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創発的戦略と進化論との共通点

 経営学を専攻しており、かつ戦略論や組織論に興味がある僕は、よく経営学や軍事学の書籍を読むことが多い。また、最近、人間の購買行動や意思決定における非合理を研究する行動経済学が注目されていることもあり、それに関しても勉強していた。その過程で、以前から注目していた進化生物学や進化心理学というものに触れることになった。それらの分野の書籍を読んでいく中で、それらの分野から得た知見と経営戦略が重なる部分があったので、述べていきたいと思う。


 異端の経営学者と呼ばれる学者に、ヘンリー・ミンツバーグがいる。彼は戦略を大きく2つに分けた。以下がそのまとめである。

計画的戦略:将来を予測し、見通しを立てた上で、実行する戦略。
     (意図された戦略)
創発的戦略:行ったことを後から振り返ると、見えてくる戦略。
     (実現された戦略)

 一般的に、将来がある程度予測可能な安定した状況や、変化が緩やかな状況においては、計画的戦略が望ましく、一方で、不確実性が極めて高く、かつ変化の激しい環境においては、予測や分析の結果は往々にして、実態とは乖離するので、逐次フィードバックを回収し、その時々の環境に対応する創発的戦略が望ましいと考えられている。この2つの戦略は共に良し悪しがあるので、実際の戦略策定においては常にこの2つを掛け合わせる必要があると、ミンツバーグは主張している。


 ここからは、この創発的戦略が、実は生物の生存戦略や進化の過程に非常に似通っていることを述べていきたい。

 進化の過程において、生物は非常に長い時間を通して、漸進的な進化を繰り返す。まず進化の過程で、ある時、突然変異を起こす個体が偶然生まれる。大抵は突然変異を起こした個体は、その環境においては不利になることが多く、往々にして淘汰される。しかし稀に、現環境に非常に有利な、あるいは環境が激変したことで生じた新たな環境において、非常に有利な個体が生じる。そしてその個体は結果として生存し、その個体が次世代へと受け継がれてゆく。そしてしばらくすると、その個体の持つ特徴を下地として、また新たな突然変異が生じる。その中で結果的に環境に適応した個体が生き残る。つまり進化とは、非常に長い期間の中で、生物が突然変異を起こし続け、環境による淘汰(自然淘汰)の中で生き残った個体だけが、次世代へと受け継がれてゆく歴史そのものを表す。

 この際、生物は何の目的も持たず、偶然変異が起きている。また、環境に意識などないので、環境に偶然適応した者だけが自動的に選別されていく。この一連の過程を、進化生物学者であるリチャード・ドーキンスは、”盲目の時計職人”と呼んでいる。そしてその過程を後から振り返ると、まるで一つの軌跡が存在するように見えるのだ。しかし最初から生物が、現在に至るまでの一連の環境変化を予測した上で、戦略を練ったわけでは断じてない。これはまさしく先程のミンツバーグの創発的戦略に似ている。そして、創発的戦略を行う企業と、進化の過程における生物が置かれている環境は共に、激しい変化と高い不確実性に満ちているという点で一致している。


 現代の政治や経済が置かれている環境は、非常に変化が激しく、先行きも見えない。度重なるイノベーション、人々の価値観の変化と多様化、拡大するグローバル化。これらの中で、完璧に状況を分析し、将来を予測することはほとんど不可能だろう。もちろんある程度の目的や大まかな戦略は必要だ。しかし、ガチガチに計画を立てても、その間に状況は一変する。また、予測も本人が気づかないうちに願望に代わってしまう。何より、いつまで経っても実行に移せずに終わってしまうだろう。その点において、現在僕達が置かれている環境は、ある意味厳しい自然環境に非常に似ている。それ故今こそ、僕達人間も含めた生物の歴史から学ぶことは多いのではないだろうか。


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