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エセスピリチュアルの贖罪

朝8時半。目が覚める。
鳥山さんの割に意外と早起きだねと言われるかもしれないが、
僕はまだ目を開けただけで、
起き上がるつもりはない。

ネトネトと糸を引く口を開け深呼吸をすれば
油とアルコールの混ざった匂いと共に目の前が歪む。気持ち悪い。

「・・・あぁやっちまった」

お前本当にヴォイス・トレーナーかよと突っ込みたくなるような
水分ゼロのまるでタイトルは
「風邪をこじらせた上沼恵美子」といった発声で今日初めての声を
一人きりで、出す。

コンタクトレンズをつけっぱなしで寝ていた。
目ヤニだらけの瞼をこじ開け、
鏡を見ずに引き剥がし、ベッドの裏に投げ捨てる。
2m先のゴミ箱ですら、遠すぎる。
こいつは開封して約1週間だったのであと3週間使えたレンズだが
その数千円のコスパは今自分が起き上がり洗面所にいく不快感に圧勝する。

吐きそうだ。でも吐けなさそうだ。
空あくびを何度もしながらウーバーイーツを開き
朝マックを頼む。
一番吐けそうだから、という理由一択で
マックグリドルのてんこ盛りセットを頼む。

届くまでの間、メールを開く。
25件の通知がある。
平日の朝だ。世の中はもう機能している。
僕が酩酊で締めのラーメンを食っている頃みんなは目を覚まし満員電車に揺られている。
そこに優越感も劣等感もない。

一つずつ返していく。まるで爽やかなフレッシュ・リーマンのような気分で、
目ヤニと、つけたまま寝た
オーシャンの安いヘアワックスと
頭皮から湧き出るアセトアルデヒドの毒素よる
the 加齢臭と共に

「お世話になっております。」と打ち続ける。

大丈夫だ。誰にも見られていない。
取引先各所には僕はまともな人間だと信じて欲しい。

メールが返し終わる頃、
届いたマックグリドルを半分食べ終えたところで
強烈な胃酸の逆流。
不快感にいらつきマックはゴミ箱に投げ捨てた。
袋には手つけずのハッシュドポテトが入っていたし
食の神様に祟られるかもしれないけれど

それより僕にとってはこれを食べ続ける不快感と
自分の人生を比較したら投げ捨てる方がよほどコスパがいい。


マックグリドル。

寝たくても、寝られない。
気持ちが悪い。俺はどれだけ飲んだんだ?

ゾンビのように這いつくばってシャワーを浴びてみたり、白湯がよさそうだからと飲んでみたり、
ヒコロヒーとか霜降り明星のyoutubeを見たり、

パンツを脱ぎ捨て自慰行為をしようとしてみたり、
マットを引いてピラティスをしてみたり、

睡眠障害とそれと命懸けで戦う戦士。
瀕死の状態で自分の本能や欲求がどこに向いているのかを感じるたびに、
あぁ、俺って人間なんだな、って惚れ惚れする。

仕事は、
それなりにうまくいっている。

俺がいないと成り立たない宇宙が
この世にはそれなりに、ある。

けれど今日は休みだ。プライベートだ。

俺は二日酔い
という修羅を選んだ。
聖人君主のようにフィットネスやスムージーに
慈しむ休日もあるだろうが、
俺は人間の本能を感じることを選んだ。

それは調子に乗って仕事をしている
俺に必要なことであり、
それが俺の人生のコスパだ。

そんなこんなを繰り返すうちに
西陽が差し込んできた。
もう、9時間も、ベッドとトイレの間という関ヶ原で
俺は合戦を繰り広げ続けたんだ。

だいぶ抜けてきた。
勝者は、俺だ。

こんなもんじゃないけど参考画像。

、、、

「鳥山さんは誰よりもスピリチュアルだ」

と、よく言われる。
テレビ局や雑誌からも俺が宇宙の力を操れる稀有な存在なのだと
取材依頼もしょっちゅう来る。

宇宙といえば、
巷に溢れるスピリチュアルコミュニティ?のトップの面々も
俺を絶賛する。
やたらおかしいほどに、好かれる。

確かに、俺には力がある。
何か人を根元から変える能力に秀でていると、
さすがに認めざるを得ない。
たかだか、"いちボイストレーナー"だけれども、
それ以上を求め3万人以上が俺の元を飛行機や新幹線に乗っても訪れ、
俺は20年近くこれで食ってるからだ。

しかしスピリチュアルに興味があるかと言われると、俺にはそれほどない。

前提として、
スピリチュアルを否定するわけではない。

俺は起こり得ない奇跡をたくさん見てきたし、
自分が操っているものをそうだ、といわれれば
それは確固たる力を持つもので、
それこそ、スピリチュアル万歳なのだ。

けれど、俺のスピリチュアルは巷に溢れる
キラキラ、フワフワするための優しいもんなんかじゃない。

見てみろ。夕方6時まで、
全裸でゲロまみれで、美容家とは思えないほど
浮腫み、臭く渋い俺が
修行かのように酒とそれに対する懺悔の念と
戦い続けているんだ。

人間の欲とはなんなのか、
意味のないように見えて意味のあることに
もがき続ける
どこかの小さなひとかけらに
幸福や生きる意味を探しているんだ。

俺はこれをあえてやっている。

スピリチュアリティと反している?
うるせえ。
そんなこと気にする奴がスピリチュアル語るんじゃねぇ。
スピリチュアルはジャッジすることなんかじゃない。
感じるためだけにあるものだろう。

俺。

以前、某スピリチュアルコミュニティのトップの女性を人伝に紹介された。

先述の通り、俺はジャッジをしない。
だからそいつにも気に入られた。
気に入られたどころじゃない。
「私と同族だ。前世の繋がりだ、家族だ!!
ようやく会えた!!」
と彼女は喜んだ。

あぁ、そうなんですね、と思ったが、
俺には全く!!そうは思えなかった。

ある日そいつは

「鳥山くん(そもそもこの呼び方が無理。)
肺、、、
片方潰れちゃったんでしょ?SNS見たよー」

と言ってきた。そして、
「多分左の肺だよね?私には見えるから遠隔で治しておくね」

と。

言っておくが
俺の肺は肺炎による繊維化なので左も右もへちまもなく、
肺の分節がケロイドになってるだけなので、
あぁ、こいつ、何も見えてないんだな、と思ったけれど、口は瞑った。
半分違い、で虚勢はってて可愛いな。と思った。

「うれしー、ありがとうございます。」
と適当に返して、彼女の遠隔?を受け入れた。

楽になった気がする?といえばすると言いたいが、
次の定期検診では
肺は悪化していた。笑
彼女にはもちろん言わないが。

教祖あるあるで、
イエスマンには、優しい。

そこから、、
毎日連絡が来るようになり
「私のコミュニティのみんな紹介したい〜」
なんて言われて、
誘われるがまま彼女の主催するイベントに行ってみたりした。

彼女が指で十字を切りながらフッと
息を吹きかけるとその場の女どもが
「うわー楽になった」
と目を輝かせる。

旧統一ホニャララとやり口全く一緒やんけ!!
と思うし、
そんな世界もあるんだなと思いながらも、
俺もボイトレでそんなことをやっているかもな、
とも思った。
謙虚is my life。

でも、俺の方がアカデミックだよなぁ。。。

、、、

「次の五月から宇宙の星回りが変わるから
私たちは覚悟しなきゃいけない」

みたいなことも言っていた。
この女が星回りが変わると人を煽っている姿を
俺はもう100回以上見ている。

「今回はすごい変化だ。
◯十年に一度だ」

と毎回言っている。

ボジョレーヌーボーかよ!!!

なんて思いながら、
それに乗っかる情弱女たちもたくさんいるから
まぁみんなそれで幸せならそれでいっか、と思っていた。

俺はその女たちが幸せにはどうしても
見えなかったけれど。
不幸感じているくせに怠惰だからそうしてるんだな、と思った。

だって変えるための行動すらしないで。

ずっと不平不満を言っているし。

現実逃避って、楽なんだけれども、
すればするほど、心細くなってるって、
そろそろ気がつきなよ。
古来より、それがスピリチュアルビジネスの常套手段だろ。

金蔓(カ・ネ・ヅ・ル)なんだよ。

ある日その教祖風女から、
「鳥山くん、話があるんだけど」
と言われた。

話を聞いてみると、

「私、鳥山くんの生活の不安定さを危惧してるの。
お姉さんやお母さんが死んじゃったこととか、
鳥山くんが病気したこととか、
全部あなたが思考と行動で招いたことだから。

ちょっと飲み過ぎだし、セックスとかも
生活が乱れてるよね。

自分が変わろうと決意すればもっと幸せになれるし、
あなたはパワー持ってるから、
絶対切り替えた方がいいと思う。

私はあなたを前世からの姉だと思っているから
厳しいことを言うのよ。」

とのこと。
すでにきもい。

さらに、

「今、肺とかもさらにサービスで遠隔で治しておいたから。
病院いったらびっくりすると思うよ。
けれどよくならないならあなたが思考で招いてるの。」

。。。

き、も、す、ぎ、る(//∇//)


俺はその日以降、
一切その女と関わるのを、辞めた。

ブロックしたその日に、

「私はあなたに依存してる場合じゃないからちょうどよかった。
他人に依存する時代は、
星が変わって、
もう完全に終わったの。」

と、DMがきていた。

俺は、、
ガッツポーズした。

エセスピリチュアルの贖罪。

その女はその後も月額1万円のサブスクコミュニティにて、
「これに入っているあなたたちだけ救われる」
と言って毎日星の変化を訴え続けている。
女たちは宇宙に踊らされ一喜一憂している。
気にしなければフラットに幸せなのに。

それを共依存と呼ばないのであれば、、
頭がおかしい話で、
お前が一番他者に依存しているだろうが!!

むしろ、そいつらにくらべれば、
俺の方がよほど自立した存在で、
胸を張って、
自分の幸せを積み上げているのではないか?

俺は今、
ひどく二日酔いしていて、
乱雑に色々なものを脱ぎ散らかして、
ある目線で見たら大変な状態だけれども、

そんな時間にしか、、
気付けないことがあるんだ。

俺には、、
毎日たくさんの仲間がいて、
仕事でたくさんの人に必要とされて、
かわいくて俺に尽くしてくれて
尽くしたいと思える彼氏がいて、
それ以外何も要らなくって、

恵まれたことしか知らない
怠惰な女たちとって俺は、
親もいなくてスラムの貧乏育ちで
不幸に見えるかもしれないけどさ、

宇宙の流れとか
何の時代とか、どうでもよくって、
目の前の
小さな幸せの、
ひとつひとつの中で動けていて、

こんな幸せな人生、
あいつらにはないんだろうなって思いながら
今これを、
地元駅の居酒屋でビールを迎酒しながら、
書いている。

俺の周りの
大切なみんなが、
エセスピリチュアルの贖罪に、
惑わされないように。


俺のかがけるスピリチュアリティは、
宇宙の流れとか
だれかが決めたオカルトに関係なく、
みんなの日々が小さな幸せに溢れること。

宇宙がダメでも、
こっちは幸せでいいんだわ。

それに気がつくためのノウハウを
身体、フィットネスを通じて手にしていくこと。

変なスピリチュアルコミュニティに、
同じ月額1万円使うなら、
自分の身体をフィットネスにて改革させるほうが
よっぽどあなたのためになりますよ。

この文章でフォロワーめっちゃ減るだろうけどさ、
俺ってそう言う人だし、変えたくないんだよ。

俺は俺のスピリチュアルで、
みんなを幸せにするぞ。

俺の方が、あのエセスピリチュアル女よりも、
5万倍あんたを愛してるし、
本気で体の底から変えてやるよ。

そう思いながら、もう一杯、ビール頼んでみましたよ。


人間らしく、生きてて、
いいじゃないか。
どんな毎日だって。
最高だぜ。


鳥山真翔

鳥山真翔公式HP
http://www.toriyamamanato.com


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