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『ナボコフ全短篇』を読む日記2022.03.19(60/68篇)

「『かつてアレッポで……』」「忘れられた詩人」を読む。

「『かつてアレッポで……』」は、「V」に宛てられた書簡体小説。この書き手の「ぼく」はいかにも信用できない語り手で、手紙の内容は「ぼく」とその妻が大戦中、フランスからアメリカに行くまでの顛末を語るものだったのだけれど、そもそも妻が存在したのか、しなかったのかがはっきりしない。妻は「ぼく」とニースに向かう途中ではぐれてしまって、妻は最初は難民のグループといっしょに待っていたというのだが、なかなかビザがおりない日々のなかで、突然に、はぐれている間に浮気をしたのだという。それも本当かはわからない。結局「ぼく」は最初の説明を受け入れ、引き続きビザ申請に奔走していると、妻がある日いなくなってしまった。しかも、知人たちにはあらぬ(かどうかわからないが)噂をたてて。たとえば若いフランス人と恋におち、「ぼく」に離婚してほしいと頼んだのに拒まれ、一人でニューヨークに渡るくらいなら妻を撃って自分も自殺すると言われた、だとか、彼女の父の話を持ち出されるとお前のおやじなんかくそくらえと言われた、だとか。結局妻は見つからないままで、アメリカ行きの船の上で医者と話すと、「ぼく」は彼女がそもそも存在しなかったことを悟ったという。

「忘れられた詩人」は、コンスタンチン・ペローフという1849年に24歳で命を絶った詩人を讃える会が、1899年に開かれたさいの出来事を語る話。会が始まるニ、三分前に一人の老人がやってくる。ペローフと名乗った。老人はしばらく居座ったが、いかさま師あつかいされて会から追い出された。その後は年金を条件に田舎に戻り沈黙するという要求を吞んだとか、その地方に住む老婆が川の葦間で遺骨が見つかったとか、革命後にペローフ博物館が開かれ、そこにいたとか、そのベンチで死んでいたとか、いろいろな真偽不明な話が語られる。


何を信じていいのかわからない話が連続して、ああナボコフっぽいなあと思いながら読んでいる。

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