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マラドーナというメタファー。80年代ナポリの青春モラトリアム

映画「the Hand of God」を観て

南イタリアのナポリ。3年前に数日滞在して感じた空気は、僕が出かけたことのある海外のどの町にも似ていなかった。
以前からあった知識としてのイメージ、下町っぽい明るく陽気な気質、治安が悪そうとか、食べ物は美味しいとか、そしてマラドーナ。それらのイメージはその通りだった、というかイメージ以上のインパクトだった。あと渋滞もね。

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ディエゴ・マラドーナ。SSCナポリ黄金時代の立役者と言っても80年代40年前の話なのに、普通のカフェで彼の試合映像が流れていた。
ホテル近くの食堂。二日続けて行ったら、オーナーが「おーTOMO!また来てくれたか」と前日教えたファーストネームで呼びかけてくれた。

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知り合った現地に住む日本人女性から、タクシーで拳銃を突き付けられた経験を聞き、「あの道から向こう側には行ってはいけない」と治安の悪いエリアを教えてもらった。
北イタリアに住む友人は「ピザ屋はマフィアの支配下にある」と言ってたけど、もちろんそんなことは感じることはなかった。

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他の町に似ていないと感じた部分は、もしかしたらヴェスビオ山とナポリ湾という強烈なランドマークにあるんじゃないかな。
火山性土壌と地中海性気候というテロワールが生んだワイン。ナポリ湾沖に点在する身近かつ非日常な島々。
「ナポリを見てから死ね」のフレーズが世界に行き渡っていることを地元の人は誇っているはず。

前述の日本人女性は、ナポリの魅力をこう表現した。
「こっちでは”愛と憎しみ”って言い方をするんです。たまに良くないこともあるけど、それを越える日常の幸せがある」と。

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映画「the Hand of God」は、愉快で個性的な家族、親戚に囲まれて育った青年の自立とモラトリアム。
リアルとアートが織り交ざった映像は、この街の混沌に通じ、そしてマラドーナは青年の心のメタファーとして活きていた。

冒頭の、海から町に迫る映像もいい。「ローマ人の物語」の作家塩野七生のエッセイを思い出した。地中海の町は海から上陸するのが”正面から入る”で、列車などで内陸から向かうのは”裏”なんだと。

監督パオロ・ソレンティーノのナポリ愛は十分伝わった。

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