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9月映画感想 劇場版 零~ゼロ~

 9月2日の深夜にニコニコ生放送で映画『零』の上映がある……というのでえらく期待して視聴する。私は『零』シリーズはWiiU版のみしか知らないものの、この作品がものすごく好きで、何周もするくらいに遊んだ。「劇場版なんかあったんだ」と、それくらいの知識しかなかったのだが、ゲーム版が好きだったのでもちろん視聴。
 ゲームの『零』はある種の現実感を持った世界観だし、恐怖演出も手法そのものは映画から学ばれているので、映画にするのは案外いけるんじゃないか……と見る前は考えていた。
 深夜0時からのスタート。いつもは寝る時間だけども、頑張って視聴しよう。

 …………。
 うーん。
 何も言葉が出てこなかったところから察してもらいたい。

 主演の中条あやみはかなり良かった。
 儚げな危うさを感じさせる美少女。まわりの女の子達ともはっきりと存在感が違う。容姿だけではなく、スタイル、身長、はっきりと別存在。特に容貌がなんともいえない浮き世離れした絵画的な美しさ。これが幽霊的なイメージを持っていて、ただ立っているだけでも存在感がある。
 幽霊として登場する場面では肌の色をとことん白く、相手の女の子の肌にオレンジを入れて、冷たさを強調している。この描き方はなかなかいい。

 映画『零』には射影機が登場してこない(それっぽい古いカメラは登場する)。射影機はゲーム的なギミックを絡めたアイテムだからそのまま登場させるのは難しいにしても、やっぱりあってほしかった。何かしらの曰く付きのカメラ的なものがあればなぁ……。

 舞台となっているのは女子校。
 教室のシーンは福島県尋常中学校。女子寮として使われていたのは福島県天鏡閣(公式Twitterで紹介されていた)。古めかしい瀟洒なイメージは、少女のイメージとも合っている。
 映画『零』は女子校を舞台にした、少女愛の映画だ。少女同士の関係、友情と恋愛の危うい境界……フィクションで描かれがちな少女愛の光景が描かれる
 もともとゲームの『零』はセクシーホラーゲームだ(おっぱいホラーゲームと言ってもいい)。ホラーゲームなのだが、なんか妙に色っぽい。出てくる女の子がエロいし、幽霊もちょっとエロい。恐怖演出の中に、性的イメージを積極的に取り入れたゲームだ(そこに、西洋ホラー的な性に対する拒否感はない)。
 ゲームの性的イメージを女子校に移し替える、という試みは案外間違っていないと思う。カトリックスクールという設定を持った、真っ黒な制服もテーマに合っている。

 ただ……少女の描き方はさほどフェティッシュではない。冒頭に、掌や脚のクローズアップが描かれるが、少女の身体に迫った場面はそこで全て。あとは無防備に正面アップ、あるいはただの棒立ち。画に動きがない。
 出てくる女の子達はなかなか可愛い子たちが揃っているとは思うのだが、女の子達の可愛らしさをうまく撮れているような気がしない。あの年代が持っている危うさが何も表現できていない。どの画も単調で、なんら魅力を感じない。フェティッシュな画といえば、『けいおん!』のほうが描けていた、といえるくらい。
 せっかく歴史ある建築で撮影しているのに、建築物も魅力的に撮れていない。ただの場所、という感じだ。瀟洒な建築に、可愛らしい女の子に、黒い制服と要素は全部揃っているのに、画が美しいと感じられない。あの空間と女の子、という組み合わせに美しさを感じられない。各要素が噛み合っているように思えない。

 ホラー演出は……ホラーっぽさがぜんぜんない。ただ女の子が立っているだけ……中条あやみは幽霊的な存在感があるのだけど、あまりにも無防備に画を撮りすぎている。ホラーになっていない。
 前半部分、似たような描写の繰り返しもよくない。30分近く、似たような画で「私の呪いを解いて」の台詞が繰り返され、話に展開が見えない。
 奇抜なホラー演出を狙って、場面が次々と移り変わるが、単にシュールなだけ。狙いが見え透いていて、困惑もしないし、そこから恐怖を感じ取ることもできない。
 似たような描写がしばし繰り返され、そのクライマックスに空からふわーと降りてくる中条あやみ。もはやホラーではなくギャグだ。いったい何を表現したかったのか……。

 登場人物に無用な枝葉が多いのもよくない。用務員のお兄ちゃんはミスリード要員として出てくるわけだが、はっきりいらないキャラクターだ(用務員のお姉ちゃんがサテン地の寝間着を着ているが、これがちょっとエロくてよかった)。少女達の秘密の園に出てくる男性はノイズになる(同性愛を貫くなら、女性で描くべきだった)。足が不自由であることの蓋然性も見えてこない。このお兄ちゃんが花壇を踏み荒らすシーン、あれはプロットしても合理的ではない。気分でホラーっぽい何かをやっているだけだ。
 唐突に出てくるスキンヘッドのお兄ちゃんもよくない。これも作品のノイズになる。唐突に出てきて「イタコだ」って、なんだそりゃ、という感じだし、その口から少女の声が聞こえてくるシーンはもう笑うしかない。
 時々挿入されるニュース映像は外界を意識させる手法だけど、中途半端でノイズになっている。外界を意識させるなら学園内に警察が一杯来て、取り調べやらなんやらが始まるだろうし、そういうシーンがなく、ニュースシーンだけあるから浮いて見えてしまう。ニュース映像と映画中の空間が、別世界のようになっている。
 あと死体表現も、少女達の血色があまりにもよく、死体を見ている恐さが出ていない。せっかくの水表現だというのに、エロさも出てないし……。

 ホラーとしての部分は、ホラーっぽい「気分」だけであって、ホラーではない。プロットに蓋然性がない。なんでそのシーンが描かれる必要があったのか……この考えが抜けたまま作られているから、シーンに意味がないし、物語に停滞感が生まれる。
 幽霊がどういったタイプの幽霊なのか、という考えが突き詰められてないから、恐さが足りない。そもそも、なんで死ぬんだ……という話だ。女性徒を殺して回っているお姉ちゃんがいた、という真相だけども、じゃあ女の子の幽霊は別に人を殺すわけじゃなかったんだ。恐怖シーンがなんのために描かれていたのか、ぼやけてしまっている。

 ホラー映画を見るつもりだったが、私が見ていたのはコメディ映画だった。たぶん『零』のギャグパロディ映画だったんじゃないだろうか。実際、見ている間わたしはずっと笑顔だった。笑えるシーンがあまりにも多い映画だった。
 ホラー映画として見るのはちょっとつらいが、ホラーっぽい雰囲気を持ったギャグ映画だと思って見ればそれなりに楽しめるかも知れない。

 あとは……Switch版『零』はやく来てくれ。待ってるんだ。まだSwitch買えてないけど。

9月3日

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