見出し画像

私信 再会

晩春の夜
随分長い時を経て友を訪い
遠いころの
心地いい距離感のままをくつろいだ 
玄関に車が止まり
友の表情が止まり
あなたが軽やかにやってきた

あなたは
短いあいさつに間を置かず
足を組み
腕を組み
「Twitterを止められたから
おまえのアカウントで
返事を待つ人へツイートしろ」
と、言い放ち
顎で友に指図する
何が起こっているのだろう
 
あなたは
口立てを始めて
「改行しろ」
「打つのが遅い」
と、叱責し
朗らかだった友は一声も出さず
黙々と、
黙々とキーボードを操作する
私は何を見ているのだろう
 
あなたには
知らしめたいことがたくさんあって
対告者を巧みに誘導しながら
聞きたい言葉のみを引き出して
前のめりに「自分語り」を説き放ち
日本を潤色し
歴史を潤色し
神を潤色し
皇室を潤色し
英霊たちを潤色し
あなた自身を潤色しながら
「自分語り」を放ち続ける
私は何を聞いているのだろう
 
あなたを訪った初夏
その日のあなたはとても機嫌が良くて
次から次へと家宝を出しては
どれもこれも中途半端に扱って
突然どこかへ行ってしまい
私が一つ一つを片付けた
私は何をしているのだろう
 
あなたは
墓の大きさを語り
先祖からの血筋を語り
父の栄達を誇り
母への恨みを並べ
あなた自身を自負する
そして
謝礼を引きあいに
あなたの家の分別ごみを
収集日の朝、指定場所へ出すことを打診する
あなたの家の分別ごみは
玄関に置けば誰かが処分したと笑い飛ばし
今度は私がそれをするらしい
私はあなたの居宅まで
公共の交通手段を使えば
2時間は優に費やす距離を
あなたは迎えに行くという

断った
 
あなたは
又めぐり来た春の朝
パソコンの中で語っていて
面識のない大衆の中で
あなたの言葉に反応する誰かを求めて
誰も寄り付かなくなった立場を翻し
使っていた言葉を翻し
甘言の下に、変らぬ根幹を潜(ひそ)ませながら
 
二度見するほど穏やかに
 
あなたは
「自分語り」の内から施錠し
「自分語り」の窓を開け
「自分語り」を聞かせる相手を求め
「自分語り」の場所を探し続ける


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?