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8月18日 EpicGamesVSApple戦争勃発! これが現代の企業戦争の姿!

 始まった!!

ファミ通COM:Appleと『フォートナイト』の争いに新展開。Epic Gamesの開発者アカウント停止危機により、影響が『PUBG MOBILE』などアンリアルエンジン製ゲームに波及する可能性も

〈引用〉

 先週、人気バトルロイヤルゲーム『フォートナイト』がiOS向けApp Storeから削除されるという事態に発展し、係争中となっているAppleとEpic Gamesのプラットフォーム論争に新展開。本日Epic Gamesが、Appleから先週金曜日にEpic Gamesの開発者アカウントの停止予告を受けていたことを明かした。
 実際の通知はEpic Gamesが公開している訴状の別紙にメール文面が記載されている。これによると、今回の騒動の発端となった『フォートナイト』への独自課金システムの搭載にあたって開発者ライセンス契約の同意書に複数の条項の違反があったため、14日間以内(つまりアメリカ現地時間の8月28日まで)に解消されない限りEpic Gamesの開発者アカウントを停止する、という内容だ。

 Appleは自社が運営するストアにおいて、出品者に30%の手数料を要求していた。これはフルプライスのコンテンツのみならず、ガチャやコスメなどの小規模課金要素や大きめの追加DLCに対しても同様に徴収していた。
 これを不服として今回声を上げたのがEpicGamesだ。Appleの30%徴収があったら作り手に対する利益・取り分が小さくなってしまう。ユーザーにしてみても、ある一定以上の値引き提供もできなくなる。30%の足かせがあるから、コンテンツの値段をやや高めに設定せざるを得なくなる。
 だからこその“反旗”だ。

 そのやり方はあまりにも大胆不敵。
 AppStore内で勝手に独自の課金システムEPICデイレクトペインメントを実装し、AppStoreよりも安い価格の発表をした。
 当然、Appleは『フォートナイト』をはじめとするEpicGamesの作品を削除。
 さらに1時間後にはEpicGamesは宣戦布告とも取れる動画を発表した。

 私としては「やってくれた! EpicGamesを全力で応援するぜ!」という立場。

 というのも7:3の利益配分はAppStoreのみならず、ありとあらゆるネット取引で当たり前となっている商習慣だからだ。
 私はかつて、イラスト仕事をスキロッソというサイトで受け付けていたが、そこも7:3。イラスト仕事1枚1万円で受け付けていたが、3割徴収で、1万円が7000円になり、さらに源泉徴収で6500円になる。

↓こういう感じの絵が6500円だったんだよ! わかるかこのしんどさ!!

2019年4月8日唐手いぶき Instagram公開版2A

 イラスト1枚1日で描けるものじゃない。このイラストの場合は5日。6500円を5日で割ると日給いくらだ、という話だ。

 それで3割も取られるのだから、サイトから相応のサービスが受けられるかといえば何もなし。ええ、本当に何もなし。ただ場所を提供する。その場所代だけで3割分貰います……というわけだった。
 なんか釈然としない。店に入って喋っただけで3000円持って行かれた……そういう感じだ。

 3割徴収はスキロッソだけの話ではなく、ココナラやランサーズなどの「お仕事受付サイト」、さらにAmazonKindleでもこの配分だ。7:3がデジタル世界における常識的な商習慣となっている。
 どうりで一部の絵師はTwitterなどで直接仕事の受付しているわけだ。スキロッソやココナラを通すと利益が少なくなってしまう。Twitterを通じて直接取引したほうがいい。営業のうまい絵師ほど、スキロッソやココナラといった場所には頼らない。

 そもそもどうして7:3になったのかというと、確か輸送時に3割分欠品が出るとかなんとかだったように記憶しているが(一応検索してみたのだが、これについて書かれた記事が出てこなかった。なのでどこかで見たもののうろ覚え)、アナログビジネス時の常識を、そのままネットビジネス時代に当てはめて7:3を運用していた……というのが経緯だ。
 しかしデジタル商品に欠品なんぞ存在しない。欠品分の保証はしなくていい。プラットフォーマーになれば3割という利益をがっぽがっぽ手に入る。この状態をわかりやすく言うと、空に向かって口を大きく開けていたら、うまい飯が大量に飛び込んでくる……という感じだ。

 プラットフォーマー達がどう考えているのか、インタビューしなくてもわかる。
「どうか3割徴収に対して誰も疑問を抱かないように」だ。
 なぜならボロい商売だからだ。場所を作っただけで、何もしなくてもどんどんお金が入ってくる(場所を作ること自体が大変なのだが)。もしもこれに誰かが疑問を呈し、反対意見を言い始めたら厄介だ。3割徴収が疑問視されるようになると、毎日高給寿司暮らしができなくなる。だから3割徴収をネットビジネス界の“常識”として、誰も疑問に思って欲しくはない……そう思っているに違いないんだ。誰だって自分たちがボロい商売をやっているという自覚はあるはずだから。

 3割徴収は高すぎる。せめて半分の15%。それでも充分利益は出せるはずだ。実際、EpicGamesが自前のストアを開設し、そこでは88:12の利益配分となっている。これはEpicGamesの独自研究で、88:12の配分で充分にサイト運用可能な利益を得ることができるとしたためだ。どのように算出したかは公開されていないからわからないが、12%徴収で充分だ、という提唱がEpicGamesによってなされている。

各ゲームストアの利益配分 ファミ通Com

 そういった次第で私はEpicGamesを支持。
 今回の事件、Twitterやヤフーニュースなどで他の人の意見もちらちらと見てみたけれども、やはり事態をあまりよくわかっていない人が多いようで……。
 これはEpicGamesや『フォートナイト』という一つの企業、一つの作品に限定された問題ではない。全ての作り手が自分の利益を正常に得られるか、という問題にも繋がっている。プラットフォーマーの独善と傲慢をどれだけ動かせるか、だ。
「EpicGamesめ余計なことをしやがって! フォートナイトが遊べないじゃないか!」
 と話を小さくしてはいけない。それは自分の都合しか考えられない人の意見だ。
「ルールがあるのだからそのルールに従え!」
 という意見はやや頭が悪い。ルールそのものに欠陥があっても疑問を持てないタイプの意見だ。
 これは作り手側の権利の話だ。巡り巡ってユーザーにも関係してくる。それだけ大きな話だ、と理解すべきだ。

 いや、もちろんEpicGamesを「正義の旗印の下に立ち上がった勇者」とは思っていない。EpicGamesだって企業で、企業の目的はどんな時であっても利益追求にあるのだから、最終的には自身の利益を最大化するために仕掛けたに過ぎない。所詮は自分の利益のために始めた戦いに過ぎず、それをいかにも大義名分あるかのように偽装しているだけに過ぎない
 だが7:3という“常識”がここで一旦崩れたら、その周辺の多くの作り手が恩恵を受けられる。だから私はEpicGamesを支持する。

 もう一つ、注目すべきポイントとして、これが現代の「企業戦争」の形だ、ということ。
 現代人は直近の戦争といえば「世界大戦」だったからあのイメージが強いが、200年くらい前になると領主同士が自分たちの利益を巡って、領民を投入して殴り合って落とし前を付け合っていた。
 SFでも時々こういう形の企業戦争は表現されていた。大きな企業が自前の軍隊を持ち、人型ロボットを指揮して戦う――最近はそういうSFアニメは作られなくなったが、かつてはあったように思える(例えば……出てこないけど)。
 しかし武力衝突は現代にとって迂遠だ。色んな意味でリスクが高すぎる。だから現代の企業戦争は情報をコントロールして戦う。
 情報をうまくコントロールできたほうが支持を獲得し、自分たちと共闘する戦士となってくれる。どういうことかというとネットで「支持する」「応援する」といった声となり、相手側を圧倒する力となる。いま企業にとって一番厄介なのは、ごく普通の人々の“声”だ。この声の一つ次第で、企業が傾くこともあれば、勢いが加速することもある。現代はそういう時代だ。
 どちらが現代の戦争の勝利者になれるか――それは最後まで情報をうまくコントロールし続けたほう、情報を統制し続けたほうだ。もちろんそれは「情報操作」という意味ではない。情報を発信し、より多くのユーザーを味方に付け、さらにそのユーザー達の熱意を絶やさず、声を上げさせ続けること。それが現代の「情報を制する」という意味になる。

 EpicGamesは明らかに言ってこの現代の情報戦を意識し、念頭に置いてAppleとの戦いをスタートさせている。AppStore内で勝手にデータの値引き販売をし、Appleに自分を攻撃させたところで反論動画を公開する。
 「戦争の始め方」という教科書は存在しないが、あったとしたらそのセオリー通りの開戦方法を踏んでいる。日本とアメリカ戦が始まったのも、アメリカ側の一方的な石油禁輸があり、さらにアメリカはわざと日本に攻撃させ、それから戦争を宣言した。あのやり方と一緒だ。

 それとは別として、現実世界に起きた企業戦争がどんな顛末に至るか、見てみたいという思いもある。SFでしか描かれなかったような企業戦争がリアル世界ではどのように展開するのか。
 始まり方は見た。これがどんな結末を経て、社会がどのように変わるか……。これから私たちはしっかり見届けなければならない。
 戦争の経緯以上に、大切なのは「社会がどう変わるか」だ。これが大事だ。なにしろ全ての作り手の利益に関わる話だから。

 しかし……本当は言うと、もしかしたらAppStoreでの利益配分は変わるかも知れないが、7:3という大きな商習慣までは変わらないだろうな……という気もしている。
 この事件を経ても相変わらずAmazonKindleは7:3のままだろう。AmazonにとってしてみればEpicGamesVSAppleは対岸の火事でしかない。もしもベストセラー作家10人くらいがAmazonに対して声を上げたとしても、「どうぞご勝手に」でしかない。ベストセラー作家10人くらいが手を引いたところで、Amazonは痛くもなんともないからだ。Amazonにとって、EpicGamesのような巨大な脅威というものがない。だから強気に3割の利益徴収を続けていくだろう。
 スキロッソやココナラやランサーズも3割徴収を変えないだろう。やはり“対岸の火事”でしかない。自分たちを攻撃するかも知れない大きな存在が現れる気配がいま現在になく、今後もないからだ。
 3割徴収は取り過ぎだ! ……とはクリエイター達は一人一人が思っていても声を上げることはない。クリエイター達は非常に大人しい人種だから。「自分たちの利益を守ろう!!」なんて言って旗振り役になる人は現れないだろう。
 この戦争はおそらくは限定的にしか影響は与えない。たぶんゲーム業界だけの話。AppStoreやSteam、もしかしたらeショップなど。そういうところ限定の話になるかも知れない。でもそういった場所だけでもクリエイターの利益が大きくなるのなら、この戦争を歓迎しよう。


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