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TikTokはユーザーセグメントを拡張できるか。 【マーケティング戦略の観察】

TikTokは進化を続けている。
マーケットの注目度ほどにはユーザー数はまだまだ他の“SNSの巨人たち”には追いついていないが、成長しようとしている。

“TikTok自身の”これからのマーケティング戦略について、「なるほどねー」と思った記事を読んだので、僕なりにTikTokの近況をまとめておく。

このレポートはTikTokやSNSに詳しい人にとっては初歩的なことしか書いていないので、“TikTokの基本的な状況くらいはさっと学んでおきたい”ような方向けです。

1、“若者中心”という長所であり欠点

TikTokの長所であり弱点は「ユーザーが若者中心」ということだ。
でもこれは根本的にサービス内容自体がリップシンクと呼ばれる“音楽に合わせてダンスを踊った動画を世界にシェア”である限りは、中高年には向かない。だれが中高年のダンスを見たいかって話しだ。
ここがLINEとは大きく違う。LINEには中高年にも使う必然がある。

でもTikTokがここまで伸びた理由は“発信材料探しの簡略化”だったと僕は思う。それが前述したリップシンクの本質だろう。
Instagramは流行語になるほど流行ったが、けっきょく継続的な発信者は限られる。それは“映える(ばえる)”画像を毎日発見するのは難しいからだ。これはTwitterにもFacebookにも言えて、“アップするものが見当たらない”という難しさを秘めている。

TikTokがその点で素晴らしかったのは、
あらかじめ“フォーマットが準備”されていて、“前例を真似て短い動画を撮る”だけなので、発信材料探しに困らないというわけである。
ネタ探しにアイデアをひねり出したり、キョロキョロ町を探し回ったり、感想文を考えたりする必要がない手軽さは、大きいと思う。

TikTokの発信ユーザーが爆発的に増やせた裏側には、この“リップシンクのフォーマット化”による“発信コンテンツ作成の簡便性”が大きく寄与したと分析できるが、
ただ、最初の課題提起に戻ると、逆にこのフォーマットのせいで「ユーザーが若者に偏っている」という特徴を生み出してしまってもいる。

この“長所であり欠点でもある”という指摘は、あくまでビジネス上のマーケティング視点のことである。
ベーシックな知識を一応整理しておくと、
ユーザーにとってフリーサービスであるSNSである限りは、事業者は“なにか”でマネタイズをしないと運用コストを維持できない。先行するFacebookやInstagramは、基本的には広告収益モデルである。
広告メディアとしてみたときのTicTokはというと、
“他では獲得できない若者層へのリーチ”には有効だが(長所)、“可処分所得の少ない若者層にしかリーチできない”と見る場合にはそれが欠点にもなる、という意味での指摘である。


2、データから見た「TikTokユーザー像」

データでも見ておこう。

いろいろなリサーチデータが出回っているが、今回は『20代のTikTok 利用率は12%。Twitter は65%、Instagram は46%【MMD研究所調べ】』という記事が参考になるので引用する。

20歳~69歳の男女557人を対象に「2018年スマートフォンアプリコンテンツに関する定点調査」を実施した。この調査は2014年から継続的に行われており、利用率等の推移が確認できる。

この調査では「SNSの利用状況」が各年代別でも分析されており、2018年調査からはTikTokが調査対象に加えられている。
 『TikTok利用経験』のチャートを引用させてもらう。

10代が調査対象外になっているが、20代でも30%が利用経験あり。10代だともっと割合は大きいことが予想できる。
Facebookとかと比較すると、40代以上の利用経験率の差の大きさが歴然だ。
他のSNSに比べて、TikTokが若年層に偏っていることがデータからも証明される。

3、“ユーザーセグメントの拡張”への挑戦に注目

さて、話したかった「なるほどねー」の話題にやっとはいる。

AdverTimes(アドタイ)の『TikTokがワカモノアプリの時代は終わった。2019年のTikTokはオトナがブーストさせていく(2019.03.25付)』という記事がとても興味深かったので紹介する。

TikTokが“ワカモノアプリ”として絶好調だったのは2018年9月で、いまは一旦落ち着いたと私は思っている。7月からの夏休み期間の勢いはすごかった。(中略)
しかし、高校生の夏休みは8月31日まで。大学生の夏休みも9月30日までが一般的だ。その夏の熱量をピークとして、その後は勢いがスローになっていっているのを感じていた。(中略)
「これはUSで大流行して話題になったものの、日本ではイマイチ定着しなかったSnapchatと同じパターンかな…」などと思っていた。

ここまでは前述の分析どおり、「ユーザーが若者中心」という市場感触の話しである。
でも、TikTok自身は、“そのイメージからの脱却を図っているのでは”と筆者は指摘をする。

CMで訴求されている内容に違和感を覚えた。
音楽に合わせてダンスするのではなく、音楽はあるものの、それに合わせていろんな場面を撮影しているのである(もちろんダンスっぽい内容はあるものの)。
キャッチは「みんなの思い出エンタメアプリ」。
まるで、“TikTokは曲に合わせてダンスするアプリだけじゃないぜ”と言っているような内容だった。

実際に18年終盤以降には、TikTok内のコンテンツの雰囲気も変わってきたという点にも触れている。

動画自体の種類も、最近はダンス動画以外をよく見かけるようになった。
スポーツのスーパープレイ動画、料理動画、なんでもない日常の動画などなど。(中略)
2018年10月には“TikTokグルメ”のキャンペーンが始まった。
プラットフォーム自ら、ダンス動画以外のコンテンツを求め、訴求しているのである。

(けっこう記事を引用してしまったので、ぜひ、元の記事リンクへも飛んでみてください、読みやすい良い記事です。再掲)


ここで、最初に挙げた僕の分析見解に戻ると、
僕は「“音楽に合わせてダンスを踊る動画を世界にシェア”である限りは中高年には向かない。だれが中高年のダンスを見たいかって話しだ。」と指摘した。
でもこのリップシンクというコンテンツは“TicTokというアプリそのもの”である。
しかしTikTokはそこから脱却しようとしているのが見てとれる。

その先にあるのは「ユーザーが若者中心」という状況からの脱却だ。

もしTikTokが広告モデルとして今以上の収益を得ようとするならば、ユーザー拡張がベターだ。
“TikTok自身のマーケティング戦略”が狙っているのはまさにその“ユーザーセグメントの拡張(リーチセグメントの拡張)”であろう。

ただし、ひとつのアプリのタイムライン上に多種多様なコンテンツが流れはじめることは既存ユーザーのニーズを乱すことにもなるので、この変革はリスクをとった挑戦だ。(AIを駆使したコンテンツ出し分けに自信があるのが戦略のウラにあるのかもしれないが)
これによって既存の若者は離れてしまうかもしれないし、その若者動画を見にきていた視聴者(ROM専)も離れていくかもしれない。

それでもなお、現状に満足せずチャレンジするTikTokに注目したい。

(おわり)

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