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私信 思い出だけが賑やかになる

初夏
「見せたいものがある」と連絡があって
あなたの家へと向かった
 
広い玄関には
「大切に育てている」
そう語る鉢植えが並んでいて
葉に触れた指の下で
うっすらと張った
埃が剥がれた
 
広い部屋には
仕立ての良さそうな座布団が
日長ふて寝をしているように
畳の上に散らばっていて
「片付けようか?」と声をかけると
「近所の人が来るからそのままで」
あなたは応えて部屋を出た
 
私は
座布団を揃えながら
砂でザラツク感触を覚えた
 
あなたは
気分が高揚していて
いくつもの掛け軸を一つ一つ披いては
「これは何?」
「こちらは何?」

私が問われ続ける不思議

そして 
あなたが話す「事」の時制は
あの頃も
あの日も
現在進行形で放置され
あなたの周りは
思い出だけが
ただ賑やかになっていく

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