ichimura

北海道大学で農業政策について研究しています。

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最近の記事

「アニマルウェルフェアの強制」は必要なのか?

先日、大学へ修士論文を提出してきた。なんとか大学院の修士課程は無事に修了できそうな気配である。 この2年間ほど、自分が取り組んでいた研究テーマは、ごく簡単に言うと「なぜイギリスでアニマルウェルフェア規制が誕生したのか?」を明らかにすることだった。 関係者にはよく知られた話だが、イギリスはアニマルウェルフェア規制発祥の地である。最近、EUや米・カリフォルニア州などでは、肉や卵の生産を目的として鶏や豚などの家畜を飼うときに、「最低でも1羽あたり〇〇㎠の面積を確保しなさい」とい

    • 2023年4月3日のニュース

      ウェールズ、イギリス初のゲームシューティングライセンス制度導入で地元住民ら反発 ウェールズはイギリス初のゲームシューティングライセンス制度を導入することが明らかになった。これに対して、地元の住民や狩猟関係者から反発の声が上がっている。 詳細リンク 国連事務総長、ベラルーシ制裁緩和を求める - 世界的な飢餓問題への対処が目的 国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、ベラルーシに対する欧州連合(EU)の制裁緩和を求める声明を発表した。これは世界的な飢餓問題への懸念から、ベラルー

      • EU 2030年までに農薬リスク半減を法定化する規則案を公表

        欧州委員会が22日、農薬使用に関する新たな規則案を公表しました。EUは2009年にすでに持続可能な農薬使用指令を採択していますが、ファーム・トゥ・フォーク戦略での有機農業目標を踏まえて、より法規制として強い「規則」の形で新たな農薬指令法制が誕生する見込みとなりました。 https://ec.europa.eu/food/system/files/2022-06/pesticides_sud_eval_2022_reg_2022-305_en.pdf この規則では2030年

        • EU CAPでの休耕地条件の特例的緩和を来年末まで延長へ

          EUでは現行CAPのもとで15ヘクタールを超える農地を保有する農業者に対して、最低5%の休耕地を確保することが補助金受給条件の一つとなっています。しかし、ウクライナ危機による食料価格の高騰の影響を受けて、今年3月に欧州委員会は年内はこの休耕地条件を特例的に緩和することを決めました。 そして、この休耕地条件の特例的緩和がどうやら来年も続く見込みになりそうだと、ユーラクティブは報じています。なお、来年からは耕地面積にかかわらず全ての農家で4%の休耕地を確保することが求められます

        「アニマルウェルフェアの強制」は必要なのか?

          EUと米国 ウクライナの欧州国境に臨時サイロを建設へ

          今月のG7でウクライナからの穀物輸出支援策が議題となる予定のなか、EUとアメリカによる具体的な支援策が報じられ始めました。 バイデン大統領は火曜日、フィラデルフィアでの演説で、ウクライナからの穀物輸出支援策として、ポーランドなどのEU-ウクライナ国境に臨時のサイロを建設する計画があると言及しました。また、EUも同様の計画を検討していることが報道されています。 現在、ウクライナでは黒海ルートの輸出網が機能していないため輸出分の穀物在庫が積み上がり、国内の穀物保管能力が限界を

          EUと米国 ウクライナの欧州国境に臨時サイロを建設へ

          USDAのWASDE インドの小麦輸出制限措置の影響を供給試算に反映

          6月10日に米農務省が月次の農産物需給試算(World Agricultural Supply and Demand Estimates:WASDE)を発表しました。 今回のWASDEでは、小麦供給の見込みについてインドによる輸出制限措置の影響が反映されています。それによると、2022-2023年度の世界の小麦生産量は10億5200万トンとなる見込みで、異常気象の影響を受けているインドでの減収が響き、供給量は前年度から若干減少する見込みです。ですが、需要量もほぼ同じだけ減少

          USDAのWASDE インドの小麦輸出制限措置の影響を供給試算に反映

          オランダ 最大70%の窒素排出削減計画を発表-農業者は強く反発

          オランダ政府が2030年までに最大70%、窒素を削減する計画を発表し、これに対して農業者が強く反発しているというニュースが複数のメディアで報じられています。 オランダは九州ほどの広さの国土ながら、世界第二位の農畜産物輸出額を誇る農業大国で、特に盛んなのは畜産です。2021年現在、牛の飼育頭数(肉用と乳用の合計)は日本とほぼ同じ382万頭、豚に関しては日本の約900万頭を上回る1150万頭が飼育されており、食肉の輸出額はEU最大となっています。 小さな国土でこれだけの家畜が

          オランダ 最大70%の窒素排出削減計画を発表-農業者は強く反発

          【インサイト】畜産業の環境負荷の代償は誰が負担するのがベストなのか

          土曜日なのでインサイトと称して、長めに最近思ったことを書こうと思います。今週注目したいのは、先日発表のあったニュージーランドのカーボンプライシングの件です。 今週ブログでもお伝えした通りですが、ニュージーランドが畜産農家に対して、温室効果ガスの排出量に応じて経済的な負担を求める制度の導入を検討しています。ご存じのように、牛などの反芻動物は飼料を消化する過程でルーメン(第一胃)からメタンが発生します。メタンは非常に強力な温室効果ガスなので、これを問題視して、肉類の消費を抑制す

          【インサイト】畜産業の環境負荷の代償は誰が負担するのがベストなのか

          G7 ウクライナ穀物輸出問題で、ルーマニア経由のルート強化を支援に合意か

          産経新聞の独自報道で「ウクライナ穀物輸出、G7が代替ルート確保へ 露の封鎖回避」という記事が出てきました。 今月下旬にドイツで開かれるG7の首脳会合で、ウクライナ穀物輸出問題をめぐり、G7としての支援策が成果文書に盛り込まれる方針となったとのことです。このウクライナ穀物輸出問題はここ数ヶ月、世界の食料情勢で最も重要な話題であり続けているわけですが、ここ数日にわかに界隈が騒がしくなっているのは、トルコがロシアと共にオーデサをはじめとしたウクライナの黒海沿岸の港からの穀物輸出支

          G7 ウクライナ穀物輸出問題で、ルーマニア経由のルート強化を支援に合意か

          チェコ 政府高官がファーム・トゥ・フォーク戦略に否定的な発言

          EUではEU理事会の議長国を各国が半年ごとに輪番制で務めることになっており、来月からはチェコがこの議長国になります。EU理事会はEUにおける立法や加盟国間での政策調整を行う機関であり、議長国はその立法業務を推進する役割を担います。そして、来月から議長国となるチェコでEU関係事項を所管する政府高官が、ファーム・トゥ・フォーク戦略の実施を遅らせるべきとの発言をしたことがユーラクティブによって報じられました。 この報道によると、この政府高官は、食料安全保障を優先すべきとの立場から

          チェコ 政府高官がファーム・トゥ・フォーク戦略に否定的な発言

          ニュージーランド カーボンプライシングの対象を畜産農家に拡大

          ニュージーランド政府が、牛や羊を飼育する畜産農家に対して、家畜から発生する温室効果ガスの量に応じて、経済的な負担の支払いを求める制度の検討を進めていることが分かりました。 これはいわゆるカーボンプライシングの対象を畜産農家まで拡大させる形で、これまでニュージーランドでは農業から発生する温室効果ガスはカーボンプライシングの対象外とされてきました。しかし、ここにきて同国の基幹産業である畜産業にまで対象が拡大される見込みとなりました。 なお、具体的な価格などは今後検討するものと

          ニュージーランド カーボンプライシングの対象を畜産農家に拡大

          トルコとロシア 黒海沿岸のオデーサからの穀物輸出のための”回廊”確保で合意

          先週もこのブログでお伝えしたトルコによる黒海沿岸からのウクライナ産穀物の輸出再開に向けた仲介の件が、正式にトルコ・ロシア間で合意されたとブルームバーグが報じました。 ブルームバーグの報道によると、この合意では、トルコ軍がオデーサ近海の機雷を除去し、穀物を積んだ商用船舶をボスフォラス海峡方面へと誘導する予定とされています。しかし、当のウクライナ側はロシアとトルコによる会合の場へも参加しておらず、今回の合意でオデーサ周辺が丸腰になることで、ロシア軍がオデーサを攻撃する可能性に強

          トルコとロシア 黒海沿岸のオデーサからの穀物輸出のための”回廊”確保で合意

          【インサイト】 全部を食料自給率で片付けて勝手に悲観するの、やめませんか?という話

          なぜ、こうも悲観的な人が多いのか 私、普段の情報収集ではTwitterを主に活用しています。基本的にTwitterは自分が気になったニュースや情報の整理のために使っているのですが、自分の主な情報収集対象は海外情勢なので日本語でのツイートなどを注意深くチェックすることはあまりしません。 それでも、たまに関連情報というか、自分と同じような食料の話題をツイートしているものが流れてきたりします(アルゴリズムの関係でしょうか)。そうして、たまに流れてくる日本語のツイートを見て思うの

          【インサイト】 全部を食料自給率で片付けて勝手に悲観するの、やめませんか?という話

          FAO 5月の食品価格指数を公表-全体では0.9pダウンも、穀類は3.7pアップ

          6月3日(本日)、FAOから2022年5月の食品価格指数(FPI)が発表されました。 4月のFPI(全体)は過去最高値を更新した3月から1.2p下がって158.3でした(2014年から2016年の平均を100として)。5月も引き続き下落傾向で、全体のFPIは前月から0.9pダウンの157.4となりました。なお、下落傾向にあるとはいえ下げ幅は小さく、前年同月と比較すると依然として29.3p高い状態です。 品目別に見てみましょう。直近の価格高騰を引き起こしている要因は、ウクラ

          FAO 5月の食品価格指数を公表-全体では0.9pダウンも、穀類は3.7pアップ

          ウクライナからの穀物輸出ルート確保に向けて、有志連合が黒海への海軍派遣を検討か

          黒海からのウクライナ産穀物の輸出再開に向けて、トルコが仲介に動き始めたというニュースを昨日はお伝えしました。ですが、これとは別に、一部の国が黒海ルートの再開に向けて、黒海のウクライナ近海への海軍の派遣を検討しているというニュースが報じられ始めました。 通常であれば、輸出されるウクライナ産穀物の90%以上が通過する黒海沿岸の港を使った貿易ルートは、現在ロシアによる海上封鎖の影響で使用できない状態が続いています。この黒海ルートの代替策として、これまでは隣国のリトアニアなどを経由

          ウクライナからの穀物輸出ルート確保に向けて、有志連合が黒海への海軍派遣を検討か

          トルコ 黒海からのウクライナ産農産物の輸出で露宇を仲介か

          ロシア軍による海上封鎖で依然として封じられている黒海沿岸からのウクライナ産農産物の輸出ですが、ここにきて、トルコの仲介によって再開を目指す動きが報じられてきました。 今週月曜日、トルコのエルドアン大統領は、プーチン大統領とゼレンスキー大統領と相次いで会談し、トルコが第三国として黒海の航路の安全を保証する形で、黒海ルートによるウクライナからの農産物の輸出再開を目指す考えを示しました。ロイター通信の報道によると、トルコ側の提案にロシア側は、機雷の除去などによって黒海とアゾフ海の

          トルコ 黒海からのウクライナ産農産物の輸出で露宇を仲介か