『殴り合いを制する力』J1第37節北海道コンサドーレ札幌対柏レイソル【レビュー】
札幌に4年半所属したジェイ・ボスロイドの退団が発表され、いつも以上に注目が集まっていた今節。札幌ドームには彼の最後の試合を見届けようと、13768人もの人が集まった。試合は序盤からの積極的な攻撃が実を結び3‐1と久々の快勝。ミラン・トゥチッチがストライカーとして大きな活躍を見せ、決定力不足解決に一つの光明を見出した。この記事では、決定力不足、ジェイ・ボスロイドとの『グッバイ宣言』となった一戦を振り返る。
スタメン
ベンチメンバー
北海道コンサドーレ
GK 中野 DF 西野 柳 MF 深井 荒野 青木 FW ジェイ
柏レイソル
GK 佐々木 DF 川口 MF 椎橋 神谷 戸嶋 FW 武藤 細谷
スタッツ
試合レポート
オープンな殴り合い
この試合を一言でまとめるなら"終始オープン"といったところだろう。
柏は守備的なチームということもあり、5‐4‐1でブロックを組み、プレスもかけずに"待ちの姿勢"でカウンターのチャンスをうかがう。それに対して札幌はビルドアップから相手を引き付けて背後を狙う動きを徹底。DFやボランチからのロングボールを合図に一気にスペースへ飛び込んでいく。しかし、ロングボールというのはあまり成功率の高いパスではない。そのため、過程はどうあれ両者ともにロングボールを蹴るようになると、こぼれ球の奪い合い、そしてそこから生まれるカウンターの殴り合いになる。この試合はまさにそういう試合で、最終的にはどんどんオープンになり、ロングボールとカウンターでせめぎ合う拮抗した試合展開となった。
そして札幌も柏も基本フォーメーションは3‐4‐2‐1のため、この試合は両者ともにリスク管理が曖昧になるマンツーマン気味の守備対応に。それがこの試合展開に拍車をかけ、よりロングボールとカウンターが目立つ展開になっていった。
そうした試合展開から早速ゴールが生まれる。12分、三原が札幌陣地でボールを奪い、カウンターを仕掛けようとしたところを田中と高嶺の2人で阻止。高嶺の前につけるパスを受けたチャナティップがボールを運びトゥチッチにスルーパス。そのスルーパスをファーに膨らむ形でボールを受けたトゥチッチがゴールに向かって左足一閃。強烈なシュートをゴールに叩き込み、来日後初ゴールで札幌に先制点をもたらした。
この得点のあとから、札幌が最終ラインでボールを落ち着かせたり、柏陣地でボールを回す時間が増えていく(しかしロングボール中心という点は変わらない)。
そして27分、札幌に追加点が生まれる。スローインを受けてターンしたチャナティップがアウトでスルーパスを送ると、抜け出した小柏が走りながらループシュートを放ち、札幌に追加点をもたらした。
1点目とこの2点目に共通するのが、チャナティップのアシストだ。これは単にチャナティップがめちゃくちゃ凄いということでもあるのだが、柏側に一つ要因がある。それが柏レイソルのダブルボランチだ。この試合、このダブルボランチがBox-to-Boxにピッチを走り回り攻守に貢献していたのだが、その分高いポジションを取ることが多かった。そのため、トランジション時にはダブルボランチが前に出てぽっかり空いたスペースをチャナティップが使うシーンが目立っていた。
札幌2点目の2分後、さらに試合が動く。29分、ハーフウェーライン近くが札幌がボールを奪って前にボールをつけたところを逆に柏に奪われてカウンターが始まる。大南の縦パスを受けたマテウスサヴィオがボールを右に流し、ダイレクトでクリスティアーノが右足一閃。このシュートがゴールに突き刺さり、まるで札幌の先制弾のような形で柏がすぐに一点を返した。
ビルドアップのキーマン 宮澤裕樹
この試合で一つのストロングポイントとなったのが、怪我から復帰した宮澤裕樹だ。
19分30秒ごろからの札幌のビルドアップ。宮澤は意図的にゆっくりボールを回す時間を作っていた。これまでの試合ではロングボールを蹴っていたシーンでも、コーチングを飛ばして簡単にボールを蹴らせない。ゆっくりボールを回せば、ポジションを取り直したり体力を回復させる時間を作ることができる。フルコートマンツーマンやロングボールという体力消費の激しい戦い方をしていた札幌には、この時間はとても大きかった。
ポジショニングやボールを運ぶ能力も素晴らしい。ダブルボランチやSBが最終ラインに吸収された時には、その選手が抜けたポジションに入りフォーメーションを崩させない。スペースを見つければコンドゥクシオン(運ぶドリブル)で相手を引き付けながらボールを運ぶ。相手を引き付けてからパスを出すことで、少しずつ相手をずらして縦パスを通すスペースを作ることができる。攻撃のスイッチを作るうえでは重要なプレーだ。宮澤は札幌でこれらのプレーを一番効果的に行うことができる選手。札幌にとって絶対に欠かすことのできない人材だ。
流動的で攻撃的な右サイド
右サイドの田中、金子、小柏の3人を中心とした連携はこの試合ではとても効果的に機能した。これは一つの例だが、「小柏が下がれば、空いたスペースに金子が抜け出し、田中がサイドに張る」といったように、この試合では右サイドの3人が流動的に動きながら個性を発揮し、攻撃を活性化させた。
そして待望の3点目もこの右サイドから生まれた。46分、スローインからワンタッチ、ツータッチの流れるようなパスワークでボールを繋ぎ、PA内でフリーになったトゥチッチが金子のグラウンダークロスを流し込んでゴール。これぞミシャサッカーという崩しからのゴールで札幌がリードを2点差に広げた。
柏はハーフタイムにマテウス・サヴィオ、仲間を下げ、武藤と神谷を投入したことで攻撃の勢いが強まるも、徐々に試合もスローダウンして大きな動きが起きることはなかった。その後は両者とも交代枠を使い、札幌は退団するジェイとチーム最年少出場を更新する西野を投入。試合は3-1で札幌がホームで久々の勝利を収め、ジェイの退団試合に花を飾った。
コラム
光明 ミラン・トゥチッチ
G大阪戦以来のスタメン起用となったミラン・トゥチッチは、その起用に応えるように結果を残す。序盤からチャナティップのスルーパスに反応し、強烈なシュートを打ち込んで先制すると、後半開始直後には金子のクロスを押し込んで3点目を奪い、札幌を勝利に導いた。そのスタッツはシュート5本で枠内4本、2得点と圧倒的。決定力不足でFW補強を嘆くコンサポの声をかき消すような大活躍だった。
彼は来季に向けて大きな戦力になる。前線で常に駆け引きを繰り返し、得点のチャンスを伺う姿勢はまさにストライカー。ポストプレーに関しては、ジェイのような懐深いキープ力はないが、降りてボールを捌く能力は彼にも劣らない。守備にも献身的な振る舞いも見せるなど、チームのタスクをサボることもない。これだけのプレーを見せられて、期待するなという方が難しい。チームに適応するまで少し時間を要したが、その分この試合では彼の実力を証明できた。
来季、ミラン・トゥチッチがチームを救う姿を見るのが今から楽しみでならない。
合わせて読んでいただき記事
『Goodbye, Jay Bothroyd』
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?