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UIデザイナーが知るべき知的財産権のこと。真似させない、真似しないための必須知識をプロが解説!

みなさん、こんにちは。
私は、東芝デザイン部門で、デザインのオリジナリティを権利で守る仕事(他人に真似させないし、自分も真似しないこと!)などをしています。

UIデザインというと、快適なUXを創り出すために見た目や操作性を考えることがすべて、と思われがちですが、実はそれだけではありません。デザインは、企業としての狙いやデザイナーの想いがこめられたひとつの作品ですから、他の会社などに真似されないように、そのデザインのオリジナリティを守る必要があり、そのために「知的財産権」という制度があります。皆さんも一度はお聞きになったことがあるのではないでしょうか。UIデザインのオリジナリティを守るための権利を取得したり、他人の権利に似ていないかを調べたりといったことも、デザインの仕事の一部なのです。
今回はそういった、UIデザインにまつわる「知的財産権」という制度についてお話ししてみたいと思います。



プロのUIデザイナーが気をつけるべきこと

デザイナーがUIをデザインする際に、UXや審美性に加えて、気を配っていることは何でしょう? それは、他人の真似をしないことです。「他人の真似」は知的財産権で取り締まられます。真似をしない、なんて当たり前のようですが、真似したつもりがなくても真似したことになってしまうこともあり得るので、注意が必要なのです。
さて、「知的財産権」とは何でしょう? 特許庁のホームページを見ると、「人間の幅広い知的創造活動の成果について、その創作者に一定期間の権利保護を与えるようにしたのが知的財産制度」と書かれています。具体的には、アイデア、デザイン、マーク、表現などが知的財産権で守られます。

では、UIデザインは知的財産権でどのように守られると思いますか?
例えば、機能や操作方法が新しいアイデアだったりすれば、それは「発明」と認められ、「特許権」で守られる可能性があるし、そのアプリに名前がついていれば、アプリ名が「商標権」で守られます。場合によっては、UIの一部がマークとして商標権で守られることになるかもしれません。
でも、何と言ってもUIに一番関係する知的財産権は、デザインを守る「意匠権」と表現を守る「著作権」でしょう。


【意匠権】デザインを守り、真似されないための権利

「UIデザインが意匠権で守られる」というのは、当たり前に聞こえますが、実は、画面デザインが日本で意匠権によって守られるようになったのは歴史が浅いのです。日本では、意匠権はもともと「モノのカタチ」を守る制度だったので、画面デザインは長らく「モノの一部」としてのみ守られてきました。以前はATMのような専用機器の画面デザインのみが意匠登録の対象とされてきましたが、2016年からはPCに表示される画面も対象となり、2019年にようやく「画像意匠」として画面デザインそのものが登録できるようになりました。
デザイナーが創った画面デザインが意匠権として登録されれば、それは自社だけが使える画面デザインとなり、他人は真似ができません。企業としての狙いやデザイナーの想いを、自社の財産として守れます。

「画面デザインが権利として守られる」ということは、自分のUIデザインと同様に他人のUIデザインも守られるということです。だから、「真似されない」だけでなく「真似しない」ことにも気を配る必要があります。真似しない、つまり、他人のUIデザインに関する意匠権を侵害しないためには、デザインを世に送り出す前に、似かよった意匠権がないかを調べる必要があります。

デザインは、特許庁に「意匠登録してほしい」と出願して、審査を無事に通過すると権利として登録され、それを特許庁が一般に公開します。自分のUIデザインと似た権利がないかは、この公開された意匠登録を調べることで発見できます。真似したつもりが全くなくても、他人が権利を持っているデザインに似たものを作ってしまうと、権利を侵害したことになってしまいます。万が一、他人の意匠権を侵害してしまうと、そのUIデザインは使えなくなってしまいますし、場合によっては損害賠償金を払わなければならない、なんていうことにもなりかねません。そんなことにならないよう、前もって調べることが大事になってくるのです。さらに、意匠登録の状況を調べることによって、その業界の製品動向が見えてくることもありますので、マーケティングリサーチ的な効果も期待できます。


【著作権】下書きでも法律で守られる!?

もう1つ、UIデザインに大きく関係する知的財産権として、「思想又は感情を創作的に表現したもの(これを「著作物」といいます)」を守る著作権があります。例えば、オリジナリティを持って描かれた絵などが、著作権で守られます。著作権は、意匠権と違って、登録することは必要ありません。完成したUIだけでなく、試作段階の下書きやスケッチでも著作権が発生するのです。だから、意匠登録をしていないデザインでも、著作権では守られる可能性があります。

一方で、権利発生のための登録が不要なため、著作権侵害をしないための調査をしたくても、誰がどんな著作権を持っているか、すべてを調べることはできません。ただし、著作権侵害が成立するには、問題となった他人の著作物(著作権の対象となるスケッチなど)について、「それを見たこと」「それに似ていること」の両方の条件を満たす必要があります。仮に、他人と自分の著作物が似ていたとしても、他人の著作物を見ておらず、偶然の一致だったら著作権侵害にはならないということです。ここが、意匠権とは大きく違うところです。でも、「見ていない」ことを相手方(問題となった著作物の権利者)に納得してもらわないといけないので、「見ていない」ことにどれくらい信ぴょう性があるか?が重要です。「これは●●社のデザイン」と世の中に知られている場合は、それを「見ていない」と主張しても信じてもらうのは難しくなります。

さらに、有名なデザインに似てしまっていた場合は、「不正競争防止法」という法律の問題になることもあります。多くのデザイナーやデザイナーを志す人は、オリジナリティがあるものを生み出すことを目指しているので、これを読まれている方も、意図して他人のデザインと似かよったものにすることはないでしょう。でも、他人のものとして世の中によく知られているようなデザインには近づけないよう、特に気をつける必要がありますね。


さいごに:様々な方面に気を配りながら創られるUIデザイン

ここまで、デザインが権利で守られる!という話をしてきましたが、どんなデザインでも必ず権利で守られる訳ではありません。意匠権も著作権も、「誰が創ってもこうなるよね」というようなオリジナリティに乏しいデザインは、権利として守られない場合もあります。企業にとっては、自社の権利として独占できなくて残念でも、「誰が創ってもこうなる」UIということは、誰にとっても分かりやすくて一般的な表現のUIとも言えるので、ユーザーにとってはありがたいことで、そういうUIが必要とされる場面もあるかもしれません。

ちょっと難しい話になってしまいましたが、今回は、UIデザインについて少し違う視点からお話してみました。自分のデザインを権利で守って真似されないこと、他人の権利を尊重して真似しないことを心掛け、ユーザーにとっての分かりやすさを置いてけぼりにすることもないように、デザイナーは様々な方面に気を配りながらUIをデザインしているのです。

最後まで読んで頂いてありがとうございました!

ライター:和田

東芝UIデザインチーム公式HP