キング_アーサー_タイトル

Netflix映画 キング・アーサー

 映画冒頭からいきなりムマキル。しかももの凄くでっかい。ムマキルが軍団を薙ぎ倒し、橋を崩壊させ……とかなり痛快。映像の速度はスローと早送りを映画の最後まで何度も繰り返す。ノーマル速度のまともな映像がなかなか出てこない。映像の撮り方、編集のセンスがいかにもガイ・リッチー監督で格好いい。

 『キング・アーサー』は「アーサー王伝承」に出てくるキーワードを部分的に拾って、あとは好き放題に作られたファンタジーだ。「考証? なにそれ?」と言わんばかりに、思い付くままにアイデアを突っ込んでいる。魔法やモンスターが次々と出てくるが、そのどれもが面白い。ムマキルもダークアイランドのモンスターも、ピーター・ジャクソン映画で見たなぁという気はしたけれども、概ねは独創的で楽しい。
 設定の作り、物語の運びが独創的で、よくもこんなストーリーを思い付くなと感心するし、どのパーツを拾ってもガイ・リッチーらしい。アーサー王ネタの二次創作はライトノベル界隈で大量に作られて続けているが、そのどれも『キング・アーサー』の独創には及ばない(ライトノベルの最大の弱点は、時代に捕らわれすぎることだ)。

 王の子が舟に流されて売春宿に行き着き、そこの女達に育てられる……。スラム街で育ち、過酷な環境下で腕を磨いていき、とある不運に巻き込まれたと思ったそこが実は運命の入口だった……この30分の冒頭だけで結構やられた。
 ガイ・リッチーらしさは編集。とにかくも時系列通りに進まない。子供時代はイメージが超高速で流れていくし、「語り」のシーンになると場面と時間があちこちに飛躍していく。ダークアイランドでの修業時代も、相当いろんなことが起きているのだが、ざくざくと切り捨ててとんでもない速度で修行を完了させてしまう(物語中に起きたことを素直に編集したら、何時間の映画になるのだろう?)。映画全編、ガイ・リッチーらしい編集エクスストリームを体感できる。
 ただ、そのぶん、情報量が多すぎる。なにしろ、落ち着いて対話するシーンなんてものがほとんどない。対話が始まったら、その時点でどんどんシーンと時間が飛躍し、どんどん情報が突っ込まれていく。編集エクスストリームは愉快ではあるが、把握することが大変だ。見落としや混乱があちこちにあって、一見しただけでは把握しきれない。
 映像の作りはとにかくもスピーディで荒々しい。トリッキーなカメラワークが次々と投入される。街中を疾走するシーンの俯瞰映像に、役者の顔にぴったり合わせたカメラ。まともな構図がなかなか出てこない。「歴史物」としてのどっしり感は全くなく、とにかくカジュアルでジャンキーな映像が並ぶ。
 かなり荒々しく、トリッキーな映画ではあるが、基本的にはある男が宿命に向き合い、力を覚醒していく物語だ。実は王道の英雄物語。王道英雄物語が大きな柱としてしっかり支えているから、ここまで破天荒な作品でも成立していられるのだろう。
 2時間、見ているほうがヘトヘトになるくらいの映像エクスストリーム映画。全編隙無しのガイ・リッチー魂が行き届いている。痛快だが、ちょっと疲れる。

4月13日

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