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【インサイト】 全部を食料自給率で片付けて勝手に悲観するの、やめませんか?という話

なぜ、こうも悲観的な人が多いのか

私、普段の情報収集ではTwitterを主に活用しています。基本的にTwitterは自分が気になったニュースや情報の整理のために使っているのですが、自分の主な情報収集対象は海外情勢なので日本語でのツイートなどを注意深くチェックすることはあまりしません。

それでも、たまに関連情報というか、自分と同じような食料の話題をツイートしているものが流れてきたりします(アルゴリズムの関係でしょうか)。そうして、たまに流れてくる日本語のツイートを見て思うのは「なぜ、こんなにも悲観的なのだろうか」ということです。

いちいち個別のツイートの詳細は覚えていないので印象論になりますが、だいたい「日本の食料自給率はこんなに低い!」とか「食料危機になって外国が輸出を禁止したらお終いだ!」とか、そんな感じのツイートが目につきます。あと、私はYouTubeで陰謀論系のチャンネルをたまに見たりするのですが(もちろん陰謀論に共感しているのではなく「なんでこんなことを考えているのだろうか」という興味から)、最近YouTubeでも「日本の食料事情は絶望的!」「食料危機に備えろ!」みたいな動画が多いような気がします。

もちろん、ウクライナ危機を受けて、世界の食料価格は急騰していますし、日本でも食品の値上げが相次いでいます。ですから、ウクライナ危機を受けて、世界が食料危機に直面していること自体には同意しますが、だからといって、なぜすぐに「食料自給率の低い日本は、食料危機になったら外国が食べ物を売ってくれなくなるのでお終い」みたいな話になるのでしょう。

食料自給率に食料危機対応の全てを背負わせることの無意味さ

食料自給率が低いことはもちろん問題です。最新の統計によると、日本の食料自給率は37%となっていますから、6割以上(カロリーベース)の食料を日本は外国から買ってきていることになります。この状況が問題であるというのは全くその通りで、少しでも日本の食料自給力を高めるための努力はするべきです。

ですが、この話というのは、すごーく昔からあるわけです。いつから日本で食料自給率の低さが議論されているのかは分かりませんが、一般に日本の食料自給率は「食生活の多様化」によって下がったと言われていますので、少なくともここ10年、20年で新しく出てきた話ではありません。つまり、そう簡単に食料自給率というのは上がらないということです。なぜなら、食料自給率の数値には日本の食料生産環境に加えて、我々の食生活のスタイルが大きく関係しているからです。人間、何を好んで食べるかをそう簡単には変えられません。

何が言いたいかというと、そもそも「食料自給率の向上」というミッションは非常に長期的な作戦にならざるを得ないのに、その問題と短期的な食料危機への対応の話を結びつけていることに違和感があるのです。繰り返すようですが、食料自給率を上げることは非常に大切です。長期的な目線に立って、食料自給率をどうあげられるかという戦略は立てなければなりません。ですが、それと食料危機への対応というのは、扱っているタイムスパンの次元が異なるのではないでしょうか。

この感覚を表す良い例えが思いつかないのですが、簡単にいうと「次いつ来るか分からない食料危機にどう対応するかという場面で食料自給率の話をしても、正直意味なくないですか?」ということです。中長期的に50年先の日本の食の安定を考えて、食料自給率をどう上げるかは議論されるべきですが、もしかすると5年後にやってくるかもしれない食料危機への備えは別の形で議論されるべきです。言い換えると、中長期的な対応と短期的な対応を区別して議論しませんか?ということです。

国際社会と自由貿易の価値を、もう少し信じても良いじゃないか

食料自給率の向上とは別に、我々は短期的に問題が発生したときにどう食料を確保するか?ということを議論しなくてはならないはずです。しかし、どうもそうならない人がSNSなどで見られるのは「食料危機になって外国が輸出を禁止したらお終いだ!」という説への信用度が高いからだと思います。

確かに、食料危機になって、本当にどの国も食料の輸出を止めるという想定が正しいのなら、日本の食の将来は驚くほど暗いものになるでしょう。だって、日本は食料自給率が低いのですから。そうなると、コトの責任を食料自給率に押し付けて「日本はお終いだ!」と言いたくなります。

ただ、こんなシナリオはあまりにも悲しすぎませんか。悲観的すぎるじゃありませんか。もう少し、前向きな話にならないのか考えてみたいじゃないですか。

ということで「食料危機になったら外国は食料の輸出を止めるのか」という部分を考えてみます。たしかに、感染症の流行や気候変動、さらには国際政治の危機にも直面している現代国際社会において、何らかの理由で通商が止まることは十分にあり得ます。現に、コロナ禍やウクライナ危機で食料、飼料、肥料と色々なものの流通が滞っています。ただ、世界屈指の穀物地帯であるウクライナが全面戦争に巻き込まれてもなお、少なくとも日本は飢えに苦しむような事態にはなっていないことも事実です。

これは前回のインサイトでも書いたことですが、侵攻下にあっても、ウクライナはEUをはじめとした国際社会の支援を受けて、なんとか食料の輸出を継続しています。また、ウクライナからの輸入小麦に依存していた中東やアフリカ諸国では食料不足が深刻になっていますが、これに対しても国連を中心とする国際社会が支援を続けています。

別の角度から言えば、食料インフレの進行で一時は食用油の禁輸措置をとったインドネシアも、結局は国内からの反発が強くなり、早々に措置を解除しました。この顛末は以前のブログで詳しく書きましたが、この一件は高度に国際分業が進んだ現代社会で、禁輸措置をとることは簡単でないことを示していると思います。

たしかに、これから食や農にまつわるサプライチェーンがなんらかの理由で停滞することはあり得ます。ですが、その原因が世界大戦などではない限り、国連などを中心とする国際協調と自由貿易体制のメカニズムによって、致命的なダメージを受けることは回避できるのではないでしょうか。もちろん、行きすぎた自由貿易体制には問題点もありますが、その価値も認めるべきです。

ですから、我々は第二次世界大戦後の世界が築き上げてきた、国際協調と自由貿易の価値をもう少し信じてみるべきだと思うのです。そして、その一方で、国際通商に問題が発生しないための短期的な対策と、長期的な食料自給率向上のための施策に取り組むことが、日本の食料事情に向き合う「現実的な態度」ではないでしょうか。

私はこの思いのもと、食にまつわる世界の動向を引き続き発信しながら、日本の食料自給のあり方を考えていきたいと思います。

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