味噌屋の四代目
ウダタクオとバンによるユニット
作:ウダタクオ 2006年10月04日 倉庫内作業 派遣のメンバーは各チームごとにそれぞれ分けられていった。全員で8人いた。 誰のことも知らないし、もちろん誰も私のことなんか知らない。分かれたところで何も変わらない。 それぞれの人生を歩んでいるだけだ。垂れ流した糞みたいに。 今朝も雨が降っている。 私はチームの車に乗り込んだ。車種は箱バンで確か日産のキャラバンだ。紺色のモンスターだった。 運転手はまだいなかった。皆が煙草をふかしていたので車内
作:ウダタクオ 2006年10月01日 マッチ売りの少女 私はプラカードを持っていた。いつもの事だ。 今日に限ってだ、雨が降りだしてきた。 そうだ、だからあいつは私にレインコートを渡してきたのだ。 雨が降っている。東京は雨が降っている。 レインコートなんか私は着ずに、傘をプラカードに紙で縛り付けてそのままパイプ椅子に坐っていた。 なかなかの名案だった。要らない用紙がなぜかバックの中に何枚もあり、そいつを適度な幅まで折り紐のように傘を棒に
作:ウダタクオ 2006年09月30日 歌舞伎町弁財天 遠くの方で祭りの音がしていた。私はビラを撒いている。糞を垂れ流したような仕事だった。 ウォシュレットを10回払いのローンで購入できるのなら、早く洗い流してしまいたい。 笛やら太鼓やらの音が次第に近付いてくる。私はビラを撒いている。 和音の旋律はどこか懐かしく心が和んでいく、仕事している場合じゃない。私はコンビニへ行き焼き鳥を買うとその音色の中でそいつを食った。意識は祭りに参加していた。 的屋になりた
作:ウダタクオ 2006年10月24日 ロック・デ・ナッシング 問題は今日の雨だ。でも、行かなくちゃ・・・仕事に。 私はこの日を少し楽しみにしていた。初めてやる仕事なのだ。都会では自殺する若者が増えている。そんなことは関係ない。行かなくちゃ・・・カチカチやりに。 朝早くに家を出た。電車を乗り継いで大崎の駅ビルへと私は向かった。まだ時刻は朝の6時にも辿り着いてないというのに、なぜ座れない?たぶん、それは「日頃の行い」なんだろう。そこに理由はないんだろう。座れないか
作:ウダタクオ 2006年11月17日 思春期の女 高知の夜は長い。親が厳しい私の様な学生には。 門限は七時。テレビは部屋に置いてもらえず、居間でみんなで観るのが当たり前。 友達の家に泊まりに行った事もない、ましてやクラブなんて行った事もない。 クラスのみんなは週末ともなればお目当ての他校のアマチュアバンドを追ってライブハウスに行っているみたいで、休み時間になるともっぱらその話で盛り上がっている。 「~君が格好いい」とか「まじしびれる」とか、使い捨て
作:ウダタクオ 2007年04月03日 インユーテロ ガウロとシェリーヌ(番外編) 「シドとナンシーの最後って結局なんだったの?」 ある時、シェリーヌがつぶやいた。いつもすぐにかえってくるはずのガウロの声はなかった。彼はもうそばにはいないのだ。 灰色の朝、濁った空はこの街を目指し、いつしか疲れ果ててしまった人々の心情のよう。ネオ東京砂漠。湿ったテーマパーク。濁った水。それでも永遠に生き続けるプラスチックや煌びやかに輝く物の数達。星を・・・星を見よと言うのだけれど、
作:ウダタクオ 2006年09月25日 ファミリーセール Vol.2 「大丈夫ですくゎ?分かりましたくゎ?」 担当者が我々一同に説明をしていた。 彼は藤井フミヤきどりのおっさんで、テーブルに腰掛けながらしゃべっていた。 私は異常者じゃないだろうか?と疑惑を持ち始め、まわりは動揺を隠しきれずにいた。 そして最後により一層変な声で彼が言った。 「ソレジャー、本日モよろしくオネガイシマス」 ・・・確定。 スタッフの誰かがつぶやいた。「初めてだよ、テーブル
作:ウダタクオ 2006年09月27日 秘密のキューブ デパートの中の、そのまた中まで行くと世界は一変する。 華やかなテナントが並ぶそれとは違い、壁にはヒビがはいり配管は剥き出しのままでいる。 異空間に自分がいるようで現実なのか幻なのか錯覚してしまう。 階段を降りていくとそこはトンネルになっており、目の前を大量の荷物がトロッコに乗って運ばれていく。 安蛍光灯の薄暗い世界。 からからから、からからから。 音がした。 ローラーを転がした様な音が近
作:ウダタクオ 2006年09月23日 バックル ふと昔を思い出す瞬間がある。 それは何かがきっかけだったり、何気ない時だったりする。 それは懐かしい歌がラジオや街のどこかから聴こえてくる感じで、その瞬間心がすーっとする。 くすんでしまった金のバックル・・・二丁拳銃。 あれは97年の秋だ。高校は辞めていたと思う。 変な店があった。今時の若者なんかは絶対に寄り付かないような、おっさんやおばさんがやっている店だ。ショップではない、店なのだ。
作:ウダタクオ 2006年09月22日 チェロ弾き 秋の夜、確かにその音色は全ての愛すべき人々へと流れていた。 私は駅へと向かっていた。くそみたいな仕事は終わった。まるでゴミ溜めみたいな箱からやっと解放されたところだった。私は歩いていた。 どこからともなく、そうだ、どこからともなくだ、弦楽器の音がしていた。 自ずとそこへ魂が吸い込まれていった。 私は気が付いたらそこにいた。 年老いた一人の男がチェロを奏でていた。 無造作に伸びた白髪、緩い着こなし
作:ウダタクオ 2006年09月20日 気狂いピエロ 不思議な男だった。 私はパイプ椅子に座ると空を見上げた。 秋の空は雲を浮かべるのが上手だ。あの雲を持って帰りたい。 私は目を閉じると今まであった幸せな出来事を思い出そうとした。 ここではないどこかへ消えて無くなりそうになる。 私のすぐ横に一人の男が立っていた。 彼は私にしゃべりかけてきた。ごく自然な感じだった。 1万メートル上まで上がったことある? 空が青いんだよ オレ吐い
作:ウダタクオ 2006年09月18日 友情の橋 私は派遣でバイトをしている。金に困ったらいつもそうだ。98年に始まり99年、01~03年と要所要所で働くはめになった。日銭が欲しいからだ。 それはやけにむなしくて直ぐにお金は無くなってしまっていた。日当なんて、あぶく銭みたいなもんだ。 誰かが言っていた。月払いで一ヵ月分のまとまった金が入らないと、例えば同じ20万円を稼いでいたとしても日払いだとお金が残らないそうだ。 私はそれを実践している。何度もリトライした
作:ウダタクオ 2006年09月17日 ファミリーセール 開場と共に客どもが用意ドン!で80~90%offのコーナーへと猛ダッシュした。私はそこに立っていた。老若男女が一斉にこちらへ向かってくる。運動会の100m走のようだ。私はリボンを持っている気分だ。 先頭の若者たちに続いておばさん連中、そして主婦やらおっさんが続いていた。目は血走り瞳孔は開き形振り構わず突進してくる。その様はナウシカのオームが怒り狂い赤ランプで猪突猛進しているシーンを連想させた。やばい、このまま
作:ウダタクオ 2006年09月16日 アート・オブ・ライフ ある時、良いケツをした女が入社してきた。仕事中そいつのケツばかり私は見ていた。見惚れていたのだ。触れずして分かる程の弾力性、母性を描いた様な曲線はまさににアートだった。 間もなく私は仕事を辞め、その女のケツを拝む事はなくなった。そして、1年が過ぎていた。 駅の改札を出ると私の直ぐ目の前に良いケツが歩いていた。方向が同じだったようだ、私をナビするように良いケツが私を目的地まで導いてくれている。そんな感じ
作:ウダタクオ 2006年09月11日 ニコチン 私は世田谷のはずれにあるパチ屋で働いていた。季節は秋だった。私はギャンブルはそれまでしたことがなかったので、仕事の勝手が分からなかった。その為かいつも直ぐ疲れた。 昼休みの時間がきた。少し早いといつも思っていた。 色んな仕事をしてきたがトップやリーダーに煙草を吸う奴がいる会社はほとんどの奴が煙草を吸い、逆にトップやリーダーに吸わない奴がいる会社はほとんどの奴が煙草を吸わない事が多いのだ。たぶん環境がそうさせている
作:ウダタクオ 2006年09月10日 ジョン・レノン こんなに暑いと海に游ぎに来ているんじゃないかと錯覚してくる。8月も終わり誕生日も通り過ぎた。それなのに、空は青々と白い雲を浮かばせては太陽が威張っている。 私の目の前をマウンテンバイクに乗った女がケツを突き出して立ち漕ぎで通り過ぎていった。健康なガキを産めそうなケツだなと私は思った。 今日は看板持ちのバイトだ。新築分譲マンションさ。 パイプ椅子に座りプラカードを持っていると普段は見れない景色を楽しめる。