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【インサイト】畜産業の環境負荷の代償は誰が負担するのがベストなのか

土曜日なのでインサイトと称して、長めに最近思ったことを書こうと思います。今週注目したいのは、先日発表のあったニュージーランドのカーボンプライシングの件です。

今週ブログでもお伝えした通りですが、ニュージーランドが畜産農家に対して、温室効果ガスの排出量に応じて経済的な負担を求める制度の導入を検討しています。ご存じのように、牛などの反芻動物は飼料を消化する過程でルーメン(第一胃)からメタンが発生します。メタンは非常に強力な温室効果ガスなので、これを問題視して、肉類の消費を抑制することを目的にヨーロッパでは「肉税」の検討がされている国もあります。

各国での肉税議論の動向については、上の記事をご覧ください。

こうした肉税の議論で必ず問題となるのが「消費者が税という形で環境負荷の代償を支払うことが適切なのか?」という点です。確かに「肉類の消費を抑制する」という観点で見れば、肉に税金をかけることはかなり効果的で、その効果を試算した研究もあります(詳しくは上の記事をご参照)。

ただ、その議論は、目的と手段を履き違えてる可能性が高いわけです。なぜなら、そもそも肉税をやるのは、環境保護が目的のはずで、食べる肉の量を減らすことはその手段に過ぎないはずです。もっとも、肉税の目的としては「肉の食べ過ぎでガンになる」というような主張もあり得るでしょうが、今のところ、背景として圧倒的に多いのは環境問題。あるいは、集約型畜産業による感染症リスクでしょう。現に、昨年イギリスでは環境負荷の大きい肉などに税をかけることを政府高官が示唆し大問題になりました。

ということで、畜産業の環境負荷が問題なのであれば、その代償は畜産業自身が支払うべきでは?という主張が出てくるのが自然なのです。これは、いわゆる「拡大生産者責任」の発想に近く、製品のライフサイクルに関する責任を製造者(生産者)自身に負わせるというものです。

ただ、複雑なのは、畜産農家が生み出しているのは食品というある種の生活必需品であり、それの生産には農業政策という形で補助金が出ている場合が多いことです。つまり、畜産業に補助金を出しておきながら「畜産業を続けるなら環境負荷の代償を支払え」というのは少しバランスの悪い話になるのです。

この点、今回のニュージーランドは特殊で、上のロイター報道によると、なんとニュージーランドは1980年代から農業補助金を出していないそうです。なので、比較的、生産者に環境負荷の代償を支払わせるという制度を作りやすいのだと思います。

ですが、日本を含め、多くの国は畜産業に多額の補助金を出しているわけで、そう簡単に環境負荷の代償、経済学で言うところの外部性を農家に負担させる制度設計ができないでしょう。ということでベストなシナリオは何かという点を考えると、やはりEUのようにクロスコンプライアンス制度で環境負荷対策をするということになろうかと思います。つまり、環境負荷対策を補助金支給の条件にするということです。

肉税をめぐる議論はこれからも断続的に話題になると思いますが、その際にはEU型のコントロール手法の可能性に目を向けることが大事なことだろうと思います。

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