送る人
「結婚おめでとう!」
口ではそう言うものの、心が痛む。
壁を背に、拳で胸を押しつけられるような感じがして、息が苦しい。
この華やかで喜びに満ちた場にはふさわしくない感情だ。
「私を置いて行かないで!」
本当はそう叫んで大好きなあの人の腕を掴み、二人きりでここから逃げ去りたい。
だけど、すでに手遅れだ。
だって、あの人の心はもう、隣で笑っているあいつの元へと行ってしまったのだから。
壮大な宴もクライマックスへと突入し、周りは皆、ハンカチで目を拭い、鼻をすすっている。
でも、私はひたすら微笑む。
だって、本当の気持ちが知られてしまいそうで、怖いから。
不要な心配だと分かっているはずなのに。
賑やかな会場を後にして、一人ぽつんと電車に揺られる。
日常の光景の中で、綺麗なドレスを着飾った自分が浮いているのを感じて、全てが終わったのだと実感する。
無地だったはずのドレスに、大きな水玉模様が二つ浮かんだ。
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