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#5 表面だけを捉えないで!ニュースは穿った見方で

東京電力管内で電力需給逼迫警報がだされましたが、無事、停電になることなく、警報は解除となりました。テレビをみていて驚いたのは、夕方のニュースで「照明を通常よりも暗くして放送しています」というテロップが出ていたんです。報道で21年以上仕事していてこのようなテロップをみたのは初めてでした。

ただ、内側で働いている人間がテレビをふつうにみて、その影響がわからなかったので、本当に最低限の照明を暗くしていたのかと思います。

その後、ネットをみているとこの件に関してコメントが寄せられていました。「何の役にも立たないことをするな」など揶揄するようなコメントです。たしかに、テレビ局全体がつかっている電力と比べると、スタジオの照明をすこし落とした程度でたいした効果があるとも思えません。しかし、このテロップにはある意味が込められているんです。すなわち、そうまでしないと電力は危険な状態にあるのか、テレビがいちばん気にする映像の見た目、それを犠牲にまでしないと停電を防ぐことができないほど危険な状態なのか、そういったある種、注意喚起を促しているんです。このように表面的に見えるもの以外に伝えたいものが隠されていることがあります。

地震の際のヘルメット着用の真の意味

このほかには、たとえば地震の際にアナウンサーがヘルメットをかぶるようになりました。2011年3月に発生した東日本大震災以降ポピュラーになったものなのではと感じています。表面的にはもちろん頭を守るため。

ふだん映像には映っていませんが、キャスター、アナウンサーの頭上には重さ何10キロもある大きな照明がたくさんぶら下がっています。地震が発生するとカメラが上をむいてその揺れる照明を撮ることがあります。たしかに、あの大きな照明がぐらぐら揺れるのを見ると空恐ろしいものを感じますが、一方で、少なくとも僕が働いてきたこの21年間、地震で照明が落ちた話は聞いたことがありません。それに万が一の場合に備えて、落下しないよう二重の安全対策が施されています。

もしアナウンサーの頭の上に、あの照明が落ちてきたら、ヘルメットを被っていたとしてもとても頭を守れません。首の骨が折れかねません。では、なぜアナウンサーはヘルメットをかぶっているのか。たしかに、セットが倒れてきたり、今後照明が落ちてこないという保証もありません。ただ、それ以上に、テレビをつけた人が、普段、髪の毛をきっちり整えて、スーツをきているアナウンサーが、ヘルメットをかぶっている姿を見ることによって、そんなに大きな地震が発生したのか、今後さらに警戒を続ける必要があるのかと感じてほしいんです。

2011年3月 東日本大震災

現場の判断の難しさ

現場でもほぼ全員ヘルメットをかぶります。地震取材で倒壊しかかった家に入り、柱に頭をぶつけそうになるなど、自分自身もヘルメットで頭を守れたことがありました。

ただ、地震があったとき被災者たちはヘルメットをかぶっているでしょうか。

ヘルメットを自宅に用意しているひとはほとんどいないと思います。なのに、いままさに救出作業に当たっている住民たち、避難している人たち、まさに被災している人たちがいるところに、わたしたちは完全装備で東京から取材にあたる、そこに対してはいつも忸怩たる思いがあります。

自分自身はどうしても違和感を感じてしまうとき、ヘルメットを外してもいいのかなと思う時があります。着の身着のままで逃げてきたひとたちが過ごしている避難所などで取材する時、僕だけがヘルメットをかぶっている、これは寄り添うという意味ではちょっと違うのではと感じてしまいます。もちろん、取材をする私たちが被災地で怪我をするなどして、地元にさらなる負担をかけるということは絶対に避けなくてはなりません。このあたりの線引きが非常に難しいんです。そうしたことを悩み、考えながら取材に当たっています。

電力需給逼迫の際に表示される「スタジオの照明を落としています」というテロップや、地震発生の際にアナウンサーがヘルメット姿でニュースを伝える、そこに込められた思いは、もちろん表面的なものもありますが、でもこういった意味合いもあるんだよ、ということをニュースを見るときにふと思い出してもらえると嬉しいです。


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