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わすレター

来週で退職する。
なのでお世話になった社員さんたちに手紙を書いた。

33通にもなった。

私が会社にいた期間は、去年新卒で入社したばかりなので、休職していた日々をたしても一年にも満たない。

最初は読まずに捨てられるかもしれないと思ったし、こんなことをしても何にもならないと途中で投げ出しかけた。それが社会の厳しさだし、何をやってるんだ自分、と今になっても思う。

でも便箋に向かうと、その人に伝えたかったちょっとしたことが、湧き出るように思い出された。

本当はもっと簡単なものにするつもりだった。でも一枚につき5行以上は書いていた。思ったままに、拙い文章で、汚い字で書いていた。

手紙を書くのは大変な作業だ。
伝えたいことを文字にして、そして加筆も修正もできない手書きで書くのは結構骨の折れるものだった。

深刻になりすぎないように軽い気持ちで書いたつもりでも、本当にお世話になった人に対しての手紙には、なんとなく力が入ってしまって、文章が空回りして、野暮ったくなってしまうのはなぜだろう。


辞めるなって言ってくれる人もいた。メールで真正面から励ましてくれる人もいた。
そのメールには、「信用できる人のいるこの職場で仕事することが、社会人にとって一番幸せな事だと思う。だから戻ってきてほしい。」と書いてあった。

私も今まで、「何をするかより誰とするか」だと思って生きてきた。

でも、もう身体も心もボロボロに壊れてしまった。
もう少し、自分でちゃんと考え直したい。


一枚書き終わるたびに、「何やってるんだろう」とか「こんなことするなら仕事を続けろよ」と頭の中で別の私が言ってきた。

でも一枚いちまいに真摯に向き合って、今日やっと33通書き終え、最後の一枚に封をしている時には、もうそんな声は止んでいた。

口をついて出た言葉は、「さようなら」って一言だけ。


さようなら、みなさん。
今まで可愛がってくれてありがとう。
私もみんなが大好きだったけど、嫌われたくないという思いが強くなりすぎて、私は無理をしはじめたのかもしれない。
もう、他人の期待に応え続けていた自分にもさよならです。


手紙って書いた内容をことごとく忘れてしまう。
さらに、自分が手紙を出したことすら忘れてしまう。

私がこんな一見無駄な行為をしてたのは、
自分が退職することを、自分にも周囲にも納得させるためではなくて、
一人ひとりに言い残した言葉を、忘れるためだったのかもしれない。
そして、いい子ぶっていた気弱な自分のことも、忘れるためだったかもしれない。

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