22世紀に向けて人類はどこへ向かうのか
2020年の年頭にあたり、少し先の未来について考えてみた。最近では、資本主義の修正とか、行き詰まる資本主義という話題も増えてきた。なかなか先を見通しにくい時代である。2000年代生まれの若者たちにとって、80年後の22世紀は、十分現実味のある近未来だ。人生120年時代となり、人類は今よりも長生きしていると思われる。2100年の未来社会は、どんな世界になっているのか、そして人類はどこへ向かうのか。過去からの歩み、現在すでに見えている変化の兆しから予想してみる。
当面の課題は、地球環境と長寿社会
国連の世界人口推計(2019年版)によれば、世界人口は2100年には100〜110億人に達すると報告されている。その後は、安定もしくは減少すると考えられる。当面は、地球温暖化対策、貧困問題、水や食料、インフラ整備、教育、医療など、SDGs(2015年9月の国連サミットで採択された持続可能な開発目標)が掲げているようなテーマが課題となる。
一方、日本は、人口減少・高齢化による労働力不足、医療費の増大といった、いずれ世界が直面する課題を、先取りして抱えている。この課題の解決には、テクノロジーが不可欠である。ロボットやAIを使い倒して、自動化・最適化を進め、人間の仕事を減らす。日本がめざすは人類初の「長寿テック大国」、テクノロジーに支えられた健康で長生きできる社会、少ない労働力で成り立つ社会システムということになる。スタートアップにとっても、チャンスが多い。
今世紀じゅうに、地球環境との折り合い、人口の安定を実現させる必要がある。これは人類の必達目標、これをクリアできないと、先には行けない。パリ協定(2015年に気候変動への国際的対処について定めた協定)もなかなか進まない現状だが、国も企業も短期的利益の追求から地球的責任にスイッチを切り替えて、やるしかない。そのためには解決すべき課題は山積している。大企業もスタートアップも、アカデミアも、本気度が問われる。
外部を求め続ける資本主義
我々が当面の課題を解決できたとして(かなりの難題だが)、その先に少し思いをめぐらしてみよう。人類がやみくもな成長から卒業して、人口が安定し、格差も解消され、エネルギーや資源も完全にコントロール下にあるような世界。資本主義・市場経済は、増え続ける需要と無限にある資源という条件のもとではうまく機能した。外部を貪欲に求め、取り込んで成長して来た。実際、地球の隅々まで市場に取り込み(グローバル化と言われている)、世界中の資源を発掘して来た。しかし、もはや地球上に外部、新たな市場、は存在しない。新興国の安い労働力も存在しない。「モノ消費経済」は、停滞する。豊かになった人類の価値観も、物質的な幸福から卒業することになる。早晩、そんな世界がやって来る。
この段階で、新たな経済システムが必要となる。新しい職業も生まれるが、我々は総じて働く時間が短くなる。企業はAI・ロボットのさらなる導入で、人を雇うことなく利益を増やす。脱労働社会の富の再分配が必要になる。ベーシックインカムの出番か。1930年のケインズの予想「技術進歩によって、100年後(2030年)には、週15時間だけ働けばよい時代になる」は、数10年遅れで、実現されるかもしれない。
22世紀では、人々はゆったり芸術やスポーツを楽しんでいるのだろうか。いや、欲望の資本主義は、そう簡単には衰退しない気もする。人類はあくなき挑戦を続けて来た。チャレンジ精神は、我々のDNAに組み込まれている。地球上に外部がなくなれば、他に新たな外部を開拓する冒険に挑戦するに違いない。無限に成長する可能性に資本は向かう。私が思う、無限にスケールする(少なくともそう思わせる)市場、いわば、新たな外部は、次の3つである。
宇宙新世界
地球環境を考えれば、これ以上、地球で人口を増やす訳には行かない。資源にも限りがある。そうなると、宇宙への進出は自然な流れかもしれない。市場の拡大と資源の獲得、宇宙は、外部を求めて拡大する資本主義経済のロジックに合致するように思える。15世紀半ばから17世紀の大航海時代と同じだ。
太陽系の惑星の中では、火星がもっとも人類が住める可能性がありそうだが、行ってみないと分からない。宇宙進出を加速するには、先端技術を結集する必要がある。まずは、人や物資を安全に早く、低コストで輸送することが第一歩だ。現状、火星に行くには、数ヶ月かかる。そのうち太陽系の外に出ることも可能かもしれないが、ロケットエンジンのブレイクスルーが必要だ。次に、宇宙での住居、インフラ構築、食料、医療などを整備して行く。地球上で実現したことを、宇宙環境で新たに構築することになる。
さらに、宇宙でどんな社会をつくるのか、こちらは初めてのチャレンジだ。国家や政府的なものは必要なのか。新たな理想を実験できる可能性もある。宇宙で何世代かを経れば、おそらく地球人とはゲノム的に大きな差が出てくる。新たな感染症や放射線の影響など、大きな危機が訪れる可能性もある。ゲノム編集が進化して、人類が自らを改変して環境に適応させて行くかもしれない。いずれにしても、宇宙に踏み出して行けば、あと戻りはできない。
ディープ・デジタル
リアルな資源を消費せず、自由に何かを構築したり、行動したりできる場所として、デジタル空間がある。もちろん、デジタル空間は、コンピュータやネットワークによって構築されているので、電力を消費する。自然エネルギーによって、十分な電力はまかなえる前提である。無限にスケールできるデジタル空間は、資本が向かう先として、格好のターゲットにも思える。
デジタル消費が増えるということは、我々がデジタル空間で暮らす時間が増えるということだ。何かと制約があって、楽しいことが少ないリアルの生活よりも、デジタルに没頭する人が増えるかもしれない。デジタル世界で、仮想的な家族と楽しく暮らすとか、自分の分身をいくつも作るとか、リアルではありえない体験をしてみるとか。デジタルに深く没入する暮らしを「ディープ・デジタル」と名付けてみた。かつて、セカンドライフというVRサービスが登場したが、デジタルをファーストライフとする人たちが登場する。幸福感が得られるデジタル、リアルはサブとなる。
人間の五感に直接的に訴えるインタフェースや、脳の神経情報処理とデジタル空間が直接つながるようになれば、もはやリアルとデジタルの区別は難しくなるほど、擬似リアルな世界になるかもしれない。リアルとデジタルの境界線はあいまいになる。
人間2.0
人口が一定あるいは減少する局面では、衣食住を中心としたモノ消費経済は成長しないことは明らかだ。地球環境と調和し、無駄を無くし、必要なモノだけを生産し、必要な人に届けるような時代に、新たな消費を生み出すのは難しい。そんな時代に人々は、何にお金を使うのか。
健康や長生きは、人類の根源的な要求だ。長生きするとは、時間買うことかもしれない。あるいは、一定時間内にたくさんのことができる能力も、時間の価値を高めることになる。時間は無限にスケールする投資の対象となりそうだ。また、身体的な能力や知能的な能力を拡張することによって、これまでには体験できなかった経験ができるかもしれない。もう1つの大きな市場は、人間自身ではないだろうか。
テクノロジーが人間自身の進化に向かう。ロボットやAI、バイオ、メディカル、ナノテク、マテリアルなどの分野が融合して行く。さまざまな方法で、老化を遅らす技術が登場する。生身の人間とメカやコンピュータが密に結合したサイボーグ的な人間拡張も進む。一度超越した能力を手にしてしまえば、それなしではいられないだろう。ハードウェア(肉体)を失っても、ソフトウェア(意識のデジタル化)だけで機能するとなれば、デジタル世界で生き残れるかもしれない。人間2.0へのアップグレードが進んで行く。
人類進化の分岐がはじまる
さて、皆さんは、宇宙派、デジタル派、人間拡張派、どれに関心があるだろうか。価値観も多様化して行く。おそらくどれもが、今後、予想以上の速度で進んで行くだろう。しかし、向かう先はかなり違うかもしれない。人類にゲノムレベルで変化を起こし、子孫は影響を受ける。22世紀には、人類進化の分岐を形成して行く段階に入るかもしれない。
投資家目線では、22世紀の未来社会から逆算して、次なる資本の向かい先を探ることは興味深い。起業家としては、ロボット・AI、BMI(Brain Machine Interface)、ゲノムやライフサイエンス、量子コンピューティング、宇宙などワクワクするテーマが満載で、深く関わりたいものばかりだ。
テクノロジーがドライブする社会の変革、今後、ますますスタートアップが活躍することは間違いない。どんな未来を描くのか、国も企業も、22世紀に向けたミッションが重要になる。令和となり、新たな時代の幕開けである。
参考文献
[1] ジョン・メイナード・ケインズ「孫たちの経済的可能性」
Economic Possibilities for our Grandchildren, 1930
[2] トマス・ロバート・マルサス「人口論」(永井義雄 訳) 中公文庫, 1973
[3] ユヴァル・ノア・ハラリ「ホモ・デウス」(柴田裕之 訳) 河出書房新社, 2018
[4] マーク・オコネル「トランスヒューマニズム」(松浦俊輔 訳) 作品社, 2018
[5] 丸山俊一+NHK「欲望の時代の哲学」制作班「マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する」NHK出版新書, 2018
[6] ヴァイバー・クリンガン・リード「サピエンス異変」(水谷淳・鍛原妙子 訳) 飛鳥新社, 2018
[7] 井上智洋「純粋機械化経済」日本経済新聞出版社, 2019
[8] 山口周「ニュータイプの時代」ダイヤモンド社, 2019
[9] 大野和基 インタビュー・編「未完の資本主義」PHP新書, 2019
[10] 広井良典「人口減少社会のデザイン」東洋経済, 2019