マッチ売りの少女
作:ウダタクオ 2006年10月01日
マッチ売りの少女
私はプラカードを持っていた。いつもの事だ。
今日に限ってだ、雨が降りだしてきた。
そうだ、だからあいつは私にレインコートを渡してきたのだ。
雨が降っている。東京は雨が降っている。
レインコートなんか私は着ずに、傘をプラカードに紙で縛り付けてそのままパイプ椅子に坐っていた。
なかなかの名案だった。要らない用紙がなぜかバックの中に何枚もあり、そいつを適度な幅まで折り紐のように傘を棒に結んでいった。
やはり紙なのであそびが出来てしまう。私は紙を今度は小さくなるまで折り、そいつを隙間に差し込んだ。杭を打ったってわけだ。
ピタっ!と傘はプラカードに張り付いた。クリエイティブな瞬間だった。紙でも頭を使えばうまく縛れてしまえるものだ。
雨にうたれることはなかったが、雨のおかげで気温が下がってしまい体が冷えてくる。私の体はぶるぶると震えだしていた。地球の温度がこのまま下がり続けて氷河期に再度突入してしまうんではないかと私は思い、石原ヨシズミに電話をかけようかと思ったがあいにく番号を知らなかった。
雨が降っている。私は拘束された時間の中にいる。ここからはまだ動けない。雨の中にいる。
いつしか私は廊下に立たされているような感覚にとらわれていた。そしてなぜか私は反省していた。
誰か体温をください。
目の前の道にはいつも車が通っている。日が落ちていく速さと比例して次第にヘッドライトが温かそうに見えてくる。私は震えが止まらない。
30分に1回ぺースでバスが通過する。目の前を2回バスが通ると私は煙草を吸うことにしていた。
こんな日に限ってライターを忘れてしまい、たまたま鞄に入っていたドトールのマッチをすって煙草に火を点けていた。
たまにマッチをすって火を起こすと私はその炎を眺めていた。
マッチに火を点けるたびに私はその炎の中に幻をみた。
1本目の炎の中には姉貴と姉貴の旦那さんが暖炉のある暖かそうな居間でソファーに腰掛け談笑しているのが見えた。テーブルにはマグカップが2つ並んでいる。きっとコーンポタージュだろうと私は思った。
ところで、私には姉貴なんかいない。
2本目の炎の中ではカーネルサンダースが万遍の笑みでチキンを揚げていた。不気味だった。
3本目はそれまでとは違い、誰かの目線のようだった。目の前にケツが見える。女のケツだ。どうやらこいつはそれを追い掛けて歩いているみたいだ。女のケツがアップでずっと映っている。しかもいいケツだ。くさるほど世の中には女がいるがこんなケツはおいそれとはお目にかかれない。急にケツが遠退いていく、女が走りだしたのだ。そして後ろ姿が見えた。私は息を飲んだ。どこをとっても完璧なのだ。心の中で祈った、振り向け!振り向け! 結局そこで炎は消えてしまった。私は直ぐにもう1本マッチをすれば続きが見れるんじゃないかと思い試してみたが何も映らなかった。青々と黄色く光る炎だけがあたたかくそこには燃えていた。
それ以来、何度マッチをこすっても炎の中には何も映らなかった。
全てはあの女のケツにもっていかれた。
震えは止まっていた。
家に帰ったらコーンポタージュを飲もうと私は考えていた。
間もなく私はこの拘束から抜け出せる。
未だ雨が降っている。
東京は雨が降っている。
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