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ゆるゆる読む京極杞陽 #09 昭和18年
昭和18年(1943年)の収録句数は82句。
平らに均された無人のテニスコートと照りつける強い日差し。映像がぱっと立ち上がってくる句だ。
テニスをしにきたというより、たまたまコートに行き着いた様子を想像した。よそもの的なものの見方だ。
歩くでもなく、食べるでもなく、何もしていないときの馬の姿が捉えられている。
こちらも〈只ある〉の句といえるかもしれない。
テニスコートの句と違うのは、馬に
ゆるゆる読む京極杞陽 #08 昭和17年
『くくたち』下巻は、上巻から約1年を空けて昭和22年4月に刊行されました。昭和17年から昭和20年の句が収録されています。
昭和17年(1942年)の収録句数は78句。
俳句に描かれる人と作中主体の関係性がじんわり伝わってくる。
1句目のスキーヤーと作中主体はたまたますれ違っただけの薄い関係かもしれない。にもかかわらず、雪山で同じ時間を過ごす「同志」感がある。一方、2句目のスケーターと作中主
ゆるゆる読む京極杞陽 #07 『くくたち』上巻 おかわり
今年1月から京極杞陽の第一句集『くくたち』をゆっくり読み進めています。
編年体の句集で、上巻は昭和11年から16年まで、下巻は17年から20年までの句を収録しています。
これまで上巻の句を1年につきおおむね5句ずつ取り上げてきましたが、もうすこし上巻から紹介していきます。
杞陽の句を読んでいると「ああ、見ているなあ」という静かな感想を持つことがある。
見ている時間を感じさせる書きぶりなのだ
ゆるゆる読む京極杞陽 #06 昭和16年
昭和16年(1941年)の収録句数は46句。
描かれている人間が魅力的だ。
1句目、秋の夜長に人から「構想」を聞いている。成し遂げる前の段階を描くことで滑稽味を出しながらも、その人への敬意や愛着も同居するとてもキュートな句だ。
2句目、場面としては女性が離席しただけなのだが、「たばこを消して」に自らのタイミングで立った感じを受け取った。
「季節めぐりて」に驚いた。「や」「けり」の併用もある
ゆるゆる読む京極杞陽 #05 昭和15年
昭和15年(1940年)の収録句数は54句。
機嫌のいい句だ。
お店でこれから食べるのかもしれないし、通りを歩いていて看板が目に入ったのを書いただけかもしれない。
河豚そのものではなく文字を句材にしたことで、食文化単位で面白がっているようにも読めてくる。
〈まつぴるま〉も楽しい。まるで昼間の河豚はいけないみたいだ。
忌日俳句なのに笑ってしまった。そのまんまである。
けれども、亡くなった
ゆるゆる読む京極杞陽 #04 昭和14年
昭和14年(1939年)は杞陽が31歳を迎えた年。この年の項には2つの追悼句が収められている。
訃報を前にして、何もできないし、何も言えない。そのありようが書かれている。
この年の7月、神戸へ船旅をしている。
ホトトギスのイベント「日本探勝会」で有馬温泉に行ったのだ。横浜から客船・鎌倉丸に乗った。往路は25人の大所帯で、船上句会も催されたという。
非日常の光景にしなやかに反応してみせた。反
ゆるゆる読む京極杞陽 #03 昭和13年〔30歳〕
昭和13年(1938年)の収録句数は76句。
雪崩によってもたらされた衝撃の大きさが伝わってくる。
句集冒頭はスキーの句だったから、雪崩も間近で見たことがあるのかもしれない。
〈巨きく巨きく〉のリフレインや〈鳴りどよみひんひんと〉の思い切った字余りが、雪崩を書き残そうとした気持ちに適っていたのだと思う。
略年譜から計算すると、杞陽には当時3歳と0歳の子どもがいた。0歳のお子さんはその年の1
ゆるゆる読む京極杞陽 #02 昭和12年
昭和12年(1937年)の収録句数は52句。
明治41年(1908年)生まれの杞陽にとって、満年齢で29歳、数えで30歳を迎えた年だ。
文体が多彩だ。
1句目、「その日々の」の導入が新鮮。80年以上前の表現だとは。むかし住んでいた家を思い出しているのかもしれない。
2句目、3句目、どんな景色を見ているのかはわからないけれど、感覚や感触は確かに手渡される。
漫画みたいな「ギューッ」が楽しい。
ゆるゆる読む京極杞陽 #01
俳句を始めたころ、歳時記の例句のなかでもとりわけ京極杞陽の句が好きだった。
俳句はこんなふうに軽くてもいいのかと思った。
今でもその気持ちは変わっていないが、最近になって気になり始めたことがある。「俳句人生のトータルとしてはどんな作品を残してきたのだろうか」ということだ。作品以外に発揮された振る舞いがどんなものだったかも知りたい。
まずは第一句集『くくたち(上・下)』を読んでみることにした。
2023年の俳句活動記録
1月
川嶋ぱんださんのnoteに朝活俳句アワード2022受賞作品として5句掲載。
しりとりに喇叭ふたたび石蕗の花
2月
IRORIネプリに5句と島津亮作品鑑賞が掲載。
バレンタインデー森の写真に立ち止まる
週刊俳句 第825号に小川楓子さんの句集『ことり』出版記念トークイベントのレポートが掲載。
現代俳句 2月号に現代俳句協会青年部勉強会「俳句研究賞を読む」(前編)のレポートが掲載。