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私信 往きたい世界

あなたには
はっきりと言葉を並べ
怯(ひる)まずに歩く
そんな彼が
背負う時間も環境までも
羨ましくて
そうなりたくて

あなたは
彼の言葉にも
彼の指図にも
疑うことをしなかった
彼の中に
あなたを見たくて

あなたは
意固地で
卑屈で
浅ましくて
微塵もない自信の在りさまのまま
ブリキの笑顔で見栄を張り
その度 胸の奥が擦り切れる
あなた自身を見ないまま
在りたいあなたを
彼に見ていた
 
そして
あなたは
千里を駆ける馬の尾に
しがみついて都へと往く虫のように
自分の意志で踏みだすことを選ばず
自分の足で痛みを感じることをせず
彼の言葉に随うことで
あなたの理想郷へ往けると信じた
 
あなたは
好きなことでさえ
形になるまでの時間が苦痛で
出来上がったものだけを
巧みに嗅ぎ分け
必要な現実よりも
変わらない夢想を
今も求める
彼をあなたに投影させて
夢想を生きる時を重ねる


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