『東京オリンピック大失敗』 超ショートショート


開会式が始まるその日、各局では朝から中継が始まりその瞬間を今か今かと待ち構えている。
スタジオでは芸能人らがヘラヘラと開会式がどんな催しなるか予想したり、金メダル期待の選手を何時間もかけて特集したりしている。そしてついに開会式がいよいよ始まる10分程前という時間になり…スタジオのアナウンサーが一旦スタジオの盛り上がりを抑えて、仕切りなおし、静かに話し始める。

「さぁ時刻は回りまして…はい…いよいよ始まります…東京夏季オリンピック。東京は国立競技場、もうすぐ始まる開会式ですが会場はすでにものすごい熱気を帯びているようです!」

映像は会場上空のヘリコプターからの視点に切り替わりアナウンサーはワイプで喋り始める。

「さあ、ではまず会場上空のカメラを見てみましょう! おっと…さっそくこれはなんでしょうか?会場周辺に赤いランプが沢山灯っていますが…あ、これは沢山の…救急車ですか?…どういうことでしょうか。スタジアムから沢山の方が搬送されている模様です。」

緊急の資料がADから慌ただしく渡される。
スタジオで騒いでいた芸能人らはきょろきょろとするだけである。
アナウンサーの読み上げる資料に注目が集まる。

「あ、はい。えー…たった今入った情報によりますと熱中症による脱水症状を多くの方が起こしている様です。運び出すのも一苦労のようで、スタジアム内は騒然としているようですが…まだ詳しいことは分からないようですね。えー皆さんくれぐれもこまめに水を取ってください!
はい、ここで現場からリポーターと中継が繋がっているようですね」

女性リポーターに映像は切り替わる。

「はい、こちらは東京国立競技場広場です。なんと現在の気温は37℃!猛烈な暑さです。見てください、会場にはこのように何台もの自動販売機が設置されていますが全て売り切れとなっています。この猛烈な暑さそして人々の熱狂でですね途轍もない溽暑となっています。湿った暑さに慣れていない海外の方にはかなり厳しい環境であったと考えられますよね。こういったことは当然想定されていまして、緊急の医療体制というのは会場近くにも設置されていたのですがそれでも間に合わないといった状況のようです。想定が甘かったのでは…」

突然、映像が会場内に切り替わる。

「あ、すいません。ここで一旦中継の途中ですが開会式がそろそろ始まる模様なので中継を終わります。ありがとうございました。あ、今スタジアムの真ん中に…これは日の丸ですね。さぁそして音楽が流れ始めました。皆さま…いよいよここから国民全員が待ちに待った東京オリンピックが始まります!」

莫大な費用と日本の技術を大結集させた開会式は大盛況に終わった。
「開会式はこれまでになく壮大でそして日本的なユーモラスも感じる素晴らしい世界一の開会式であった。日本のおもてなし精神を感じるもので現場で体験したものは本当に幸せものだろう」と海外メディアの1つが報じたことはその後連日、日本のメディアではニュースになった。

「さあ、大会初日朝がやってきました。今日はブルーインパルスが東京の空に五輪を描く予定です。」

「はい、時刻は変わりまして8時となりました。そろそろブルーインパルスによる五輪セレモニーが始まる模様です!」

なにもない東京の空が映し出される。

「あ、向こうの方からやってきました!ブルーインパルス5機です。カッコいいですね!颯爽と空を切り裂くように飛んでいます。あ、そしてさっそく白い五輪を描いていきます…!
きれいですね。あーーっと…しかし1機の様子がおかしいですね、あぁ、途中でスモークが切れてしまいましたね。何かの不調でしょうかね。全世界の人が見ているこの五輪セレモニーですが残念ながら1964の完全再現とはなりませんでしたね。…しかし!えーすごく美しい4輪がえー、空に描かれています。ブルーインパルスの勇敢なトライに世界中から称賛の拍手が送られることでしょう。素晴らしいチャレンジでした!」

その日の午前はそのおかしなアウディみたいなマークが東京の空にしばらく残っていた。

しかし、やはり国家予算というのはすごいものである開催前からエンブレムがどうとか賄賂がどうとか会場デザインがなんとかとか費用が過去最高でなんちゃらとか色々と言われた、この題して「復興五輪」は綱渡りをするようだが報道をねじ曲げる力も借りて何とか上手いことやっているのだ。それにしても毎日のように熱中症患者が湧くように出てくる。

ボランティアの緊急追加募集が決定した、東京オリンピックはまだ続きます。

「さて、明日はトライアスロンが行われる予定なのですが そのトライアスロンについてニュースが入ってきました。えースイムに使うお台場海浜公園周辺ですが、かなりの異臭が立ち込めていてとても泳げるものではないと多くの選手からすでに疑問視する声や怒りの声も届いているようですね…。4年に1度のオリンピックです…どうするのでしょうか?この事については大会前から大丈夫と言い続けていましたが。」

映像は会見の場に変わる。

「あ、ここで官房長官による会見が行われる様ですね。はい、もうすぐ会見が始まる模様です。」

会見が始まった。

「えー今回のお台場海浜公園の水質問題につきましては全力で選手のためにですね選手の安全なプレーのために全力で取り組んでいく所存でして、安全性が認められるまで明日のトライアスロンは一旦は延期…をするという決定になりました。大会日程が変わってしまうということに付きまして大変に遺憾であると考えていますが今は選手ファーストでですねこの件については全力で取り組んでいく所存であります」

記者からの質問の時間となる

「この件については、大会前から問題となっていましたよね?どうして本番になったまたこういったことになっているのですか?」

「水質についてはですね、何度も検査もしてですね。問題ないという。これはもう科学的に見て科学的な根拠に基づいてですよ、安全であると証明されていますから。ただですね、選手ファースト…ですから。選手のことを考えるとより良いプレーをしてもらいたいと思ってますから。選手の要望に答えたという形であります。決して、決して私達の準備不足であるとか想定が甘いとかそういったことではなくてですね、あくまで選手のことを考えた上での決断であります。」

さて数日後にスイム中止が決定したがそのことはやんわりと報道されるにとどまった。

天気予報のコーナー。天気予報士とアナウンサーがCGを背に右端と左端に立っている。

「天気予報です。現在沖縄に向かって過去計測史上最大と見られる台風14号が上陸してくる模様です。ここで台風の進路を見ていきましょう。台風は沖縄の上をこのように通過したあと、九州地方全体に覆い被さるようにして通ったあとですね、徐々に北上していくのですが…ふへへへ、幸いにもですね、ここ」

と天気予報士は言って東京を指し棒で指し笑いながら女子アナと目を合わせた。

「東京の方にはかからずにこの新潟の方にですね、流れていくと予想されます。オリンピックはね、何とか無事にくぐり抜けてくれるだろうと…思いますねぇ。えーこれから台風情報しっかりと見てですね台風にはくれぐれも気をつけていただきたいと思います。」

沖縄が台風の猛威にさらされているころ、東京ではスポーツの祭典が依然盛り上がりをみせていた。そうなるとなかなか沖縄の被害状況は報道されないものである。

「こちら定点カメラからの現在の沖縄の様子です。ご覧ください。ものすごい暴風雨で木が大きく揺れています。あちらこちらで何かの大きな破片が飛んでいたりと大変なことになっています。沖縄の皆さんくれぐれも身の安全第一に優先して行動してください。
さぁーて、続いては皆さまお待ちかね!スポーツのコーナーです!ますます盛り上がって来ました東京オリンピック!現在のメダルの数は…」

こんな具合にオリンピックに浮かれたまま
また数日が経った。

「ニュースです!今日行われるサッカー決勝ですが…選手がまだ到着出来ていないという情報が届いています。どうなっているのでしょうか。現場から中継です」

リポーターが人混みに押しつぶされそうなっている。

「はい…!こちら新横浜駅前なのですがものすごい人だかりでなんと大通りの道路のほうにもですね、溢れそうなほどになっていまして一部過激なサポーターによってですね。道路が塞ぐような形なってしまったりしてもう殆ど車は先程から進んでいない状況です。選手を乗せたバスですがやっと会場から5km程のところについたのですがそこで立ち往生しているようでもうすぐ試合開始予定時刻になるところなのですがまだ到着すら出来ていないという…えーオリンピックは選手ファーストということですからこのままだと…」

画面はスタジオに戻る。
司会のおじさんはしかめっ面である。

「いやぁこれ大変なことになってるねぇ。駅から競技場まで微妙に距離があるからさ、そこで人がごった返しているんだよね、どうするんだろうね。これ、試合に大きな影響が出ちゃうよね。横浜市は準備不足だったんじゃないですかねえ。う〜ん」

サッカー決勝は予定より遅れに遅れ夜の11時にやっと始まった。渋滞に巻き込まれた方のチームが負けてしまい。日本の大会運営における責任が問われる形となった。しかしそんなことは終わったことである。大変なニュースで深夜の東京は持ちきりである。

「ニュースです!沖縄、九州、中国、近畿、で猛威を奮った台風14号ですが、予報では北陸地方に抜けていくものと思われていましたが、東海地方をそのまま真っ直ぐと進み、なんと東京へとものすごいスピードで近づいてきているようです。」

朝4時ごろ東京についにその猛烈な台風が上陸してきた。

「朝のニュースです。大変なニュースが届きました。オリンピック…なんと閉会式が出来ないかもしれません。閉会式が出来ないと大会は終われません…!現在の様子です。」

カメラに映し出された国立競技場は一部炎が上がっていた。放水車が消そうと試みているが水は届いていない。

「えー今入った情報によりますと台風によって聖火が煽られて国立競技場に引火した模様です。必死の消火活動が続いていますが。火はいっこうに収まりません。皆さん安全のため現場からは離れてください!」

と映し出された現場近くにはたくさんの人が集まっていた。待ちに待った東京オリンピック!そのメインスタジアムが燃え盛っているのである。皆スマートフォンを手にその様子を映像に収めている。台風はあるはずだが今は雨は降っていない、しかし風は依然暴風であった。それが余計に火を煽るのである。

「おい!援護の消防はまだか!」

「それが道路が混み合っていてサイレンを鳴らしてもなかなか通れないと…」

「交通量は調整してないのか!」

その時燃えている破片の一部が暴風によってついに剥がれ落ちそのまま野次馬どもの元へと風に煽られ勢いよく飛んできた。
悲鳴が上がる。逃げ惑う人々。すると今度はまた大雨が降ってきた。大洪水で地下のインフラは死んだ。逃げることすら出来ない人々で東京は溢れかえった。
想像を絶する甚大な被害、そしてオリンピックという国際的な祭典における恥さらし。大変なことになった。

もう閉会式どころではない。

台風が来るかもしれないそんなことは分かっていたがもうそんなことは神頼みするしかないだろう。誰の責任でもない…そうだろうか?
そもそもオリンピックをやろうって誰が言ったんだ!
税金の無駄遣い!社会保障にあてろ!
成功していればこんな議論は起きないか、もしくは感動による排除で誤魔化せるが失敗すればこうなるのは当然である。

会見に向かうは我が国の内閣総理大臣である。

「えー今回の台風よるオリンピック閉会式の中止についてですが、これについては、まぁ大変遺憾であると思いますが、責任問題という点につきましては、言わばこれは天災でありますから、誰が悪いというわけではない。ということはまず言っておきたいと思います。えーそして閉会式につきましてはですね、後日大会の組織委員会の方でですね、これで終わりというような閉会宣言をしっかりとする機会を設けて対応しようというふうに決まってまして…まあそこは問題ないと申し上げておきたいと思います。で被害における賠償責任につきましてはえーまぁいわば真摯に全力で取り組んでいく所存でありますから、そこは心配なさらず冷静になっていただきたいと思います。」

記者からの質問の時間だ。

「被害にあわれた方々への対応ですが、現在東京だけでなく西日本ほぼ全域で被害が出ているようですがその復旧作業は進んでいるのでしょうか」

「それにつきましては…えー人員が足りていないということもありましてあまり進んでいないという状況でありますが真摯に全力で対応していく所存であります」

「新国立競技場は膨大な維持費などもかかるわけですが、その後の収益なども考えると有益であると言うことでしたが、かなり燃えてしまいましたよね。新国立競技場は今後どのようになりますかね」

「あはっ。あのですね。流石にそれは私に聞かれましてもね。それは今、私がこうしますと一存で決められることではないですから。これからまぁ、十分に有識者会議をして決めていくといわばそういうことになると思います。が決してあのマイナスになるとか損するとか国家の財産を無駄遣いするようなそういうことには絶対になりませんから。マイナスというのは絶対にないですから。はい。すでにですね、今回のオリンピックでかなりの経済効果を上げていますので。これはもうデータでしっかりと示されていますから。」

スタジオに戻る

「はい、ここで一旦会見の途中ですが。また新たにニュースが入ってきました。九州地方で今回の豪雨災害による原子力発電所の…」

さて大事な大事なオリンピックの時に大災害に襲われてしまった日本。それでも閉会まではしっかりしなきゃいけません。

後日、一部焼け焦げた国立競技場の広場にて閉会セレモニーが一応開かれた。

五輪の描かれた台上に日本の総理大臣が立ってそしてこう宣言した。

「これにて東京オリンピック…終わり!」


超ショートショート




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