大河「いだてん」の分析【第40話の感想】 一番面白い事をやらなくちゃ!
長く続いてきたいだてんも、ついに最終章に突入。
今回は第40話「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の感想と分析を書きます。
※全話の感想分析を書いてます、他の回はこちら↓
〜第40話のあらすじ〜
1959年。東京オリンピックの招致活動が大詰めを迎えていた田畑(阿部サダヲ)は、東京都庁にNHK解説委員の平沢和重(星野 源)を招き、きたるIOC総会での最終スピーチを引き受けるよう頼みこむ。断る平沢に対し田畑は、すべてを失った敗戦以来、悲願の招致のために全力を尽くしてきた自分の「オリンピック噺」を語って聞かせる。それは、戦後の食糧不足の中、浜松で天才・古橋廣之進(北島康介)を見いだすところから始まる──。
1、泣けなかったものに泣ける、ドラマのチカラ
東龍太郎に紹介を受け、星野源演じる平沢和重が壇上へとあがる。
「彼はあの、“ジゴローカノー”の最後を看取った人物です」
ざわつく会場。
そして、平沢はおもむろに小学六年生の教科書を手に掲げて、語りはじめる。
私たち視聴者は、このシーンを知っている。
いだてん第1話のオープニングシーンのひとつで、まったく同じシーンを見たからだ。
でも正直に言って、第1回に観た時は、
これが東京オリンピックを決めるラストスピーチのシーンなんだなということはわかったが、それ以上は訳がわかってはいなかった。
星野源がちょい役で出てたなという記憶は印象に残っているが、星野源が演じる平沢和重がそこで語った演説の内容はうろ覚えで、そんなにピンともきてなかった。
あらためて言われてみれば、そういえば小学生の教科書の話しをしていた気がするなと、ぼんやり思い出せる程度だった。
しかし、だ。
まさか、第1話とまったく同じ演説なのに、今、あらためて聞くと、涙がどばどばあふれた。
不思議なもんだ。これこそドラマのチカラだと思う。
涙の理由は、この第40話までの、数々の仲間たちの想いや努力があって、戦争や敗戦もあって、“やっとここまでこられた”という到達感が共感できるようになっているからだ。ついに、なのだ。
2、名文、「五輪の旗」を一挙転記
その小学生の教科書に掲載されていたという、”五輪の旗”という文章の序文を見つけたのでここで転記しよう。
オリンピック、オリンピック。
こう聞いただけでも、わたしたちの心はおどります。
もうこの2行だけでも、泣ける。
いだてんの数々の回想シーンが頭にうかんでこないか?
オリンピック、オリンピック。
こう聞いただけでも、わたしたちの心はおどります。
全世界から、スポーツの選手が、それぞれの国旗をかざして集まるのです。
すべての選手が同じ規則に従い、同じ条件のもとに、力を競うのです。
遠く離れた国の人々が、勝利を争いながら、なかよく親しみ合うのです。
オリンピックこそは、まことに、世界最大の平和の祭典ということができるでしょう。
では、このようなオリンピック大会を開いたのは誰でしょうか。
それは、フランスの、ピエール=ド=クーベルタンという人です。
かれは、もともとは、歴史学者でした。
二十一才の時、勉強のためにイギリスに渡りましたが、イギリスは、当時のフランスに比べて、大変スポーツがさかんでした。しぜん、クーベルタンもスポーツが好きになって、スポーツのことなら、何でも知らないことはないほどになりました。それと同時に、スポーツが人間を立派にするのに、どんなに大きな力を持っているか、また、私たちの社会をどんなにあたたかいものにしてくれるかということを、よく知るようになったのです。
そこで、クーベルタンは、祖国フランスをよくするためには、未来を背おう青年たちに、スポーツを広める事が第一であると考えました。
これ、誰が書いた文章なんだろう?
もう嘉納治五郎か田畑政治が直接書いたとしか思えないんだけど。
「スポーツが、どんなに私たちの社会をあたたかいものにしてくれるか」とか、なんてスポーツを深く信仰した言葉だろう。
1912年には考えられないことだ。誰にも協力が得られず「なぜ運動会のために外国までいかないといけないんだ」と後ろ指さされていたんだから。
3、さあ、“一番面白い事”をやろう!
さて、今回のサブタイトルは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」である。
第40話。
ぐるっと回ってきて、ここでついに、第1話に帰ってきたのだ。“バック・トゥ・ザ・フューチャー”。
脚本家クドカンは、未来のワンシーンを先に事前にはさんでから、その後に過去をじっくり描いて、「最後にそのワンシーンに戻ってくる」「ああこういう意味だったんだ」と視聴者は気づく。この構造化はお得意のテクニックのひとつと思うが、でもこんなに長い期間をつかっての“バック・トゥ・ザ・フューチャー”はさすがに最長だろう。感慨深さも最高到達点だ。大長編の大河だからこそ、だ。
ここまでオリンピックに関わってきたすべての仲間たちの思いは、今ここに集結している。書き出せばキリがない仲間たち。
「面白いことをやらなくちゃ」と田畑は熱弁した。
「一番面白いことをやるんだ」と嘉納治五郎は最後に語った。
「そこだよ、そこ!」と平沢は言った。
視聴者の私たちも、力強くうなづく。
治五郎のいつもの決めゼリフに、魂がこもる。
(おわり)
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