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旅とアートと海が好き。人のなにげない言葉を書き留めたり、ちょこっと創作したりするのが趣…

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旅とアートと海が好き。人のなにげない言葉を書き留めたり、ちょこっと創作したりするのが趣味です。あわせて短歌や俳句、詩も詠みますが、まだまだ勉強中。創作の原点は「矛盾」。人間だからこそ抱えている言葉にならない感情をダイジにしたい。 …と思っている、ごくフツーの社会人25年目です!

最近の記事

ココ デハナイ ドコカep.4

6月半ば、「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり」ではじまる平家物語の巻七『竹生嶋詣』の「あれこそ聞こえ候ふ 竹生嶋にて候へ」とある滋賀県琵琶湖に浮かぶ竹生島へ行く機会がありました。 日本最大の湖、琵琶湖は湖を中心に湖北、湖南等7つのエリアに分けられて呼ばれますが、これまで彦根城のある湖東、近江八幡にしか行ったことがなく、長浜市の位置する湖北は初めての訪問です。 竹生島は、長浜市の沖合6キロにある周囲2キロの花崗岩からなる島で、琵琶湖に浮かぶ島では沖島に次ぐ2番目に大きな

    • ココ デハナイ ドコカep.3

      別れ際の涙、そしてハグ。 空港や駅でのひとコマではない。 雨に濡れた木立のなかにひっそりと佇む歴史資料館の前で、東南アジアからの留学生たちと、民宿先として彼らを受け入れたホストファミリーが別れを惜しんでいた。 人と人との交流に、年齢も性別も国籍も関係ないと思えた光景だった。 とある国際大学の留学生6人を、私が関わっていた地方の民宿先に紹介して、彼らの滞在中のアテンドを行う機会があった。 私自身、地元を紹介するのとは違い、数回訪問した程度の土地勘しかなかったので、事前に滞

      • ココ デハナイ ドコカep.2

        自分が良かれと思ってしたことが、相手にとっては迷惑極まりないことだったのではないか、と後から思い返すことがある。 過ぎたことだし、忘れようと思っていても、頭の片隅に、浜に打ち上げられたどこの国のものかもわからない破れたビニール袋が砂に埋もれているのを見つけたときみたいな居心地の悪さが、いつまでも残る。 特に予定があったわけではないが、パソコン越しの空がどこまでも青く見えたので、急遽休みを取って近所を散策することにした。 芒種、まもなく梅雨入りとなるだろうことを予想しながら

        • ココ デハナイ ドコカep.1

          新入社員が入ってきて1ヶ月と少しが経とうとしている。 かつては、一堂に会してそれぞれが自己紹介や所信表明をするのを聞いて、その佇まいや物言いから、これからどんな活躍をするのだろうかと想像したものだったが、最近はパソコンの画面越しより、物理的にも遠いところから眺めるだけのことも多く、いまいち個性まで読み取ることが出来ないでいる。 そもそも個性とか信条とか、そんな人との違いをあえて出そうとする新人が少なくなってきているのも事実で、差別化より一般化を望んでいるかのように見受けられ

        ココ デハナイ ドコカep.4

          イツカ キミハ イッタep.100

          近所の桜が満開となった。 特に用事がなくても、桜が咲いていそうな場所へと足を延ばし、桜を見上げては写真を撮っている。 桜が咲くと、心の底から湧き立つ喜びと、桜を求めて集まる人の笑顔がより一層しあわせを運んでくれる。 こどもからおとなまで、等しく、その美を感受できるひと時。 春爛漫な日に、このエッセイも、100エピソード目を迎えた。 1話2000字程度と決めて書いてきたので、累計20万字。400字詰め原稿用紙にして500枚ちかく書いた計算である。 継続は力なり、というよ

          イツカ キミハ イッタep.100

          イツカ キミハ イッタep.99

          2024年の桜の開花は想像していたより遅く、4月5日現在、ようやく首都圏で桜が見頃となった。 3/29〜31にかけて、「しまなみ海道さくらサイクリングツアー」を企画した私にとっては、渦潮と桜山の両方を眺めながらのサイクリングは出来なかったものの、50kmを走破できた体験は格別なものとなった。 普段より自転車に乗る機会は多く、専用の真っ赤なヘルメットまで持ってはいるが、せいぜい近所をポタリングする程度。 しかし、昨今ブルーの線で自転車専用レーンをつくっているサイクリングロー

          イツカ キミハ イッタep.99

          イツカ キミハ イッタep.98

          「待っているから」 彼女はそう言うと、その先の言葉を聞くつもりはないとばかりに、すぐ受話器を下ろした。 ガチャンではなく、カタッと耳にやさしい音がした。見ると、手元まで伸びたコードがクルクルと丸まり、電話機の脇に静かに戻されたところだった。 彼女はそっと、その黒くて重厚な置き物と化した電話機本体の上に、薄いクリーム色の布を元のとおりに掛けた。布の四隅には、カーテンのタッセルのような金色の留め具が付いていて、重々しい黒の気配を消し去った。 整った部屋の、静かな窓辺に置かれ

          イツカ キミハ イッタep.98

          イツカ キミハ イッタep.97

          電話が鳴り止むことはないコールセンターの一室。 ヘッドセットを付けてモニター画面を眺めながら、スクリプトどおりに顧客を案内してゆく。 回答に窮するような質問を受けると、チーフアドバイザーにヘルプを求める。保留音が1分を過ぎると、モニター右上のランプが黄色の明滅を繰り返す。焦る。壁の時計を見る。その隣に表示される待ち呼の数。 春先、特に申込みや問合せが多くなるコールセンターに、20代後半、勤務していた。 入社から数年後、各事業所で受けていた受付業務を集中化するプロジェクトに配

          イツカ キミハ イッタep.97

          イツカ キミハ イッタep.96

          「あっ、モクレン、咲いてる」 青く澄みわたる空に、白いチューリップのごとくスッと伸びた丸みを帯びた花びらを指さして私は言った。 「いや、こぶしの花じゃないの?知らんけど」 知らないなら、勝手なこと、言うな、と心の中だけで思う。 ハクモクレンだという確信はあった。 こぶしの花びらは、もっと柔いのだ。ともすると、風でほどけてしまうくらい、ベロンと開ききっていたりもする。精一杯てのひらをパーにした少女のようなあどけなさがある。 一方、ハクモクレンを宵闇に見かけたりすると、

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          イツカ キミハ イッタep.95

          ここ最近病院づいている。 先週は耳鼻科に駆け込み、皮膚科にも並んだ。来週は眼科の予約を取ったし、翌週は検査のため総合病院まで。 どこに行っても、平日だというのに大混雑で予約をしても予約時間から1時間待ちというのも珍しくない。待つのに2時間、診察に2分ということもあって、さすがにフルタイムで働く人にとって、この行列必至の病院訪問というのは、行くと決めるまでに覚悟のいることなのである。 しかしながら、やむにやまれず、待ったなしで神にもすがる思いから、病院に行くことだってある。

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          イツカ キミハ イッタep.94

          連休になると面倒なことのひとつに、食事作りがある。特にランチ。 一人ならテキトーに済ませられるが、家族が昼近くになってそわそわと「もうすぐ昼だけど、何にする?」なんてプレッシャーをかけてくると、もうたまらない。 通常の週末は、パスタ、そば、うどん、焼きそば等の麺か、冬なら肉まん、夏ならソーメンが加わる程度だが、バラエティに欠けるのは否めない。 そんな時に行くのが、「餃子屋」である。 昼だからあまり重すぎるといけない。 休日の夕食には家族揃って手をかけた料理とお酒で、ゆっく

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          イツカ キミハ イッタep.93

          冬の時期、電車で移動する際には、僅かな時間でもやわらかな陽ざしが降り注ぐ窓際に座る。黒髪に日光があたり、徐々に頭のてっぺんが熱を帯びてくると、じんわりと全身まで温んでくるからだ。 寒さからあまり出歩かないでいると、太陽光線を浴びることで体内で生成されるビタミンDが不足する、という切実な理由もある。年齢を重ねると、行動の一つひとつに、多くの効果を求めがちだ。 2月9日も、山手線車内の西陽が差し込む窓を背にした席に腰掛けて、読みかけの文庫本を開いていた。 渋谷駅から乗ってきた

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          イツカ キミハ イッタep.92

          旅は行く前が、いちばん楽しい。 いつ行くか、どう行くか、どこへ泊まるか。 なにを食べるか、なにをするか、なに見るか。 ワクワクしながら、計画を立てる。予定は未定だよ!だなんて、カッコつけた言葉など要らない。それが一人旅なら、そして旅先に仕事の約束があるなら、尚更…。 今年初のフライトは、長崎でした。 一言で長崎と言っても、島原半島と五島列島。かなり遠い。 しかも、今回は1人での移動のため、全て公共交通機関を使う必要がありました。このお題をクリアすべく計画したプランがコチラ。

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          イツカ キミハ イッタep.91

          1月も下旬になってくると、デパ地下や駅ナカの催事コーナーがピンク色に染まる。 節分で豆まきはやったことがあるが、恵方巻なんて知らなかった子ども時代を過ごした私には、当然、友チョコも逆チョコも縁遠い。 金曜日、自身へのご褒美用の甘味でも買って帰ろうと、駅ビル内の銘菓コーナーを流し歩いていたときのこと。 生チョコ発祥の店だというシルスマリアの前で足が止まった。石畳の名の如く小さな立方体がぎっしりと詰まって、ココアパウダーに包まれた生チョコを食べたのは、確か15年以上前だったが、

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          イツカ キミハ イッタep.90

          山形駅前ホテルのロビーラウンジ。ここの平日限定ランチは14時までの提供だったので、新幹線を降りてから一目散にホテル目がけて走り込み、少し古めかしい金色の取手のついた重厚なガラス扉を押し開けた。 天井の高いロビーには、シャンデリアのオレンジ色の柔らかい光が、行き交うサラリーマンや待合せのご婦人達を優しく照らしている。 「あっ、はっ、はっ、あの…ランチ、まだ大丈夫ですか?」 黒いタキシード姿の背の高いボーイさんが入口にいたので、つかまえて訊いてみる。 チラッと腕時計を見ると

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          イツカ キミハ イッタep.89

          「女湯」の赤い暖簾に手をかけたところで身体がぐらんと揺れた。引戸は昔ながらの木枠で磨りガラスがはめられている。そのガラスがガタガタと音を立て始めると、急に大きな横揺れに襲われ、壁に手を当て立っているのが精一杯な状態となった。 「逃げなきゃ」 バスタオルで頭を覆い、急いで廊下を下ろうとしたところ、さっき歩いてきた道の先がない。目の前は白い壁で塞がれていた。 「なに?どういうこと?」 地震を受け、鉄製の非常用扉が作動したのだった。銀色のバングル状の取手を回して、フロントに

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