見出し画像

素材や部材の経験価値

事業戦略大学(教員1名・生徒無限大)「デジタルB2Bマーケティング第4回」


顧客経験価値や意味のイノベーションを理解する

エクスペリエンス(日本ではなぜか「経験価値」と訳されてしまった・・)という重要なキーワードがある。人は製品やサービスを購入しているのではなく、それがもたらす経験、体験を購入しているのだという考えだ。顧客はクルマを購入するのではなく、楽しい移動を購入しするのだし、旅行を購入するのではなく、出会いや発見を購入しているという考えだ。その背景には人はそれぞれ、言葉にはならないかもしれないが、最終的に自己実現したい何かがあり、そのために行動し、感じ、感情を持ち、共感し、仲間を作っていく。

顧客経験価値とは、その感覚、感情、思考、行動、共感といった人が体験するコンテクストの重要性を重視しているのだ。ミラノ工科大のロベルト・ベルガンティ教授は、それを「意味イノベーション」と呼んだ。成熟した市場で大きく需要を創造していくには、顧客経験価値や意味のイノベーションを深く理解していなければならない。

素材、部材における顧客経験価値、意味のイノベーション

顧客経験価値や意味のイノベーションは、サービスビジネスや消費財の完成品が主に考えるべきことと思われがちだが、最もインパクトを与えることができるのは素材、部材の顧客経験価値や意味のイノベーションである。例えば、「温度や光で色が変わるスチール素材」を開発すれば、自動車のボディ、住宅のサイディング屋根、スチール家具や机、様々な缶、家電の筐体など様々な製品そのものの顧客経験価値や意味のイノベーションを変え、新たなストーリーを創造することができる。同じように人の肌に優しい柔らかいフィルムスチール、手で形を自由にかえられ、スイッチを入れれば固く強くなるスチールなどなど、素材の特性を変えるだけで、エンドユーザーは、顧客経験価値や意味のイノベーションを実現できるのだ。素材や部材は、複数の産業に利用されるため、そのインパクトが大きい。ユニクロのヒートテックも東レとの共同開発で生まれロングヒットになっているし、高級アウトドアウエアに使われているゴアテックスも同様である。

このように人間が素材、部材に対する五感、感情そしてエクスペリエンスがこれまでにないものであれば、全く新しい世界が広がる可能性がある。

素材、部材開発は、顧客経験価値や意味のイノベーションから入るべき

これから社会、経済に大きなインパクトを与える素材、部材を開発したい研究者は、その技術特性を知ることも確かに大事だが、それよりもどんな顧客経験価値や意味のイノベーションが創造できるかを考えることが重視されるだろう。言語化しにくい異質な感覚を自分の中に確かめ、深堀する感覚とイマジネーション力が求められる。人の感覚とそこから生まれる感情や思考、さらには人間のもつ思想、信条みたいなものに関する知見も磨き、それと素材、部材の関係を考えることも求められる。

そういった一見変な経験をどこで身に着け、社内や研究所内で表現するのかも問題だ。そういった人は会社では変人扱いされるだろう。私がクライアントを訪問して、開発の困難さを感じるのは、そういった独自の意味を自分の中で持っている人が大変少ないことだ。話し相手が少ないのだ。どうにかしてほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?