ持続可能な素材を彼らに供給することはできそうです。

ここからがスタートラインです

ただ、彼らの要求する水準は非常に高く、例えばオーガニックコットンなどの「GOTS認証」の有無が強調されました。持続可能な素材の利用は現代のファッション産業において不可欠であり、この認証を取得することで、生地の信頼性が向上、環境負荷を最小限に抑えていると言えます。

同時に現代のコレクションのスピードに間に合うか?という懸念も率直に話していただきました。数週間おきに次のシーズンの作品が必要となるコレクションにおいて、試織(生地感を確認するために試し織りすること)や試編(試しに編んでみること)のスピードや縫製のリードタイムは、極めて迅速な対応が求められます。

現在彼らはポルトガルで生産をしているそうですが、日本とヨーロッパの距離の問題もあるのでどうしても時間がネックとなりそうです。この点においても、私たちは彼らの要求に応えられるよう柔軟かつ迅速な生産体制を整える必要性を感じました。

ラグジュアリーブランドはどこへ向かうのか?

LOEWEのクラフトプライズについては上述しましたが、LVMH(ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー)は、若手支援のLVMHプライズにおいて、今年からクラフツマンシップの継承を称える賞を新設。

LVMHメティエダールの活動については、昨年(2022年)にジャパンを設立。岡山のデニムメーカー「クロキ」さんや京都の西陣織「細尾」さんとのパートナーシップを築いています。

LVMHメティエダールのマッテオCEOは、「ベスト・オブ・ベスト」な素材の確保が難しさを増している中、LVMHグループがクラフツマンシップへの取り組みを強化することはますます重要になるとコメントされています。

今後、環境だけでなく「クラフトマンシップの持続可能性」がラグジュアリーブランドにとって不可欠な要素となってくるでしょう。その際、日本にクラフトマンシップを残しておくことは日本としての財産であり、ファクトリエも引き続き、ものづくり復興に尽力する方針です。

3.現地ブランドと会う

どのようなブランドが人気か?

フランスの30-40代にインタビューすると、日本では聞いたことのないブランドについてよく耳にしました。それがBonne Gueuleというブランドです(フランス語で、イケメンという意味)。

外務省で働くJoel氏が着ていたのも同ブランドのスーツ

Bonne Gueuleは2007年に設立。当初はブログで世の中のアパレル商品について批評するメディアだったそう。そこから自社ブランドを立ち上げ、現在に至るそうです。

インスタグラムのフォロワー数は10万人を超える

彼らはもともとメディアであったこともあり、多くのインスタグラムのフォロワーを抱え、顧客とのエンゲージメントが非常に高いのが特徴。

パリ3区、マレ地区にあるお店

店舗にはお客様が絶えず訪れていました。パリの30-40代のミニマリスト思考で、ベーシックなものを着用したい男性への強力な存在感を感じました。

ベーシックでクラフトマンシップの宿る商品

早速、HPの問い合わせから連絡し、「私は今パリに来ている」「私には時間がない」「あなたにとっても魅力的な提案ができるはず」とお願いし、先方がファクトリエを聞いたことがあったこともあり、CEOとのミーティングが叶いました。

Benoitとのミーティング

CEOのBenoitとの打ち合わせでは、ものづくりへのこだわりと顧客への伝え方について学びが多く、Bonne Gueuleは単なるファッションブランドではなく、熱心な顧客との強固なコミュニケーションと、信頼性のある商品に注力していることがわかりました。私からは、ファクトリエをはじめ、日本の素材・縫製がどうあなたたちに有用かを伝えました。

2時間近くに及んだミーティングで嬉しかったのは、彼らのMADE IN JAPANに対する高い信頼と関心ですBonne Gueuleの顧客層はきっと、日本製のシャツやジーンズに関心を持つだろうと感じているようでした。ミニマリストかつクラフトマンシップという仮説は、日本と同様にフランス市場で受け入れられる可能性を感じました。

最後に:これから海外を目指す方へ

英語よりも大切なこと

今回の滞在を通じて、言葉の壁があってもスマホの翻訳アプリを使えばコミュニケーションに困らないこと。もっと大切なのは「自分たちは何者で、あなたにとってのメリット」を端的に伝えられることだと感じました。

10を超えるブランドと商談を行いました

先方の重要な課題を私たちがどう解決できるのか?を提案することで、話が一方的にならず、双方向的になることも実感しました(これは日本では当たり前のことですが、ついつい海外では一方的に話してしまう癖がぬけず、苦労しました)。

ただ、英語のカタログ(特にストーリーブック)があると世界観を含め、より伝わりやすくなるのでオススメです。

どんな想いでこのブランドを立ち上げたのか
どんな工場・人・商品があるのか

動画もオススメです。ちょうど先月、11周年記念のドキュメンタリー映像を公開したのですが、クリエイターの田中さんに短くしてもらい、アメリカ人の友人に字幕をつけてもらい、商談相手に観ていただきました。

2分弱の映像ですがに「素晴らしい」「素敵」と言っていただけて、商談はスムーズに進行。カタログもそうですが、言語の壁がある日本人にとって視覚で伝えることは大切かもしれません。

また、フランスで名刺交換した人がいないくらい名刺が消えてました。代わりに使われていたのは、Linked In。フランスでは名刺よりもLinked Inが一般的であり、Linked Inから会いたい相手にアプローチすることもオススメです。

海外に行く前にぜひアカウントを作っておきましょう

小僧に戻るチャンス

ホテルではなく、Station Fの寮であるFlatmateに滞在しました(Station Fから徒歩30分)。寮では現地の若手起業家5名と一緒に共同生活。

キッチン・トイレ・シャワーは全て共同で、新入りなので、私がトイレ掃除はやりました。若い頃に戻ったような環境で、0からスタートする気持ちになれたのは最高でした。

同部屋のLucとMaxim

寮での毎日は、まさに小僧に戻った気分でした。朝から挨拶をしてキッチンで朝食をつくり、トイレ掃除して、出かけ、帰宅したらシャワーを浴びて、遅くまで話しこむ。経営者として10年以上たった私自身の価値観を変え、殻をやぶるきっかけになったと思います。

私の部屋

共同生活の中で、同じフランスでも異なる地域や世代によって価値観の違いや、日本とフランスの顧客の違いに気づくことができました。

さて、世界展開については、英語版のEC、関税、卸売価格など、まだまだやることがあります。ただし、これらも一度しっかりと準備しておけば、将来的にはどの国でも活用できます。今回のフランス滞在を通じて、顧客のニーズが把握できたこともあり、日本の良い商品をグローバルな市場に展開させていく準備が整いました。

今回支援していただいた経産省、デロイトトーマツベンチャーサポートの皆様、現地HEC、Station Fのみなさま、また私が不在時にもファクトリエを問題なく運営してくれたメンバーの皆に心から感謝を申し上げます。ここから、より良い前例となれますよう頑張ります!

山田

《これまでの記事》
1.D2C創業、最初の壁を超えるための5つの基本

2.ものづくりについて
→D2Cブランドの99%はプロダクトで決まる

3.ファンづくりについて
→お客様をファンに変える。熱エネルギー型のブランド論

2024年夏向けの《ベストバイアイテム6選》

《MEN》

1位

2位

3位

《WOMEN》
1位

2位

3位

(追伸)
私自身がアトピー性皮膚炎であることから、肌悩みを持つ方向けの商品を開発しています。現在は主にレディース中心ですが、もし洋服に困っている方がいましたら、ぜひお気軽に私のSNS宛(山田のTwitter)にご連絡くださいませ。
下記では肌が弱い方向けに繊維の面から情報も記載しています。


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