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ドルオタが「推し、燃ゆ」を読んで考えた推し事への自戒

芥川賞受賞作「推し、燃ゆ」を読みました。

※本の感想というよりもドルオタの自戒なので、他人の日記を読む気分でお読み下さい。またここで書く推し事に対する考え方は個人の意見なので他人に押し付けるつもりは全くありません。


突然友人から「これ見てお前を思い出した」と本作を紹介され、ドルオタとしてこれは読まねばとその日の内に読了。

序盤は単純にオタクあるある系か、面白いな〜!という感想でした。オタク同士のSNSでのやり取りとか私のTwitter監視されてんのか?レベルで思い当たる節がありすぎるし。

あとは推しにハマった時のエピソード(ピーターパンのDVDを見つけた所)とか、これはまさにオタクが大好きな沼落ちブログやん!と感動。でもオタクが推しを見つけた瞬間のあの身体の熱や衝撃を、ここまで臨場感を持って描写できるとは。芥川賞作家の圧倒的文章力で書かれた沼落ちブログ、最高。(沼落ちブログではない)

ところが、本作中盤で推しが人気投票で最下位になったことをきっかけにして主人公が今まで以上に推し事にのめり込む所から、ドルオタとして色々考えさせられる内容が多くなっていく。

お金も時間も健康も、自分の全てを切り捨て推し事に打ち込む主人公。一切の盛りなしで推しのために生きている。

「推し(やコンサート)のために生きている」というセリフ、オタクなら一度は冗談めいて言ったことがあるセリフだけど、(何故オタクはこうも大仰な言い方になるんでしょうか…?)本当にそれを突き詰めたらどうなるかをここまで残酷に描かれると、我々がオタクを突き詰めた末路はこうかと思い、読むのが中々苦しかった。

本作でも言われているように、ガチ恋からコレクターまで推し方は人それぞれだけど、主人公の推し方は「崇拝」に近い。(作中でも宗教・崇拝に関する言葉が比喩表現として使われている)

他者との繋がりや健康を捨ててまで、雑誌やブログから推しの言動を収集し推しとの同一化を目指す姿は、まるで出家し苦行に取り組むことで解脱を目指す修行僧のように思えた。神様仏様ではない、実在する生身の人間相手にそんな事をするのはどう考えても不健全。

彼女の推し事が不健全なのは、アイドル含めエンタメ全般は結局は人生のおまけであるべきなのに、アイドルを応援する事自体を生き甲斐にしてしまっているからだと思う。作中で推す事を自分の「背骨」と比喩していたけど、自分を支える「背骨」は他人に奪われてはいけないし、自分の生きる意味を他人に見出してはいけない。

そんなん分かっとるわと言われるかもだけど、本当に自分の背骨を自分で持てている人ってドルオタ以外でも実は少ないんじゃないかな?とも思う。

だって誰だって、自分は楽して他人を応援するのが好きでしょ。スポーツ選手を応援するのも、子供に習い事や勉強を頑張らせる教育熱心な親も、自分ではない他人に夢を託してしまってる点で同じだ。自分はソファに寝転がって、他人が頑張ってるのを自分の様に応援するのはすっごく楽で楽しい。

私だって、推し(含めエンタメ)を生きる意味にしてしまっていないか時々不安になる。

これ読んで後から気づいたけど、私が推しの事を「尊敬するビジネスパーソンだ」とよく言ってるのも、本当はこの不安を払拭したいからだったのかもしれない。決して推しを生き甲斐にしているのではなく、あくまで目指すべき存在・自分を高めてくれる存在として動向を追っかけていますという事にしたかったのかも。そうでないと日々推しのブログを読むのもコンサートに行くのも後ろめたいと、実は自分も心の底では思ってるんだろうか?なんだか少し悲しい。

しかも目指すべき存在と位置づけて「推しの様に仕事頑張ろう!」と思っていても、シングルが発売されれば推しの事考えて仕事がおろそかになる時もあるし、仕事をやったご褒美にと摂取するコンテンツ量がその日頑張った対価として合ってない時もあるし。(本当に反省したい。)

私以外にも「推しを見つけてから痩せた・健康になった・第一志望に合格した・昇進した」等々、(一歩間違うと怪しい壺のような)推し事の効用を唱える人が多くいるのは、大抵のドルオタが「自分と推しとのアンバランスな関係をどのように健全な関係として意味づけるか」に潜在意識下で悩み、意味付けをしてるからなんだろな。だから成果が出たときに言いたくなるんだろうね。私もTwitterで言うもんな、分かる。

これからもアイドルを推すことは絶対に辞めない。アイドルという存在とコンテンツが好きで無くなって欲しくないからこれからも辞めない。辞めないけど、絶対に背骨は渡さない。目に入れても痛くないくらい好きだけど、推しには譲らない。


自分の背骨は自分自身で強く太くするしかない。

そんな事を思いながら、今日も筋トレして仕事捌いて、後回しにしてた資格の勉強もすることにしよう。でも成果が出た時は推しのおかげだと言い張って、これからもずるずると推し事を続けていこう。

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作者の宇佐美りんさんへ

素晴らしい作品をありがとうございました。非常に素晴らしかったのですが、「推しのメンバーカラーが青」と「推しは1992年生まれ」という描写が、それぞれ私の推し2人の特徴に当てはまっていてめちゃくちゃ心臓に悪かったので、第二版ではここだけ変更して下さい。(無理に決まってるやろ)

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補足(別に何事も頑張れていない人はアイドルを推してはいけないという話ではないです。人生何も楽しくなくて死にたいくらいならアイドルを推すために生きる方が良い。あくまで自分がこうでありたいという話です。)

おわり

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