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男はつらいよと渥美清

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寅さんについて、男はつらいよについて、これまでの発表原稿からピックアップしていきます。
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寅ちゃんとなら〜『男はつらいよ 寅次郎夢枕』(1972年12月29日・松竹・山田洋次)

寅ちゃんとなら〜『男はつらいよ 寅次郎夢枕』(1972年12月29日・松竹・山田洋次)

文・佐藤利明(娯楽映画研究家) イラスト・近藤こうじ

 この『寅次郎夢枕』は、公開日の昭和四十七(一九七二)年十二月二十九日、父と銀座松竹で観ました。小学三年生の暮れでした。当時、足立区に住んでいたぼくは、仕事納めで会社を早仕舞いした父と東銀座で待ち合わせ。一人で、バスと東武線、営団地下鉄日比谷線を乗り継いで、東銀座駅まで向かったことをよく覚えています。銀座松竹は、洋画のロードショー館・松竹セン

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第八作『寅次郎恋歌』の背景 『男はつらいよ 寅次郎恋歌』(1971年12月29日・松竹大船・山田洋次)

第八作『寅次郎恋歌』の背景 『男はつらいよ 寅次郎恋歌』(1971年12月29日・松竹大船・山田洋次)

文・佐藤利明(娯楽映画研究家) イラスト・近藤こうじ

 一九七〇年代はじめ「男はつらいよ」を上映している映画館は、すごい熱気に包まれていました。立錐の余地もない劇場内のドアが閉まりきらず、通路には人が溢れ、寅さんの一挙手一投足に歓声があがっていました。小学生だったぼくは、一緒に来ていた父から離れ、その人の波を掻き分けて、少しでもスクリーンが見えるポジションを確保するために懸命でした。寅さん、おい

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夏になったら啼きながら、必ず帰ってくるあの燕さえも… 『男はつらいよ 寅次郎心の旅路』(1989年・松竹・山田洋次)

夏になったら啼きながら、必ず帰ってくるあの燕さえも… 『男はつらいよ 寅次郎心の旅路』(1989年・松竹・山田洋次)

文・佐藤利明(娯楽映画研究家) イラスト・近藤こうじ

 毎年、お盆とお正月、必ず「男はつらいよ」シリーズが封切られて来ました。クオリティを維持しながら、年に二作も、新作を撮るということは、とてつもないことだったと、シリーズを振り返るたびに、ぼくは思います。

 思い起こせば第一作が昭和四十四(一九六九)年八月二十七日の公開、その翌昭和四十五(一九七〇)年八月二十六日には第五作『望郷篇』が封切られ

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生きてりゃ、いいこときっとある『男はつらいよ 寅次郎物語』(1987年・松竹・山田洋次)

生きてりゃ、いいこときっとある『男はつらいよ 寅次郎物語』(1987年・松竹・山田洋次)

文・佐藤利明(娯楽映画研究家) イラスト・近藤こうじ

 後期「男はつらいよ」シリーズのなかで、車寅次郎という人物の生い立ちから、その心情にまで寄り添ったという点でも、第三十九作『寅次郎物語』は、ぼくも大好きな作品です。

 公開された昭和六十二(一九八七)年は、バブル経済まっただ中、毎日が躁状態という感じで、今思えば不思議な時代でした。イケイケのお姐ちゃんたちが街を闊歩し、六本木や麻布にはブラン

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幸福の青い鳥をもとめて『男はつらいよ 幸福の青い鳥』(1986年・松竹・山田洋次)

幸福の青い鳥をもとめて『男はつらいよ 幸福の青い鳥』(1986年・松竹・山田洋次)

文・佐藤利明(娯楽映画研究家) イラスト・近藤こうじ

 この年、昭和六十一(一九八六)年の夏、山田洋次監督は、松竹創業九十周年記念映画『キネマの天地』を演出したため「男はつらいよ」は一回、お休みしたのです。後に、年一作となるわけですが、この頃の感覚だと「一年ぶりの寅さん」満を持して登場でした。

 今回は、第八作『寅次郎恋歌』の冒頭、下田の漁港(設定は高知)で雨の降る、とある秋の日に、寅さんが出

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愛ってなんだろ? 『男はつらいよ 柴又より愛をこめて』(1985年12月28日・松竹・山田洋次)

愛ってなんだろ? 『男はつらいよ 柴又より愛をこめて』(1985年12月28日・松竹・山田洋次)

文・佐藤利明(娯楽映画研究家) イラスト・近藤こうじ

 タコ社長の娘・あけみ(美保純)は、シリーズ中期を支えた重要なキャラクターの一人です。第三十三作『夜霧にむせぶ寅次郎』で結婚をし、第三十四作『寅次郎真実一路』では早くも夫婦喧嘩、第三十五作『寅次郎恋愛塾』ではワーカホリックの夫と「喧嘩のタネもない」と愚痴をこぼしています。実の父親を「タコ」呼ばわりし、その奔放な言動や行動が、ちょっとした台風の

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旅の仲間、寅さんとポンシュウ 『男はつらいよ 寅次郎恋愛塾』(1985年8月3日・松竹・山田洋次)

旅の仲間、寅さんとポンシュウ 『男はつらいよ 寅次郎恋愛塾』(1985年8月3日・松竹・山田洋次)

文・佐藤利明(娯楽映画研究家) イラスト・近藤こうじ

関敬六さんが演じるポンシュウは、シリーズ後期を彩った名物キャラクターです。寅さんのテキ屋仲間にして、旅を共にする渡世の相棒です。寅さんの旅の仲間といえば、川又登(津坂匡章、後の秋野太作さん)が思い出されますが、登は寅さんを兄貴と慕う舎弟でした。その登も第十作『寅次郎夢枕』での奈良井宿での別れを最後に、姿を見せなくなりました。それから、寅さ

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宇宙大怪獣あらわる〜『男はつらいよ 寅次郎真実一路』(1984年12月28日・松竹・山田洋次)

宇宙大怪獣あらわる〜『男はつらいよ 寅次郎真実一路』(1984年12月28日・松竹・山田洋次)

文・佐藤利明 イラスト・近藤こうじ

「あってはならない事が起きてしまいました。今まで映画でしか観た事がなかった怪獣が、本当に現れたのです。信じられない事件が、今年は随分あったけど、ああ、ついにこんな事が起きてしまいました」

 レオナルド熊さんのオーバーなナレーションで始まる、第三十四作『寅次郎真実一路』の夢には、なんと大怪獣が出現! 吉田茂のような宰相に扮したタコ社長と、なぜか軍服姿の官房長官

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門前の寅さん、習わぬ経を詠む・・・『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』(1983年・松竹・山田洋次)

門前の寅さん、習わぬ経を詠む・・・『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』(1983年・松竹・山田洋次)

文・佐藤利明(娯楽映画研究家) イラスト・近藤こうじ

 初めて『男はつらいよ』をご覧になる方に、「何から観ればいいでしょう?」とご質問を受けることが時々あります。シリーズ全作をご覧になりたい、という方には迷わず第一作『男はつらいよ』(一九六九年)をオススメします。全く予備知識がなく映画を楽しみたい、という方には、いつも第三十二作『口笛を吹く寅次郎』をご紹介しています。その理由は「幸せな気分になれ

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“花も嵐も踏み越えて”往くが男の寅次郎!『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』(1982年・松竹・山田洋次)

“花も嵐も踏み越えて”往くが男の寅次郎!『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』(1982年・松竹・山田洋次)

文・佐藤利明(娯楽映画研究家) イラスト・近藤こうじ

 昭和四十四(一九六九)年にスタートして十三年。毎年、お盆と正月に封切られて来た「男はつらいよ」が第三十作を迎えました。この時はちょっとしたお祭り騒ぎでした。松竹宣伝部は記念のトランプやグッズを作り、夢のシーンに特別出演したSKDの踊子さんたちが、「TORASAN! 30!」と掛け声をかける特報が、映画館やテレビから流れていました。と、ファン

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寅さんとかがり、男と女の恋…『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』(1982年8月7日・松竹・山田洋次)

寅さんとかがり、男と女の恋…『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』(1982年8月7日・松竹・山田洋次)

文・佐藤利明(娯楽映画研究家) イラスト・近藤こうじ

 寅さんは旅人です。タンカ売をしながら、祭から祭へと、さまざまな土地を旅しています。第二十九作『寅次郎あじさいの恋』の冒頭、信州で寅さんは、絵を描いているおじさん(田口精二)に、「懐かしいって、どう書くのかい?」と質問、結局、その人に柴又へのハガキを代筆してもらいます。この回のタイトルバックは、変則的です。主題歌の一番が終わっての間奏が、新た

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帰去来〜さまざまな出逢い、さまざまな人生…『男はつらいよ 寅次郎紙風船』(1981年12月29日・松竹・山田洋次)

帰去来〜さまざまな出逢い、さまざまな人生…『男はつらいよ 寅次郎紙風船』(1981年12月29日・松竹・山田洋次)

文・佐藤利明(娯楽映画研究家) イラスト・近藤こうじ

 寅さんは旅先で、様々な人と出逢い、ひととき過ごして、別れ行きます。出逢いの数だけ人生があります。寅さんがタンカ売で、運命判断を得意としているのは、様々な人生に触れることが多いからかもしれません。第二十八作『寅次郎紙風船』で、寅さんは二人の対称的な女性と出逢います。彼女たちからすれば、人生の一番大事なとき、辛いときに、関わった男性が、寅さんと

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寅さんは、学校で楽しくお勉強…『男はつらいよ 寅次郎かもめ歌』(1980年12月27日・松竹・山田洋次)

寅さんは、学校で楽しくお勉強…『男はつらいよ 寅次郎かもめ歌』(1980年12月27日・松竹・山田洋次)

文・佐藤利明(娯楽映画研究家) イラスト・近藤こうじ

 昭和五十五(一九八〇)年末に公開された『寅次郎かもめ歌』と同時上映の前田陽一監督の『土佐の一本釣り』は、それまで「寅さん映画」とは縁遠かった若者たちで映画館が満員でした。

 その一年半前、「普通の女の子に戻りたい」と解散、引退したキャンディーズの蘭ちゃんこと伊藤蘭さんが「寅さん」に、スーちゃんこと田中好子さんが併映作にそれぞれ出演。強力な

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燃えるような恋がしたい〜『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』(1980年・松竹・山田洋次)

燃えるような恋がしたい〜『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』(1980年・松竹・山田洋次)

文・佐藤利明(娯楽映画研究家) イラスト・近藤こうじ

 第十一作『寅次郎忘れな草』で、北海道は網走で出会った、二人の渡り鳥は、時には寄り添い、時にはケンカしながら、ゆっくりと物語を紡いできました。第十五作『寅次郎相合い傘』では、寅さんは、他のマドンナには絶対見せないような甘えをリリーには見せたり。観客は、この二人にうまくいって欲しい、そう思ってきました。もちろんさくらや博もです。

 だから第十

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