ファミリーセール Vol.2

作:ウダタクオ 2006年09月25日


ファミリーセール Vol.2

「大丈夫ですくゎ?分かりましたくゎ?」

 担当者が我々一同に説明をしていた。

 彼は藤井フミヤきどりのおっさんで、テーブルに腰掛けながらしゃべっていた。

 私は異常者じゃないだろうか?と疑惑を持ち始め、まわりは動揺を隠しきれずにいた。

 そして最後により一層変な声で彼が言った。

「ソレジャー、本日モよろしくオネガイシマス」

・・・確定。

 スタッフの誰かがつぶやいた。「初めてだよ、テーブルに座って説明されたの」勿論、私もそうだし、その場にいた誰もがそうだったに違いない。

 開場と共におばさんと貴婦人そして20代ぐらいの若い女が入り交じった群れが突進してくる。それは前回のそれと同じだった。彼女らはバックコーナーまで行くと両腕いっぱいにハンドバックを吊り下げだした。多い者で計17個、少ない者で計10個はあったと思う。手を広げると気持ち悪い翼になる。さぁ、鳥人間コンテストへ!

 ハンドバックは女の命を預け入れる言わば自分の分身の様なものなんだなと私は確信した。手ぶらで歩く女なんて滅多に見ない、皆なにかしらのバックを持ち歩く。バックの中には女の武器が入っている。そいつはやはり女の魂なのだ。私は現代の病んだ魂を隠し持つ。病名は現実逃避妄想癖。

 私は小物、貴金属コーナーの人員整理をしていた。ショーケースの前には列が並ぶ、それらの人々をうまくさばいていく作業だ。商品を購入し人が出る、出た分入れる、出る、入れる、出る、入れる。それの繰り返しだった。永遠に続く壁パスのようで、私は常に気持ちが走った。いつでもパスは私に返ってくる。男が一度フィールドに出たら、もうそこは戦場であり気は張りっぱなしなのだ。その時、私はバルデラマに会いたいなと思った。

 女達はショーケースに肘をつき前のめりになり中の貴金属やら小物を覗き込んで見ている。私は目の前にあるケツを見ている。

 突き出したケツはミニスカートでは被いきれずに、私を誘う。奥の方を見ようと背伸びした女のケツには力が入り張りがでていた。

 何かに夢中になる事は素晴らしい事なのかもしれない。

 ところで、接客されている貴婦人ってやつは、いつも嬉しそうに嫌がるもんだ。丁寧な接客で気持ち良くなり高揚感が上がっている、言い換えるとおちやすい心境にある。その様子は恋の駆け引きの様で、実はOKサインは出ているのだ。

 例えば、こちらとかいかがでしょうか?と財布を勧められたとしよう、う~ん、でも、ちょっと大きいし、中を見せていただけるかしら、あぁこうなってるのねぇ、どうしようかなぁ、でも釜口だしぃ、とか店員に勧められる度に嬉しそうに嫌がる。そうねぇ、う~ん、あれもいいしなぁ、店員が言う、お似合いですよ奥様!するといきなり、これいただくわっ、最終的に買う。

 彼女らには買うに至るまでの順序があるみたいだ。それも含めた上でのショッピングなのだ。乙女には気持ちの整理がなんであれ必要なのである。

女のケツを眺めながら、あのケツは良い、あのケツはダメだ、あのケツなんか最高じゃないかと、自問自答しながら私は列を整理していた。並んでいる女の顔を見てまずは目星をつけていく、そして良いタイミングで誘導する。するとケツは私のものになる。

 

 30代後半ぐらいの綺麗な女が服を試着してまるで子供のようにニコっと笑う、私はそれが好きだ。心があったかくなる、どんどん安らいでいく、私は眠くなる。それも母性なのだろう。

 フミヤが私に近付いてきた。

「あいつ知ッてル?ブランド君だよ。ここいらジャー有名だぜ、ミンナ知ッてル」指差しながら彼は言った。

 そういやこの前も見たなぁと、私は思い出そうとした。直ぐに分かった、あいつだ!開場と共に90%オフの革ジャンを列丸ごとぶん取り更衣室へ直行した奴だ!!確か10着は持ってってたぞ。

「あいつヤフオクとかなんカでぅ転売ヤッテんダよ、ふぁみりぃセ~る毎回来てルよぅわぁ」

 フミヤがくしで髪を掻き上げながら言った。オー!アナザーオリオン!!

 その後、足を挫いた様にフミヤはホールの真ん中で転んだ。


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