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PYPにおけるパフォーマンス評価課題

今私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学5/6年生の担任をしており、ヴィゴツキーの学習理論である社会構成主義の学びをどのように実践しているのかをまとめていけたらと思います。まだまだIB教員2年目の実践ログなので、どのような場面に難しさを感じながら社会構成主義の授業にトライしているのかについてまとめていけたらと思います。

▼ これまでのユニットの流れ
・概念型探究のフェーズ(1-3)▶︎ リンク
・概念型探究のフェーズ(3-5)▶︎ リンク
・フィールドトリップ ▶︎リンク
・概念型探究のフェーズ(4)▶︎ リンク
>多様な視点でユダヤ人の迫害について考える
・概念型探究のフェーズ(6)▶︎リンク
>現代の難民の問題について多様な視点で考える
・概念型探究のフェーズ(1,5-6)
>身近な対立を乗り越える平和構築アクティビティを考案&実践


いよいよユニットの学びを最終週(6週目)を迎え、総括課題に入っていきます。これまで子どもたちは過去に起きた戦争の事例をリサーチし、原因を分析していきました。また、対立が起きている中で、平和構築に向けてアクションを行なった杉原千畝さんの決断についても多様な立場からディスカッションを通して、対立から平和を構築していくためのアクションや信念についても考えを深めてきました。
総括的評価課題では、対立が起きたときに、どのように私たちは対処できるのかについて、以下の図にある5つの方法がどんな場面で機能し、どんな場面では機能しないのかについて考えていきます。ミッションは、平和構築のアクティビティを考え、身の回りの対立が起きている状況に応用し、アクションをして振り返るところまでを行います。

課題設定の方法

さて、どのような課題が子どもたちのモチベーションを高めることができるのでしょうか?PYPのユニットを設計するときの大事な要素が以下のものです。

「探究の単元」は以下の要素を満たす必要があります。
・engaging(意欲を喚起するものであること)
・relevant(関連性が高いものであること)
・challenging(チャレンジに満ちたものであること)
・significant(意味のあるものであること)

具体的には、意味のある課題を考えるときは、ユニットで学んだことをアウトプットするときに、実社会や日常生活でも応用できると学習者自身が感じられること、関連性が高いものでは、ユニットでの学びを教科書に書かれているような情報から自分を取り巻く文脈に転移できる知識、知恵に昇華できること、さらにチャレンジに満ち溢れたものであるという要素では、ユニットで考えたアイデアをアクションに起こすときに今は難しいけど、課題を通してギリギリ乗り越えられるような課題設定を考えました。これらの要素が集まると結果的に意欲を喚起するような課題になるのではないかという仮説があります。

また、IB(PYPのつくりかた)では総括的評価の目的について次のように述べています。

総括的評価は、教師および児童に、児童の理解に対する明確な見識を与えることを目的とします。総括的評価は、指導および学習過程の最終フェーズであり、これによって児童は学んだことを明らかにする機会が与えられます。総括的評価は、複数の要素を同時に評価することができます。また、児童の学習および指導過程を改善する際の情報材料にもな ります。たとえば、総括的評価によってセントラルアイデアの理解度もわかりますし、児童に行動を起こすよう促すこともあります。

PYPのつくりかた(pg.52)リンク

▼ 総括評価課題のチェックポイント
① 教師及び児童に、児童の理解に対する明確な見識を与える課題であること
② 児童は学んだことを明らかにできる機会があること
③ セントラルアイデアの理解度がわかる課題であること
④ 児童に行動を起こすように促す課題であること

そこでユニットの総括評価課題を次のように作成しました。

【Central idea】
平和維持と紛争の解決への努力が人々の平和な暮らしを支える
The efforts to maintain peace and resolve conflict can help humans live harmoniously.

子どもたちを取り囲んでいる学校生活や家庭での生活の中に、他者との対立が全く生まれないことはないと思います。実際に、学校生活の中でも、異学年との対立が続いている状況が起きています。このときに、道徳的に正しい行動を促すと同時に、そもそもの「対立」に対する見方・考え方を広げたり、解決に向けたスキルを高めていくことも重要になります。これまでに、過去に起きた戦争の事例を分析することで、小さな対立から大きな戦争に発展する原因について学んできました。すると、戦争の構造と、自分たちの身の回りの対立の構造には、重なることも多くあることに気づく児童も出てきました。そこで、今回の総括課題では、対立が身の回りや自分自身に起きたときに、対立を対処するスキルを高めるために、ピースビルディングのアイデアを考え、実行し、振り返るところまでを行います。

課題の提示

また、どれだけ教師にとって面白い課題を作成したとしても、課題の届け方次第で、子どもたちの課題の受け取り方は変わってくると思います。では、「どのようにして課題の導入(提示)を行うと、子どもたちは課題へのモチベーションを高めることができるのでしょうか?」

今回は、ユニットの導入でよく用いる四隅の討論を五隅の討論にアレンジして行いました。四隅の討論では教室を4分割にするのですが、五隅の討論では教室を5分割にして行います。このワークの目的は、自己理解の要素もあり、自分自身が対立の場面と出会ったときにどのように対処する傾向があるのかを知ることを大事にしました。例えば、身近で対立が起きたときに、対立を大きくしないように自分が我慢して受け入れる人、自分自身の主張を変えずに自分の意見を貫く人、双方の意見を聞いて妥協点を探る人、お互いにとってwinwinになるように話し合いをして解決策を一緒に考えようとする人、あまり対立に巻き込まれることはなく、身の回りの対立には介入しないスタンスを取ることが多い人。まずは、その傾向を知るために複数の事例をあげて自分自身はどのように対処することが多いのかを知るワークを行いました。

1つ目の事例は家庭内でよく起こりうる対立の事例を挙げました。

2つ目の事例はユニットでも取り上げた難民の事例について考えてみました。

ワークごとに、それぞれのスタンスを選んだ理由を集まったメンバーでシェアを行い、全体シェアを行いました。そして、ワークを重ねると自分自身が対立をどのように対処する傾向が高いのかが見えてくる人、事例によって全く異なる人、自分に関係のある事例だと傾向とは全く違う立場になるなど様々でした。

例えば、3つ目の事例は実際に学校内で起きている事例でした。結果は面白く、1の回避と5の競争に集中しました。このサッカーの問題に関わっている人は競争の立場になり、サッカーをしていない人は1の回避の立場に集まりました。それぞれの意見を聞いてみました。

▼ 1の回避の立場(10人)
・自分はサッカーのルールを知らないので、自分たちがこの問題に入ることで問題をややこしくしたり、大きくしてしまう可能性があるから
・問題に巻き込まれたくないから etc…
▼ 5の立場(6人)
・これまでに問題が起きて話し合いをする場面もあったけど、話し合いで聞く耳を持ってくれなかったから、話し合いをしても意味がない。 etc…
▼ 4の立場
・今までは、この対立についてちゃんと理解できていなかったので、この問題に関わろうとしてなかったけど、問題を知ったので、解決したい気持ちがある。

「さて、この学校で起きている問題は今の現状で解決すると思いますか?」

子どもたちからは「解決は難しいと思う」と言う声。

「今の対立が起きている現状(無関心の層と自分たちの立場を譲らない層の二極化している現状)は、これまでに起きた戦争の事例を重なることはないでしょうか?」

パレスチナとイスラエルの戦争をリサーチした児童が、今学校で起きている現状とパレスチナとイスラエルの戦争の事例を重ねて考えていました。今世界で起きている戦争も、戦争をしている双方の国が、お互いの立場を譲らず対話的に解決できない状況が続き、かつ戦争に関係していない私たちが無関心の状態であれば、対立が解決しない状態が長引いてしまうのはこれまでの戦争の事例からも学ぶことができます。

学校で学んできた戦争の事例と日常生活の事例を繋がりを感じ始めたところで、課題の提示を行いました。

そして、課題を提示した後に自分の傾向を振り返り、グループに分かれてもらいました。自分自身が対立の状況に置かれたときに、自分の傾向に合わせて解決できるようになってほしいねらいがあります。

評価の方法

グルーピングができたところで、今回はじめて評価の観点であるルーブリックを子どもたちに考えてもらうワークを行います。これまでは教師が提示していたのですが、PYPも最終年度を迎える6年生もいるので、自分で評価の観点をつくることで、学ぶ力を高めることと評価基準のジブンゴト化を高めるねらいがあります。

評価の観点をどのようにつくるのかも追記していきます。

伴走の方法

プロジェクトの伴走方法についても今後追記していきます。

成果物

子どもたちの成果物も今後追記していきます。

知識(点数)重視のテスト以外で子どもたちの理解を測ることはとても難しいので、探りながらの実践レポートになります。定期テストを廃止する動きやパフォーマンス評価課題を取り入れる学校が増えている中で、定量的でない、定性的な評価課題について考えるきっかけになればと思いまとめさせていただきました。

いつも読んでいただきありがとうございます。



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