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結婚指輪に宿る、心強い物語

もよ

結婚指輪は、
だんだん指の一部になっていく。



結婚して、結婚指輪をはめたことのある人には、わかってもらえるかと思う。




お互いの指にはめ合った時には、ひんやりとした感覚がちゃんとあった。ことあるごとに左の薬指に意識が向いてしまって、朝起きたときにふと指輪が目に入り「私結婚したんだな」と確認した。手を洗うときに指輪が目に入り「私結婚したんだな」とまた確認し、夜寝る前に指輪が目に入り「私結婚したんだな」とまたまた確認した。


でもだんだん指輪は目に入らなくなっていく。ひんやりとした感覚もなくなっていく。そうなった時には、結婚指輪は自分の指の一部になり、「私は結婚している」という現実にしっくり馴染んでいる。


私も結婚指輪をはめてから丸5年がたったので、すっかり指の一部になっている。なので普段はまったく意識が向かないはずなのに、最近なんだか指輪がよく目に入る。指輪が私に話しかけているような気がするのだ。


仕方ないので指輪に意識を向けてみると、次々と過去の映像が頭の中に浮かんできた。この指輪にはたくさんの物語が宿っているようだった。


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マクドナルドで私とメガネの男の人は何やら話をしている。どうやったら同棲することを私の親が許してくれるかの話し合いをしていた。

「私の親は結婚前に同棲するのには反対派だからなぁ」

「じゃあ、結婚するっていうことにしたらどう?」

「それなら許してくれるかも」

とにかく一緒に住みたかった私たちは、この何気ないやりとりがきっかけになって、結婚する方向に動いていった。「結婚しよう」じゃなくて「結婚するっていうことにする」というセリフが、言葉の使い方がなんだか不器用な旦那さんっぽい。あとから考えると、これがプロポーズということになる。メガネの男の人は私の婚約者になった。




そしていっしょに住み始めてから、私はパジャマ姿で婚約者に何か言っている。

「婚約指輪はいらないよ。あんなキラキラして出っ張ったもの、つけていく所ないしケガしちゃいそうだし。そのかわり、最高の結婚指輪を2人で選ぼうよ。」

なんてかわいくない女なんだろう。そしてさらにかわいくないことを言った。

「結婚指輪って全部一緒に見えちゃうんだよね。」

なんと男みたいな感覚の女なんだろう。





そして、私と旦那さんが指輪屋さんにいて、職人さんとおしゃべりしている。


百貨店やジュエリー屋さんなどに並んでいるブランドの指輪に魅力を感じられなかった、ちょっぴり変人の私が選んだのは「手作り指輪」だった。職人さんが、どんな指輪がいいか、丁寧にヒアリングしてくれている。そして指輪とはぜんぜん関係のない話をして、3人であははと笑っている。


指輪が出来上がってお店に取りに行った日。世界に1つだけしかない指輪を左手の薬指にはめて、3人で写真を撮った。


その日からずっと指輪をはめていたのに、結婚式の日にはイソイソとその指輪を外して、あたかも今日からこの指輪をつけ始めます!かのように指輪交換の儀式をした。なんだか2人で演技しているかのような気分だった。




そしていつのまにか私のお腹の中に息子がいて、出産に合わせて実家に里帰りをしている。もういつ生まれてもおかしくないくらいパンパンのお腹でダイニングテーブルを囲んで、お母さんとダラダラしゃべっている。「それにしてもすごく太ったよね」という話の流れから「指輪、外しておかないと抜けなくなるんじゃない?」と冗談半分で言われた。

まさか、と思って指輪を外そうとすると、本当に抜けなかった。妊娠してから16キロも体重が増えていた私の指は確実にひとまわり大きくなっているようで、お肉が邪魔してどうやっても抜けない。

石鹸でぬるぬるにして抜く作戦、糸を使って抜く作戦、小刻みに振動させて抜く作戦など、ネットで調べた情報を片っ端から試してみたけれど、ビクともしない。

するとおばあちゃんがやってきて「消防署に行ったらな、道具使って指輪切ってくれるで」と普通に言った。まだまだつけ始めて1年くらいの結婚指輪を切ればいいと言うなんて、おばあちゃんの想像力はなんて乏しいんだろうと心の目で睨んだ。

朝その事実に気づき、昼がすぎて、夕方になって、半ばあきらめかけていた頃、指輪は急にスポッと外れた。

外れたら外れたで、指輪をとることだけに費やした1日のことがだんだんおもしろくなってきて、その一部始終をおもしろおかしく旦那さんに報告して、ゲラゲラ笑った。



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一気にたくさんの映像を思い出して、なんだか気持ちがその頃に戻っていくようだった。


今や家族になって、息子が生まれて、旦那さんとひとつ屋根の下にいることが当たり前になっているけれど、いっしょにいることが当たり前じゃない時があったことを思い出した。

お互いがお互いのことを好きで、居心地がよくて、一緒に住みたいと思ったこと。かっこいいプロポーズの言葉なんてなかったけれど、自然と結婚する流れになっていったこと。指輪屋さんでの楽しいひととき。結婚式のこと。指輪が外れなくなって必死にがんばった1日のこと。


指輪1つの中に、こんなにたくさんの物語がつまっている。


指輪に宿っている物語たちを思い出すと、一緒に過ごすことに慣れてしまった今目の前にある日常が、キラキラ輝き出すような気がした。

いろんなことの起きる日常生活の中で、私も変化していくし、旦那さんも変化していく。だからその中で、2人の関係もやっぱり少しずつ変化していく。

でも、変わらず存在し続ける物語たちが、確かにこの指輪の中に存在している。それはいつもこの左手の薬指に宿っていて、いつでもそばにいてくれている。そのことがなんだかすごく心強く感じた。


私たちはこれからも大丈夫。

指輪がそう言ってくれているような気がした。


結婚指輪をする意味が、なんだか自分なりにストンと腑に落ちた瞬間だった。




結婚指輪に対してそんなようなことを感じるようになってから、私は結婚指輪をしている人を見つけたら妄想してしまう。


その指輪には、どんな物語が宿っているんだろうと。


1つとして同じ物語はない。惹かれ合った男女がつむぐ物語は、この世の男女の数だけある。

どれも素敵で、どれもオンリーワン。


私もその物語たちを大切に、これからも旦那さんといっしょに物語をつむいでいけたらいいなとしみじみ思った。

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もよ

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