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ブレスオブザワイルド フィールドワークの旅 その3 ガノン、実は弱かった説

前置き ブログ制作裏話

 『ブレスオブザワイルド』にまつわるお話が今回で最後。今回のお話の元になっている『「ブレスオブザワイルドのあれなんだろう?』は2018年公開。その後、『ゼルダ無双』の内容を踏まえて「増補版」を書くにあたり、私は『ブレスオブザワイルド』をもう一度最初からプレイし直すことにした。今回は攻略本を買い、追加ダウンロードコンテンツも購入して、隅から隅まで、見逃しを出さないようにゲームを進めて、「クリア達成率100%」までやりこんだ。

 そこで改めて――名作だなぁこれ……と思い知った。
 最初からプレイし直しでダウンロードコンテンツもプレイしてさらにクリア達成率100%まで遊んだのだから、数百時間ハイラルで過ごしたことになるが、この世界観に飽きることはずっとなかった。ただひたすらに楽しかった。それどころか、ずっといたい……という気になっていた。
 それがあるとき、「クリア達成率100%」の数字を見て……「あ、もう終わらなくちゃいけないんだ」……と気付いた。いよいよハイラルともお別れ……その時、なんともいえない寂しい気持ちに捕らわれてしまった。

 あまりにも長い時間ハイラルにいて、あの風景に馴染んでしまって、もはや第2の古里……くらいに感じていたのだが、しかしお別れの時が来てしまった。そんな時になって、改めて感じる。これが名作だったんだな……と。
 というこのエピソードも2021年の話で、ゲームの発売から数年が過ぎている。Nintendo Switchのロンチタイトルだし、もともとはWiiUのゲームとして作られた作品だ。しかしまだ作品は古びていない。揺るぎない強さのある作品だと感じた。

 もうすぐ続編となる『ティアーズ・オブ・キングダム』が発売される。あのリンクの冒険の続き、あの物語の続きが始まる。その時が楽しみで仕方ない。しかし一方で、またハイラルから現実に戻れないんじゃないか……そんな不安もあったりする。

ガノン、実は弱かった説

 今回取り上げるテーマはこちら。「ガノン、実は弱かった説」。といっても「ゲームの難易度」に関するお話ではありません。物語の背景を読み取って、今回のガノンがどういった状態であったのかを推測していこう……というのが趣旨だ。

 『ブレスオブザワイルド』をはじめて、まず誰もが最初に行き当たる疑問は、あの巨大な髑髏だろう。ハイラル各地で見られ、ボコブリン達が雨風をしのぐ住居に使っているあの巨大髑髏だが、あれはいったいなんなのだろうか?

 ヒノックスの髑髏だろうか。いや、ヒノックスよりも明らかに巨大な生き物だ。
 かつてあのような巨大な魔物がいたということだろうか。それとももしかするとボコブリン達が彫り上げたアートなのだろうか。

 私が『ブレスオブザワイルド』を始めた当初、あのクラスの巨人がどこかでボスとして登場するんじゃないかと思っていた。ただの背景オブジェクトとしてはあまりにも意味ありげだ。ところが、最後まであのクラスの巨人と出くわすことはなかった。
 ではあの巨大髑髏はなんだったのか。ただの雰囲気作りのものだったのか。

 ハイラルでの旅を進めていくうちに、次第に答えが見えてきた。デスマウンテンの溶岩の中に、胴体と頭部が繋がった状態での死骸が発見された。これであの巨大髑髏がボコブリン達のアートではなく、どこかの時代では確かに存在し、活動していたことが確定した。

 ゲルド砂漠へ行くと、同じく巨大な生物の骨格を大量に見いだすことができる。ゲルド砂漠で大量に発見されるのは、空気が乾燥していたことと、砂に埋もれて良好な状態で保存されていたからだろう。掘り起こすともっと多くの骨が発見されるかも知れない。
 ただし、ゲルド砂漠の骨格遺物のほとんどは頭部が持ち去られていた。これはボコブリン達がハイラル各地に持ち去ったためだ。デスマウンテンの溶岩に沈んだ骨格だけが頭と胴体がくっついた状態で発見されたのは、持ち去ることができなかったためだ。

 もちろんゲルド砂漠にも髑髏はある。ただし胴体部分を切り離され、怪物達の住居となっている。

 ハイラル各地に残されている骨格には、もう一つ、欠けている箇所がある。どの骨格も下半身がない。これはいったいどういうことなのかはわからない。足がない状態で生成されたのか、それとも戦いの最中に破壊されたのか、もしかしたら地面に埋まっているのか……この理由は完全な骨格が発見されるまで、なんともいいようがない。

 とにかくも、かつての時代では現在よりも巨大な怪物がたくさんいて、それがガノン軍の手先として人間を脅かしていた。
 問題なのは、どうして今の時代にはそういった怪物達の姿がなかったのだろうか。ここを掘り下げて考えてみよう。

 まずモンスター達が復活する瞬間を見てみよう。
 赤い月が昇ったとき、倒したモンスター達が復活する。ボコブリン達は“生物種”ではないので、魔法の力で定期的に再生成される。生物学的存在ではないので、生殖器などはなく、子供もいなければオス・メスの区別もない。最初からあの形で生成され、死んでいく。

 それにしても、赤い月が昇るときに、どうしてボコブリン達は復活してしまうのだろうか。
 考え方は2つあり、1つは月にガノンの力が宿っており、その月から魔力が地上に向けて照射されている可能性だ。
 もう1つの考え方は、赤く光っているのは大地であって、月はその光を反射しているに過ぎない……というものだ。
 月とガノンの因果関係は今のところよくわかってないので、私は後者の考え方を採用する。つまりガノンの力はハイラルの大地そのものに根をはっている状態なので、その力が漲るとき、地上全体が赤く光り、その光を月が反射するわけだ。
 しかし大地が赤く光っているといっても、それはささやかなものなので、地上にいる人たちには赤く光っている大地をほとんど感じることができない。宇宙から見下ろさなければわからないくらいの弱い光だ。でもそれは全体で見ると結構な光なので、月に光が反射してしまっている。
 これは私の仮説なのだけど、しかしこの考え方には無理がある。私たちの文明は夜も煌々と街を照らすだけの力を持っているが、それでも月に光を映すほどでもない。月に光を映すほどの光……ということであれば、もっともっと大地が赤く光っていなければならない、ということになる。
 するとやはり月自体が赤く光っている……という可能性に戻ってくる。ガノンは一時的に月に力を宿し、そこからハイラルの大地に向かって魔力を照射している……。
 結局のところ、「赤い月」と「モンスターの復活」にどんな因果関係があるのかわからないままだ。

 次にモンスターが再生成される瞬間の画像を見てみよう。赤黒いエフェクトが現れ、モンスターが一瞬にして成形される。
 これは“復活”の瞬間というより、新たに成形している瞬間ではないのだろうか。というのも、ゲームを進めていくうちに、やがて強力なボコブリンやモリブリンが姿を現すようになっていく。同じ個体を再生しているのであれば、同じスペックの生物が再生成されるだけだ。しかし一段階強い怪物が生まれてくるのは、新たに作っているからではないだろうか。それに、もしも同じ生物が復活しているならば、体のどこかに記憶を示す傷跡が残っているはず。それが見当たらない。
 ガノンは封印されている最中でも、リンクの再訪を察知し、それを妨害してやろう、という意思をもっているのだ。

 とにかくも、赤い月が昇るたびにモンスターを新たに成形していると仮定すると、ガノンにはモンスターを自由にクリエイトする能力が備わっていると推測できる。かつての戦いでは、もっと様々なモンスターが大量にクリエイトされ、人間勢力と戦っていたのではないだろうか。ハイラル各地に残されている巨大髑髏の数を見るに、かつてのガノンにはあれだけの巨大さと数を生産するだけの精力を持っていた。砂漠地帯にあれだけの数で残されていたわけだから、ハイラル全土で見ると、途方もない数の巨大生物が生産されていたと推測できる。

 それが今の時代ではボコブリンやモリブリンといった、ちっこい魔物をちまちま生産するだけの力しかない状態になってしまった。ヒノックスやライネルといった強力な魔物も生産されていたのだけど、ヒノックスはいつも適当なところで寝ているだけだし、ライネルはボコブリン達と共闘して人間と戦う意欲をあまり見せない。
 『ブレスオブザワイルド』の時代ではゼルダ姫がガノンの魔力を抑え込んでいたから……という理由があるが、ガノン自身、モンスター達に働きかけ、団結を促すだけの影響力を持てていなかったのではないだろうか。

 「全盛期」と評される『ゼルダ無双』の時代であっても、クリエイトされたのは大量のボコブリンやモリブリン達だった。この頃ではヒノックスやライネル達も、ボコブリン達と足並みを揃えて進撃してきている。『ブレスオブザワイルド』時代と比較すると、恐るべき時代だったというべきだが、しかしあの巨大髑髏の持ち主となる巨人はとうとう姿を現すことはなかった。
 これはガノンの力にも衰えが現れていて、『ゼルダ無双』時代であっても完全な力として発揮できなかったからかも知れない。

 別の側面からガノンの力を推測してみよう。

 ハイラル各地には、奇妙な遺物が多く残されている。例えばテルメ山周辺には、まるで生き物の肋骨を思わせるようなオブジェが残されている。これは何かしらの生物の痕跡だったのだろうか。

 似たようなオブジェはボネ湖でも見いだすことができる。

 ハイラル城へ行くと、黒いドロドロしたものが覆っている。「怨念の沼」と呼ばれるものだ。この沼は見ていると、いくつもの突起が突き出ている。これらの突起はテルメ山脈に残されている突起と形が近い。ではこの突起がなんなのか、そもそもこの黒いドロドロしたものはなんなのかを考えてみよう。

 ここでもう一度、モンスターが再成形される瞬間の画像を見てみよう。赤黒いエフェクトが現れて、それがうにうにとなってモンスターの形が生成される。この赤黒いものは、実はあの怨念の沼と同じものではないだろうか。
 ガノンはあの赤黒いドロドロを生成し、ねんどのように捏ねて、形を整え、魂を与えてボコブリンのような生き物を成形する。それが魔法の力でやっているから、一瞬で成形できるというわけだ。

 怨念の沼を見ていると、時々目玉のようなものが付いていて、その目玉は近くに人がいることを察知すると、カースボコブリンと呼ばれるモンスターを無限に生成し続ける。ここからも、あの赤黒いものがモンスター達の元素になっているものと推測ができる。

 おそらくは本当の全盛期時代のガノンはもっと大きな怪物をたくさん生成できたのだろう。あの赤黒いドロドロしたものは、何かしら生成しようとしたけれど、魔力が足りず、それでもドロドロしたものは人間には毒性があるから、そのままの形でべったりと貼り付かせておこう……というものだろう。

 ギザの丘のシーカータワーの周囲には怨念の沼がべったりと貼り付いている。ガノンにはシーカータワーにリンクを近付けさせたくないという考えがあったが、しかし怪物を生み出すだけの魔力が足りず、仕方なく怨念の沼状態で貼り付かせることにした……という感じだろうか。

 そうそう、注釈を入れなければならないが、ネルドラ・オルドラ・フロドラの3体はガノンが生成したモンスターではない。おそらくこのハイラルの大地に人間が住み着く以前から存在していた霊的な存在だ。人間に味方するわけでもなければ、敵対するわけでもない。打倒の対象ではない。
 特にネルドラは一時ガノンの魔力に蝕まれていたことがあったので、これだけでもガノンと対立する存在だということはわかるはずだ。

 では全盛期のガノンがどれだけの魔力を秘めていたのかを考えていこう。

 その推測に入る前に、『ブレスオブザワイルド』の物語中で引っ掛かっている問題について考えていこう。それは神獣の大きさだ。

 神獣の大きさだが、なぜあんなに巨大なのか。『ブレスオブザワイルド』時代に登場する最大級の怪物は、せいぜいヒノックスだ。人間側からするとヒノックスも大きいといえば大きいが、ヴァ・ナボリスやヴァ・ルッタといった神獣の前に立つと膝ほどもない。かつてヒノックスのような大きさのモンスターが軍団でいたとしても、ヴァ・ナボリスやヴァ・ルッタは大きすぎだ。

 神獣が大きすぎるとどんな問題が発生するかというと、運営と維持が大変になる。巨大になると動かすために多くの燃料を必要とするし、メンテナンスも大変になっていく。大きくすればするほどに機動力が削がれていく。メインウェポンであるビーム兵器は強力すぎて、ヒノックスの軍団がいたとしても、あれは強すぎ。

 もしメカゴジラを作ろうと考えたとき、対戦相手であるゴジラの数倍の大きさにしてやろう……とは考えない。だいたい釣り合いが取れるように作るものだ。

 ガーディアンにしても、数が多すぎだ。なぜあれだけの数を作る必要があったのか。語り継がれている物語によれば、あたかもガノン1人倒すためだけに、神獣やガーディアンが製造されたように語られている。相手が本当にガノン1体だけであれば、あの大きさの神獣も、ガーディアンの軍団も必要ないはずだ。やっていることが明らかに過剰すぎる。
 でも不要もなく生まれてくるものはない。どうしてヴァ・ナボリスやヴァ・ルッタといった大きさの神獣が必要だったのかを考えてみよう。

 神獣があの大きさでなければならなかった理由は、ハイラル地方の地形の中に残されているはずだ。そのために、あの赤黒いドロドロ……怨念の沼の性質についてさらに追求してみよう。

 あの怨念の沼はガノンの魔力が強力に照射されると独立した生き物として成立するようになるらしい。しかし魔力が不充分の場合は「怨念の沼」状態となって残される。「怨念の沼」と呼ばれている形態は不完全な状態ではあるが、まだガノンの魔力が、電気が通電しているように残っている状態のことである。もしもこの魔力が抜け落ちると、どのようになるのか。

 そのヒントを求めて、ハイラル平原の南東、「底なし沼」と呼ばれる場所へ行ってみよう。

 ここもかつてガノンが巨大生物を錬成した痕跡を確認できる場所だ。中心地にある巨大なオブジェは地上からわかりにくいが、地図で見ると巨大な角を持った頭部であることがわかる。

 この地図だとわかりづらいが、ゲーム中の地図を確認すると、はっきりと「頭部」の形が確認できる。

 周囲を見回してみても、その生物の骨だったであろう残骸が確認できる。かつての時代では、こんな巨大なモンスターもいたのだろう。この残骸が現役で活躍していた頃は、ガノンの魔力も今よりはるかに強力であっただろう。

 このエリアについてさらに詳しく見てみると、奇妙な形の石が見つかる。天然の石とは違う、生物的な質感を持ちながら、でもなにかしらの生き物とも違う、奇妙な形の質感だ。おそらくこれは、ガノンが残した怨念の沼からやがて魔力が抜け落ち、石化してこうなったものではないだろうか。

 似たような質感の石は、採石場から少し北へ進んだところの壁面や、あるいは闘技場跡周辺にそれを思わせる痕跡が見られる。こういったところも、かつては怨念の沼がべったり貼り付いていて、それがやがて魔力が失われるとともに、ああいったふうに石化したのだろうと考えられる。

 そう考えると、ガノンが魔物を錬成した痕跡は、ハイラル地方のあちこちに見ることができる。
 そのなか、旅をしていると、突き抜けて巨大な痕跡をある場所で見いだすことができる。

 それはハイラル平原から西へ、カロク橋を通り抜けたところで、突如出現する。
 そこは「終焉の谷」という名前で残されている。名前からしても意味深だ。
 地形を見ると、大地が何かしら得体の知れない力で引き裂かれ、まるでその下から何かが出現したかのような形だ。見落としてはならないのは、岩肌の質感。いずれもガノンの魔力の痕跡が残されている。これは何なのか?

 これは天然自然の現象で作られた風景なのか。私はそうではないと考える。これも、かつてガノンが巨大生物をクリエイトした痕跡だったと考える。それがあまりにも脅威だったので、「終焉の谷」という不吉な名前が後の人々によって残されたのではないか。
 私の想像だが、大地の下に巨大なサナギが眠っていて、あるとき、それがぬっと姿を現し、大地を引き裂きながら起き上がった……。その時の痕跡のようにイメージしている。

 アッカレ地方北部にもカザーナ列谷という名前で、似たような痕跡が残されている。地形を見ると、ここだけ奇妙に落ち込み、何かしらが下から出現したように、メリメリと大地がめくれ上がっている。さらにその先端部分を地図上で見ると、髑髏の形をした池になっている。これもひょっとすると天然自然に作られたものではなく、そこに生成された怪物の頭部の形が残ってあのようになったのではないだろうか。

 右目のところが石の柱になっている理由はわからない。
 わからないのだけど、あえて想像してみると、ここで巨大な怪物が成形され、起き上がろうとした。そこに、巨大な石の柱を杭にして、頭部に突き刺した。かくして怪物の頭の形が地形に残され、怪物を押しとどめた杭が柱として残った……そんな感じだろうか。

 終焉の谷とカザーナ列谷の2つこそが、ガノンが本当に全盛期だった頃の痕跡であると私は考える。あのスケールの怪物がいたと考えれば、神獣があの大きさであることに納得がいく。神獣はあれくらいの大きさでなければ、その当時のモンスターに対応できなかったのだ。

 それにしても「終焉の谷」から生まれたモンスターとはどんなものだったのだろうか。「終焉の谷」という不吉な名前が残された理由とはなんだったのだろうか。絶望的に大きかったから、そこから生まれた生き物が人間勢力の脅威となった……いろいろな理由が考えられるだろう。

 すこし、私の個人的な想像の話をする。

 古い物語を伝えるタペストリーを見ると、中心に描かれたガノンがやたらと大きい。同時にリンクとゼルダ姫も大きく描かれている。タペストリーは織物だから、ここの情報量を上げようとしたら、絵のサイズも大きくなるのは仕方がない。物語の主人公を大きく書こうという意図があったのかも知れない。
(もう一つ、これは「ファミコンのグラフィック」を意識して書かれたかもしれない。要するに、スプライト1つぶん。リンクも、シーカー族も、ガーディアンもスプライト1つぶん。ファミコンのグラフィックはサイズ感に都合を付けることができなかったから……という時代を意識して書かれているのかも……)
 しかしガノンのこの大きさはなんなのだろうか。周囲のガーディアンとサイズ比較しても、異様な大きさだ。これは絵画的な誇張ではなく、本当にこのサイズだったとしたら……。ガーディアンが小さく見えるくらいに、かつてのガノンが巨大だったとしたらどうだろう。
 そんな巨大なものがかつてのハイラルに生まれたという痕跡が残されているとしたら、それこそまさに「終焉の谷」ではなかったのだろうか。そしてあの谷から生まれたものこそ、ガノンだったのではないだろうか。

 かつてのガノンはそれくらい巨大で、魔力も圧倒的だったから、それに対抗するために、神獣も巨大でなければならなかった。その時代はザコモンスターも強力だし数も多かったから、ガーディアンもあの数で生産されたのではないか。
 大量のガーティアンを従えての戦いが圧勝だった……というのは後の人が考えた物語だ。実際はそうではなかったのではないか。

 それも遠い昔の話で、確かなことは何も残されていない。あくまでも私の想像だ。

 かつてのガノンは今よりもっと巨大な怪物をクリエイトしていたし、もっとバラエティ豊かな怪物の軍団も作っていた。数も多かっただろう。『ゼルダ無双』の時代が可愛く思えるくらいに。
 それも歴史の最終局面である『ブレスオブザワイルド』時代に入ると、最盛期の頃のような冴え渡る魔力ももうない。だからこそ、探窟されたばかりで人間側もうまくコントロールできないガーディアンや神獣を乗っ取り、人間文明を崩壊に導いた。かつてのような力はなくても、ガノンには狡猾さだけはしっかりあったわけだ。
(ガノンは人間達よりガーディアンがどういうものか、よく理解していただろうし)

 ガノンの脅威はハイラルの国防意識に火を点け、それがガーディアンや神獣を作らせ、またアッカレ砦のような堅牢な要塞を作らせた(アッカレ砦は当時の外敵を防ぐためだと考えられるが)。
 しかし平和な時代に入ると、兵器の存在そのものが争いの原因となってしまった。ガーディアンのような強力な兵器製造技術を持ったシーカー族は、ハイラル王から弾圧を受け、とうとうその技術を捨ててしまうことになった。
(あるいはガーディアンを使ってハイラル王はシーカー族を弾圧した……シーカー族のように体術も優れた相手を圧倒するとしたら、そういうことではないか)
 人間は大きな敵を失うと、身近なところから敵を見出し、それと戦うようになってしまう。敵がいなければ平和を維持することができない、哀しい生き物だ。

 『ブレスオブザワイルド』の物語にはいくつもの疑問が残る。『ブレスオブザワイルド』の物語の中では、1万年前のガノンの戦いと、100年前、それから現在の3つの時代についてしか語られない。
 しかしハイラル地方の地形をつぶさに見て行くと、1万年前よりももっと近い時代に何かしら大きな事件があったらしいことを伝える痕跡があちこちに見て取れる。底なし沼やテルメ山に残された痕跡はそれよりももっと新しい。しかし100年前『ゼルダ無双』の時代に語られていないから、それより前。その時にも、もう一度ガノンが復活していたはず。でもその時代の物語については語られていない。

 ガノンは1万年前に出現し、以降ずっと出現しなかったわけではない。おそらく何度か姿を現している。しかしそれがどれくらい前だったのか……。
 私たちの歴史を見ると、100年前、200年前の出来事ですら、うすらぼんやりしている。東北の震災の時、多くの人々は地震の後に津波が来る……ということを忘れていた。過去を振り返ると、同様の災害は70年前である1933年に起きていた。70年前のできごとすら私たちは忘れて、「そんなの来るわけないよ」と言いあっていた。世代が1つ変わるだけで、それだけ忘れ去られてしまうのだ。
 ガノンのようにごくたまに出現して、人間文明を危機に陥れる……誰がそんな話を信じるのか。
 私たちはよく「世代間ギャップ」という言葉を使う。これは世代が1つ移るたびに、それだけ記憶が消えてしまう……ということを示唆している。これがさらに2世代、3世代となるとどんどん記憶は薄くなっていく。私は個人的に大正時代や明治次第の記録を調べたりしているけれど、そういった時代になるとどこかリアリティを感じない。どこか「遠い歴史のお話」みたいに感じてしまう。でも考えてみると、大正時代や明治時代というのはせいぜい2世代前から3世代前……大きな歴史的な視点で見るとわりと最近だ。それくらい最近の話でもどこか薄らぼんやりしている。どこか“伝説上の出来事”のように感じてしまっている。

 さらに1万年前となるとどうなるだろうか。私たちの歴史では、1万年前といえばようやく農耕文明が生まれた頃だ。紀元前3000年頃、はじめて鉄を作った細工品が登場し、初めての帝国であるヒッタイトが出現したのが紀元前2000年前。ローマの王政が始まったのが紀元前750年前。そんな時代にどんな“危機”があったか、私たちはほとんど何も知らない。
 ハイラル王はそんなに長い時代と同じくらい、1つの一族が統治する社会を築けていたのだろうか。ハイラル最後の王と呼ばれる。ローム・ボストレームス・ハイラルはいったい何代目の王だったのだろうか。
 いや、そもそも1万年も歴史を紡げるような王権なんて本当にあるのだろうか……。

 ガノンは1万年前の時代の他に、ハイラルの歴史の中で何度か繰り返し復活し、人間文明を追い詰めてきたのではないか。ゼルダ姫の一族も常に王族として君臨してい訳ではないだろう。時に……例えば海賊になっていたかもしれない。それこそハイラル・ヒストリー全体が『ブレスオブザワイルド』の大きな歴史の中に格納されるのではないだろうか。

 その大きな歴史の中で、ガノンは何度も復活し、魔力を行使し、様々な魔物を生産し、人間文明を陥れて……『ブレスオブザワイルド』時代になるとその能力はすっかり出がらしになっていた。一方の人間文明もいよいよ限界の時を迎えて、ガノンという脅威がなくても、人間文明は緩慢とした死を迎えようとしていた……ひたすら消耗戦を繰り返した末に、そういう時代が来てしまった、というのが『ブレスオブザワイルド』ではなかったのだろうか。

 シーカー族が語り継いだように思える歴史の物語も、「語り継いだ」ものではなく、どこかで「再発掘された」ものではないだろうか。1万年もの間、1つの物語をリアリティを持って語り継ぐことはできない。私たちもそうだけど、たいていの古い建国にまつわる物語を、私たちは「神話」というファンタジーだと思い込んでいる。「ガノンとリンクの転生物語」は歴史の最終期を前にして、考古学がようやく見付けた歴史だったのではないだろうか。

 人間文明はどうあがいても間もなく崩壊する。そいう時代を背景にして、ハイラル王家はようやく成立し得たものではないか……。ガノンという脅威を知り、文明の突然死・カタストロフを回避するために、ハイラル王家を作り出し、姫の能力を確実に引き出し、維持できるように儀式を慣例のものとした。
 だからこそ本当にいるかどうかわからないガノンに、ハイラル王はあれだけ強く警戒し、ゼルダ姫に強く当たっていたのではないだろうか。そもそもハイラル王家の存続意義が、対ガノンのみを目的としていたから……。

 『ブレスオブザワイルド』の世界観は、1つの国、1つの文明が終わっていく姿が描かれていった。ガノン討伐によって、決定的なカタストロフは回避された……という結末で終わっているが、文明として再生可能か、というとおそらくもう無理だろう。
 残った人々はごくわずかだし、その人々も各地に分散して団結するほどの力は残っていない。いや、団結させるに足りる「物語」を喪った状態だ。各地の馬宿にいる人々が、大きな国家というものに対し、帰属意識を持っているとは考えられない。天然資源も取り尽くした後だ。文明を作るためには充分な量の天然資源との取引が必要だが、その多くは刈り尽くされた後……。
 要のシーカー族の知恵もほとんど引き継がれていないうえに、それを実現させるためのモノが不足している。モノが不足している状態では、どんなに知識があってもそれを実現させるのは無理。かつて作っていたガーディアンなどは再現不能技術だ。
 100年越しにガノン討伐の悲願を達成し、カタストロフは防いだが、ハイラルの黄昏は終わらなかった。それが『ブレスオブザワイルド』の物語だった。だがその歴史は絶望で終わるのではなく、ささやかな希望と平和を感じながら静かに終わるのだった。

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