息子が「シルバーのランドセル」を選んで、葛藤した話。
「ラン活」という言葉を、ちらほら耳にするようになって。
今年の春で年長さんになる息子が、ラン活の対象者であることに気づいたときに、なんだかハッとした。もうあと1年で小学生になるのだ。
「りんりんは、何色のランドセルがいいの?」
そう聞いてみると、恐れていた答えが返ってきた。
「ぼくは、赤がいい。」
息子が幼稚園に入ってすぐの頃、noteを書いたり読んだりするようになって、赤色のランドセルを選んだ男の子の記事を読んだ。すごくインパクトがあったのでよく覚えている。
「私は果たして息子が赤色のランドセルがいいと言ったら、それを快く認めてあげることができるだろうか。自信がないな。でもまだ数年あるから、それまでにそんなお母さんに近づけていたらいいな。まあ、まだまだ先だしね。りんりんが赤を選ぶとは限らないしね。」
そう思ったのをよく覚えている。
他にもたくさん色がある中で、よりによって赤を選ぶなんて。息子は私のことを試しているのだろうか。そうとしか思えなかった。
「りんりんは赤がいいんか。そうなんや〜。」
どうか心変わりしてくれますように、という気持ちを持ちながらも、なんとか平静をよそおって、ひとまずそう答えることができた。
展示会に行って実物を見たら、他の色がよくなるかもしれない。そう思って、展示会情報を調べつつランドセルネットサーフィンをしていると、息子が私のスマホをのぞき込んだ。
「ぼく、これ!!!絶対これがいい!!!!!」
ちょうど私のスマホに写っているランドセルを指差しながら、かなり熱の入った声で突然そう言った。
まさかのシルバーだった。
そしてそのランドセルの商品名に、思わず吹き出してしまった。
ハンサムボーイ・デラックス。
ピカピカキラキラやんか。私はマットな生地感でレトロな感じのランドセルが好みなので、まさしく私の好みとは正反対の商品だ。私が使うわけではないのだけれど。
あまりに気に入っている様子だったので、そのランドセルが置いてある展示会へ行くことにした。孫のランドセルを買うのを楽しみにしていた私の母と父も一緒に、大人4人と5歳1人でゾロゾロと。
展示場に入ってみると、壁一面にランドセルがズラリと並んでいた。
たくさんの色や種類があったけれど、息子はシルバーのランドセルの前へ一直線。
そして「これがいい!」と一言。
まずは背負ってみたら?と、他もいろいろ見てほしい大人たちの言葉がけに、しぶしぶとシルバーのランドセルを背負う。
「これにする!」と一言。
私たち、そして店員さんが「これもかっこいいよ!?」「こんなのもあるよ!?」とどんなに盛り上げようとしても、テンションの低い息子。唯一ランドセルの金具には興味があるらしく、大人たちが持ってくるランドセルの金具を無表情でカチャカチャといじる。
決意が固い。固すぎる。そしてテンションが低すぎる。
私と母がなんとか写真を残そうとシャッターチャンスを狙ってみるも、つまらなそうな顔で早く帰りたそうにしている。「もうぼくはこれに決めたのに、まだ何かここですることあるんですか?ヒマなんですけれども。」という心の声が聞こえてくるよう。
周りにいた何人かの子供たちが、ランドセルを背負ってうれしそうにピースして写真を撮ったり、どれにしようか真剣に悩んでいる様子が目に入ってきて、ちょっとだけうらやましいな、と思ってしまった。
「もう絶対これがいいんだよね。これにしたらいいよね。りんりんが使うんだもんね。」
案外、私の父と母はすんなりシルバーを受け入れていた。息子の気持ちが決して変わることがなさそうだったからなのか、あらかじめ「シルバーがいいって言っているんだけど・・・」と伝えていたので心の準備ができていたからなのかはわからないけれど。
結局30分もかからずに、ランドセルを選び終え、予約も完了した。
あっという間に「ラン活」を終えて。
息子の決断の早さ、あっぱれ。
逆に、私が何かを決断するときに迷ってしまうのは何でなんだろう。
ランドセルの展示会に行ったとき、「もし私が小学生に戻れるとしたら、この中でどのランドセルを選ぶだろう?」とグルッと一周見回したとき、まるでスポットライトが当たっているみたいに目立って見えるランドセルが1つだけあった。
そのランドセルは茶色で、ワンポイントで刺繍がしてあった。
私だったらきっとこれを選ぶだろうな、と思ったのだ。ほんの数十秒かからずに。
でもきっとそこから大人の思考が働いて、この刺繍がだんだんほどけてしまって汚くならないかな?とか、みんな何色にするのかな?とか、やっぱり赤色の方が無難かな?とか、ちょっと値段が高いかな?とか、ごちゃごちゃ考え出してしまうから、決断に時間がかかってしまう。
もしかしたら、自分が好きなものを選ぶのに、そんなに時間はいらないのかもしれない。
好きなものは勝手に目につくし、なんなら浮き上がって見える気もするし。どんなに人がたくさんいても、好きな人の姿は濃ゆく見えるし、好きなことは止められてもやりはじめてしまう。
「もうちょっとよく考えたら?」
子供の決断の早さに、思わずそう言ってしまうこともあるけれど、
「もうちょっと自分の気持ちを信じてみたら?自分の直感を信じてみたら?」
大人の慎重さと決断の遅さに、子供は内心そう思っているのかもしれない。
何はともあれ、来年の春にはシルバーのランドセルを背負って、息子は小学校に通い始める。
「赤色よりはシルバーの方がまだ抵抗がないな・・・」という感じで、シルバーのランドセルを受け入れることができたけれど。
もし息子が赤色のランドセルを選んでいたら、私はどうしていただろう。もしかしたら、なんとか息子をコントロールして、ちがうランドセルを選ばせていたかもしれない。
男の子=青、黒
女の子=赤、ピンク
「それが普通。それが妥当。」がどうしても抜けきらないママだって、私を含め、きっとまだまだたくさんいるんだろう。
でも毎年毎年、数人の小学生がめずらしい色のランドセルを選んだり、男の子が赤色を選んだり、女の子が黒色を選んだり。
それが積み重なって、少しずつ少しずつ小学生の背中の色がカラフルになっていく。性別が溶け合っていく。
それがどんどん続いていって、いつのまにか「当たり前」が変化している。きっと誰も気づかないくらいにゆっくりゆっくりと。
ランドセルの色に限らずに、きっとすべてのことがそんな感じなんだと思うのだ。
私が仮に、孫のランドセルを買ってあげられる日がくるのなら、そのときにはきっと、孫が何色を選ぼうとも屁でもない、そんなおばあちゃんになれていることだろう。
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