見出し画像

私信 変節ー海馬を尋ねてー

あなたは
「尊敬される日本」であるために
あなたの正義を説き続けることが
人生の誠意だと信じ
どんな時でも
いかなる人も
あなたの救いを待っていると信じている

あなたは
冬になるまでは
連絡も無く現れて
「改憲せよ」
「核を持て」
「神国日本に誇りを持て」
と渾身の力で伝導を始めた
 
あなたは
選ばれし救世主を自負するあなたの根幹を
讃えることができない友を
人格否定するだけでは物足りず
友の存在ごと切り捨てながら
現実社会での場を失くし
「友とは、家庭の事情で会えないでいる」
と、尋ねられることもないまま
自分語りを独り始める

あなたは
仮想空間に承認の場を求め
書物の東西を問わず
翻訳の新旧を問わず
文の前後を気にもせず
琴線に触れる言葉をつないで
国粋主義を撒き散らす
あなたの文脈は
果たして
仮想空間を独り漂う
 
あなたは
春になって
新たな人格で現れて
美徳の象徴たる皇尊(すめらみこと)を頂く日本が
憲法を遵守できない人で溢れている
と、嘆いていて
そうして
「非核論者」を名乗りだし
見知らぬ人に変節の理由を問われ始めた

あなたの応えは
「悲惨な被爆を目の当たりにしたという立場」には
「自身の腑に落ちねばならない理由があるはず」らしく
戦後生まれの精神に
被爆体験を憑依させ
あなた自身を粉飾し
あなた自身を見たがらない

あなたの「変節の理由」には
そうさせる
更なる理由が在ることを
あなたは知りつつ無視するけれど
扉の奥で
肝たる理由が
熱を放ち続けている

あなたは
変らぬ根幹をそのまま言葉にすることで
あなたの世界に誰も見当たらなくなることを
海馬のどこかが記憶していて
あなたの腑に落ちる何かではなく
問うた人の腑に落ちて
更に問うてもらえるような
気を引く言葉を使ってみただけ

あなたは
譲れない確信を
意味を成さない美辞麗句で飾りたて
目に留めてもらうに至った
「非核」の二文字にしがみつく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?