「難読出版社名一覧」を作る過程で気がついたことと出版社のユニークIDの提案

前置き

近刊検索デルタというWebサイトを仕事とは別にひとりで運営しています。

なぜこんなWebサイトを作ったかですが、以前、出版業界で横断的に書誌情報や近刊情報を収集・整備するための業界団体の委員だった時期があり、そこで収集した近刊情報の活用の実際を自分で体験してみたかったというのが最大の理由です。同時に、関係各位に紹介できるような実例が欲しかったというのもあります。それまでなんとなく触れていたXMLやSQLやPHPなどを改めて勉強し直せたのは本当にいい機会でした。

近刊検索デルタ以外にも「でる★まん」「重版出来ですYO!」「我が社の一冊」「店頭在庫確認リンク」「CcodeRR」「vslip」「open_bib」「写真集の館」なども動かしています。どれも素人が頑張って作った範囲を超えてはいませんが、そこそこ重宝していただいている例もあるようです。

それらのWebページではサイト管理の費用などのためにアフィリエイトで小銭を稼いでいます。諸事情で収入が減った昨今では小遣い程度でも貴重な副収入となっております。ありがとうございます。

今回、近刊検索デルタにぶら下がる形で「難読出版社名一覧」というページを作りました。ご活用ください。

近刊検索デルタopenBD経由で参照しているJPROの近刊情報には「出版社名のヨミ」が登録されていません。ですので、「難読出版社名一覧」で表示されている「出版社名ヨミ」は検索などしながらちまちま入力したものです。「出版社名ヨミ」は近刊検索デルタの個別書誌情報ページでも表示されるようにしました。近刊検索デルタの個別書誌情報ページでは「書名」「著者名」のヨミも表示されます(JPROに入力されているものに限る)。ご活用ください。

ここまで長い前置きで、ここからが本題です。

なぜ、難読出版社名一覧を作ったか

私は30年以上前に複数の書店でバイト経験があります。最後は客注担当でした。店頭でのお問い合わせは多岐に渡りますが、お客様が書名や著者名を間違えて記憶されたままお問い合わせをいただくことも多々ありました。読み間違い系だと『ゲゲゲのおに太郎(正解は、ゲゲゲの鬼(き)太郎)』、記憶違いだと『サラダ日記(正解は、サラダ記念日)』、思い出せないアレだと『食べ物の名前の付いた、ほら、月に2回出てる若い男の子向けの雑誌(正解は、ホットドッグ・プレス)』といった具合です。なかでも困るのは「読めない出版社」でした。バイトを始めた頃の難読出版社名といえば「奢霸都館」や「青蛙房」「弓立社」「枻出版社」「而立書房」「径書房」などでしょうか。読めないとお客さんから怒られるし電話番号など連絡先を調べることもできないしで散々でした。当時はまだネット検索などできません。そういう時、取次が出していた「取引出版社名簿」に掲載されていた「難読出版社名一覧」には随分と助けられました。何度も目を通すうちになんとなくでも覚えてしまうとすうっと仕事が楽になったことを思い出します。

さて、取次は「取引出版社名簿」の刊行を終了してしまいました。

「取引出版社名簿」が刊行されなくなることによって考えられる問題の一部については上記の記事で触れています。

上記の記事で触れた問題の他に、あの懐かしい「難読出版社名一覧」が失くなってしまうという問題に最近になって気が付きました。読めない出版社は以前と比べて増えているのか減っているのか定かではありませんが、無くなると寂しい、だけでなく、書店や取次の新人は困るんじゃないでしょうか。

ということで、難読出版社名一覧を作ることにしました。

以前から出版社名ヨミはちまちま入力しており、徐々に活用も始めてはいました。今回、改めて出版社名ヨミを調べる過程で気がついたことがあります。それについて続けます。

出版社名ヨミは網羅されているか

「そもそも出版社とは何か」というところから始めるとものすごく大変な話になります。JPROでデータのフォーマットを確定する際にも大いに問題になった点です。ですので、そこはとりあえず「JPROに出版社名として登録された名前」というところから始めます。現状の実際としてこれは「アマゾンで「出版社名」として表示したい名前」ということになります。

さて、それではその出版社名のヨミはどこかにまとまっているのでしょうか。

現状、出版社名の「ヨミ」を最も網羅的に収集しているのは日本図書コード管理センターです。日本図書コード管理センターでは希望する事業者(個人含む)にISBNの「出版者記号」を付与しています。その際、出版者名のヨミが必須となります。

上記、「出版者」としていますが、これには理由があります。ISBNコードの登録出版者は取次や書店が考える「出版社」とは違う概念です。ISBN出版者記号の取得は個人でも可能なのです。なので日本図書コード管理センターでは明確に「出版者」として表記しています。

問題はここからで、先に触れた「アマゾンで「出版社名」として表示したい名前」はISBNコードの登録出版者に限らないという現実です。発行・発売や口座貸しの問題とも絡んでいますが、とにかく、日本図書コード管理センターに登録された出版者=出版社ではないだけではなく、日本図書コード管理センターに出版者として登録されていない出版社が山ほどあるというのが現実なのです。こうなると「出版社名のヨミは日本図書コード管理センターで調べたらいいんだよね」とも言い切れません。一番網羅的な日本図書コード管理センターですらこれということは、もう既にほぼお手上げということです。難問です。「じゃあもうアマゾンで「出版社名」として表示したい名前のヨミで統一でいいんじゃない」と言われても、アマゾンに出版社名のヨミって登録されていますか? それ以前の課題として出版社名自体の管理にはアマゾンもかなり苦労しているはずです。この問題はこの項の冒頭で触れた「そもそも出版社とは何か」という問いと密接に関連しており一朝一夕で解決できるとは思えません。

(広義の)自費出版の拡大

今回、出版社名ヨミを調べる過程で驚いたのは、自費出版の拡大です。ここで言っている自費出版には、従来とは違う形態が含まれます。

従来型の自費出版は一般的に著者≠出版社(者)でした。文芸社を代表とする専業も相変わらず盛況ですが、大手中小問わず以前は自費出版に携わっていなかった出版社が事業や収益の多角化として取り組んでいる例も少なくありません。

ここ(著者≠出版社)での「従来とは違う形態」は、電子書籍やPODを主とした自費出版です。「紙の書籍を書店にある程度のボリュームで並べる」ためには制作費だけでなく流通や在庫に関連した費用も発生します。なので、書店店頭に並ぶことをめざす従来型の著者≠出版社の自費出版は費用が膨らみます。ですが、電子書籍やPODを主とした自費出版の場合は制作・流通・在庫管理等々の費用が大幅に圧縮できます。かつての自費出版とはまったく違う次元のコスト感覚で出版活動が成立するのです。広告宣伝・販売促進に関してもネットが中心となる電子・PODでの広告宣伝・販促は、取次やリアル書店への働きかけとはまったく別物です。PODと言ってもここで述べている著者≠出版社の自費出版は実質的にアマゾンの電子書籍(kindle)とアマゾンPODが対象です。つまり、電子もPODもネットで宣伝してネットで売るわけで、ネットでの販促が前提となるのは当然ということになります。

従来とは違う形態の自費出版の拡大として注目すべきもうひとつの変化は、従来のひとり出版社からの変化です。かつての「ひとり出版社」の多くは著者≠出版社で、かつ、書店での販売を前提としていました。著者が費用を負担するという意味での自費出版を扱っている場合もありますが、大手の出版社と同様に独自に企画を立て著者を探して出版に至るという社も少なくありません。現在、この「ひとり出版社」では、著者=出版社(者)という例を多々見かけます。JPOの「シングルコード」の影響もあるかも知れません。もちろん著者(発行者)=出版社(者)という例は過去にもありました。ですが、こちらも電子やPODを前提としてリアル書店での販売を行わなければ費用と手間を大幅に圧縮できます。KDP(kindle Direct Publishing)やアマゾンPODを前提としたひとり出版社がその枠から飛び出そうとしていることであればこれから確実に増えます。そういう意味では「小説家になろう」「KAKUYOMU」「エブリスタ」「pixiv」などの投稿サイトからの「マネタイズ」を考えた延長とも言えそうです。

で、話を戻すと、(広義の)自費出版の出版社名ヨミについては現状網羅的に収集できているところはありません(ISBNの登録出版者としてのひとり出版社の場合は日本図書コード管理センターで確認できます)。

出版社のユニークIDの提案

正直、ここで提案しても実現するとはまったく思っていませんが、今回出版社名ヨミを整理する過程で「これはユニークID(一意の値)として使える(かも)」という項目があったので、いちおう提案しておきます。

それは、出版社のWebサイトのURLです。

XMLはタグを自由に定義できますが、複数のXMLが混在した際の混乱を避けるために「XML名前空間」というユニークIDを持つことができます。「XML名前空間」にはURIが記述されます。URIはWebサイトのURLとほぼ同義です。

出版社のユニークIDとしてWebサイトのURLを使うのはありじゃないでしょうか。

難読出版社名一覧を作る前提となった出版社名のヨミは、出版社名をユニークIDとするテーブルに保存されています。ここで困るのは、JPROからの書誌情報に出版社名表記の揺れがある場合です。アルファベットやカナの全角半角、前株後株といった程度であれば機械的に処理できますが、出版社名が間違っていたりするとお手上げです。現実にはけっこうあります。URLであればそうした問題はかなり減らせるはずです。複数の「出版社」に口座を貸していたりインプリントを抱えたりといった場合もそれぞれの「出版社(インプリント)」をURLで管理できれば問題は一気に解決です。URLの変更も考えられますが、ちゃんとリダイレクトが設定されていればある程度までは自動で対応できます。

ここで問題になるのは、今どきWebサイトを持っていない出版社がそこそこあるという事実です。名刺代わりの簡単なサイトを無料で置いておくだけでも充分なのですが、それすらやっていない出版社、実はけっこうあります。

ですが、そこはもう頑張ってもらって、それこそFacebookでもTwitterでもInstagramでもなんでもいいから公式をひとつ用意してもらって、それで解決ということでいかがでしょうか。

自由な出版活動というのは出版社(者)であることの自由の上に成立しています。取次口座やISBNコードの取得が大変だから出版活動が出来ないなどということは一切ありません。出版は監督官庁も無ければ資格も不要の自由な営為として存在しています。ですので、中央集権的なあり方にはどうしても限界があります。

ネットの自由度と出版の自由度は似ています。極端な主張であっても門前払いということはありません。ですから、WebのURLをユニークIDとして使うというのは、自由度の類似から言っても、決して無理な話ではないと思います。

最後に若干蛇足を。

次に無くなるのは取次広報誌?

取次は「取引出版社名簿」の他に「取次広報誌」と呼ばれる冊子も定期的に刊行しています。近刊情報などをまとめたものですが、こちらもいつまで刊行が続くかわかりません。「取次広報誌」には折込の「コミック刊行一覧」「文庫・新書刊行一覧」が入っています。これは網羅的な情報源として非常に重宝されているので、なくなると困る書店も多いはずです。取次各社は「取引書店向けのWebサイトでの情報提供」を掲げてはいます。ですが、個々の書店にとって使いやすいサイトの構築は進んでいるのでしょうか。出版社側からはこのあたりまったく見えておりません。

その辺を意識して、まずは以前から公開していたコミックだけの近刊一覧「でる★まん」を手直ししています。具体的には発売日別や出版社(五十音別)などの表示を見やすくするなどです(出版社名ヨミを活用しています)。同じような仕組みで文庫や新書の発売日別・出版社別一覧も制作可能です。ニーズはあるとは思うので、おいおい作っていこうと思います。


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