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事業戦略大学(教員1名、生徒無限大) 第10回 商品・サービスではなく“事業構造”で差別化する「考え抜くための戦略フレームワーク入門」

雨が続く日こそ、じっくり深く思考する良いチャンスです。

設問1:あなたまたはあなたの会社はどのような仕組みや構造の差別化がありますか?

設問2:ビジネスモデル(ビジネスの仕組み、構造)を実際設計し、構築に挑戦したことがありますか?

設問3:仕事のやり方、ビジネスの方法変えることに抵抗がある理由は何でしょう?


■いまや仕組みや構造での差別化が必須

 日本企業は1970年から1990年初頭に掛けて、コストと品質の両方を同時向上させ、自動車、家電、機械、部品などの製造業、当時すり合わせ型の組立加工の領域で、世界シェアを獲得してきた。しかし90年代に入りデジタル化と同時にモジュール化が進み、インターフェースが標準化され、設計段階でのすり合わせは不要となり、モジュールさえ購入してくれば誰でももの作りができる世界が広がり、ビジネスの収益ポイントは、ハードウエアからサービス、情報などに急激にシフトした。その際の企業間の差別化は「ビジネスの構造」である。このビジネスの構造のことを「ビジネスモデル戦略」とよび、今では事業戦略の中核となっている。ちょうど2000年ごろ、私がある総合電機メーカーのシステムインテグレーション部門の経営幹部が集まる講演で「ビジネスモデル戦略」という言葉を使ったら「意味がわからない」「技術の差別化が差別化だ」といった多くのご批判をいただいた。すでにネットも普及していた頃である。日本を代表する電機メーカーだったのでそのとき、私は絶望的になった。多くの日本の製造業は、長期の成功体験を忘れることが出来ず、10年以上も失敗し続け今日にいたる。

■なぜビジネスモデル戦略が苦手なのか?

 確かに日本企業の製造業の多くはビジネスモデルの差別化を企画構想するのは苦手だと思います。いいものはつくるのに、ビジネスの仕組みや構造をうまくつくれないのはなぜか?それは強みが弱みになっている様なきがする。日本のメーカーは、モノ=物理的なモノに、製品の機能と称してできるだけ多くのサービスも技術で取り込んでしまう傾向がある様に思える。当然時間がかかる。サービスを切り出して、アプリや場合によっては人のサービスと連携すればとりあえず市場に新たな製品・サービス=顧客提供価値をリリースでき、ファンを囲い込める。サービスを取り込んだ製品をつくろうとすれば時間がかかるし、ハードなので修正も効きにくく、硬直的になる。

 もう一つは、フィジカル(物理的)なことには強いが、概念的で目に見えにくいものを組み立てることが少し苦手なのだと思う。インターネットで、他社のサーバーやコンピュータをつなげて、連携するなどといった作業は、目に見えにくいし、フィジカルな確認が難しい。また試行錯誤も多い。近年そういったことに挑戦しなくなって、ますます具体的なすぐ目に見えるものを追求する様になってしまっているような気がする。

苦手とばかり言ってられないので、日本企業の強みを梃子にし、独自のビジネスモデルを創造していかなければならない。

■ビジネスモデルを構想する4つの戦略視点

戦略的な事業構造であるビジネスモデル戦略を考える戦略視点は主に以下の4つである。

戦略視点1:独自の顧客提供価値をつくり出す仕組み
戦略視点2:情報を活用・フィードバックできる構造
戦略視点3:アライアンスによるビジネスプラットフォームの活用
戦略視点4:強いコア・コンピタンスへの資源集中と蓄積の仕組み


ここでは具体的に、これらの視点はどのようなものであり、実際のビジネスモデル戦略構築にはどのようなことが必要なのかを詳しく述べる。

■戦略視点1 独自の顧客提供価値をつくり出す仕組み

顧客が潜在的に欲している情報・サービス面を構造的に生み出す仕組みを発想すること。

・取引ごとに蓄積される膨大な専門情報やノウハウを、顧客の問題解決やリスク低減に役立てることができる構造をつくれないか
・取引ごとの顧客情報の量と質を高めていく仕組みをつくれないか
・参加する顧客が増加することで既存参加者のコストを下げ、メリットを増加させる仕掛けはできないか
・顧客同士の情報交換や取引が活発化する仕組みをつくれないか
・顧客の商品サービス利用情報をリアルタイムで入手することで調達力を上げ、その利益の一部を顧客に返す仕組みをつくれないか(購買代行)
・情報技術を活かした顧客への継続的な情報・サービス提供により、顧客を囲い込み、新たなビジネスチャンスを獲得する仕組みをつくれないか

■戦略視点2 情報を活用・フィードバックできる構造

継続して高い顧客提供価値を生み出すために、情報を活用した仕組み、構造を構築すること。

・自社のコア・コンピタンスを短期間に強化するために、情報や知識の流れのスピードを飛躍的に向上させる仕組みをつくれないか
・顧客情報を戦略的に分析して価値ある知識に変換し、新規の顧客提案やマーケティングに反映させることはできないか
・情報技術を活かし、自社がコントロールすべき機能をアウトソーシングしたり、アライアンスで獲得する仕組みをつくれないか
・情報技術を活用し、顧客情報を各機能にフィードバックすることでムダをなくし、組織の機動力を向上させることはできないか
・調達先や販売チャネルなどのパートナーの情報を顧客価値向上に活かしたり、自社の生産性向上につなげる仕組みをつくれないか

■戦略視点3 アライアンスによるビジネスプラットフォームの活用

戦略的アライアンスを活用して、既存参入企業が発想しないようなビジネスプラットフォーム(共通土台)を構築すること。

・新しい顧客創造や市場創造を生み出せる新しいプラットフォームを構想し、仕掛けることができないか
・プラットフォームに参加することで、参加者に事業機会を提供し市場を創造できないか
・プラットフォームをつくり、バリューチェーンへの参加を容易にできないか
・プラットフォームに参加することで、参加者の市場参入コストが大幅に低下し、事業機会が拡大するようにできないか
・プラットフォームに参加するコストを金銭以外のものにできないか。参加する「価値」の魅力を向上させる仕掛けはないか

■戦略視点4 強いコア・コンピタンスへの資源集中と蓄積の仕組み

他社にマネできないコア・コンピタンスの確立とその育成に徹底して資源を集中すること。そのために、コア・コンピタンスへの強力なフィードバックが行われる構造を設計すること。

・コア・コンピタンスを蓄積できる事業や機能以外は外部に切り離し、コア・コンピタンスに経営資源を集中できないか
・顧客や取引先、アライアンス先からの情報、知識ノウハウなどがコア・コンピタンスとしてフィードバックし、蓄積される仕組みはできないか
・蓄積したものを顧客ヘフィードバックし顧客提供価値を向上できないか
・一取引あたりの蓄積量(質)を増加させることができないか。またその情報の質を上げることはできないか
・他社より短時間でコア・コンピタンスの蓄積ができないか

■ビジネスモデル企画上達のコツ3力条

発想の観点が多様であり、かつさまざまな検討次元があるため、ビジネスモデル戦略を企画することは簡単ではない。しかし、そのスキルを向上させる方法はいくつか存在する。ここでは、ビジネスモデル企画力上達のコツを3つだけ紹介しておく。

1つ目のコツは、ビジネスモデルの先進企業をベンチマークしておくことである。高い企業価値を達成している企業は、利益の最大化と資産の最適化をもたらすビジネスモデルを構築している。

そのような先進企業の、

①戦略発想の根本的考え方
②具体的な仕組みや手法
③ビジネスモデルを支えている企業インフラ
④ビジネスモデル構築までのヒストリー

などを学習する。

さらに重要なのは、学んだベストプラクティスをそのまま取り込むのではなく、自社にあった形に変換し、自社にうまく適合させることである。

2つ目は、企画したビジネスモデルを、大まかでもよいので財務視点で検証してみることである。ビジネスモデルから、その事業の貸借対照表、損益計算書の構造を想定し、損益分岐点構造による利益シミュレーションを行ってみる。その段階で、ビジネスモデルが効果的なのか、何をどう改善すべきかが明確になる。財務的観点からビジネスモデルを検証することは、良いビジネスモデルをつくる思考力を鍛えることにつながる。

3つ目は、情報、マーケ、財務の3種類の知識・スキルを日頃の業務の中で、機会を見て鍛え上げておくことである。
「情報技術の戦略的活用のための知識・スキル」「マーケティングによる顧客価値向上のための知識・スキル」「財務的な視点での事業構造設計のための知識・スキル」である。ビジネスモデルの企画は、いくつかの専門知識を統合的に扱い発想するところに難しさがある。統合力も、この3つの知識・スキルなくしては成り立たない。

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