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イツカ キミハ イッタep.94

連休になると面倒なことのひとつに、食事作りがある。特にランチ。
一人ならテキトーに済ませられるが、家族が昼近くになってそわそわと「もうすぐ昼だけど、何にする?」なんてプレッシャーをかけてくると、もうたまらない。

通常の週末は、パスタ、そば、うどん、焼きそば等の麺か、冬なら肉まん、夏ならソーメンが加わる程度だが、バラエティに欠けるのは否めない。

そんな時に行くのが、「餃子屋」である。
昼だからあまり重すぎるといけない。
休日の夕食には家族揃って手をかけた料理とお酒で、ゆっくり愉しむので、昼は少し軽めで、かつ、メニューに悩んだりせずにササッと食べられることが外食の条件だ。

近所にある「餃子屋」は、そんな希望に応えてくれる店である。チェーン店ではなく、個人でやっている店で、メニューはいたってシンプル。
ぎょうざ、ビール、白飯(半ライス可)、ミニ丼のみ。
餃子そのもので勝負しており、大概の客は、注文時に「持ち帰り」餃子もお願いする。特に連休中には、多くの持ち帰りの注文が入るらしい。

先日も連休初日の昼に、この餃子屋を訪れた。正午を過ぎると待つので、11:30過ぎ、散歩の帰りにぶらりと立ち寄った。

白木のカウンターと、テーブル席が5つの小さな店内。
餃子屋というより、小料理屋のような佇まいで、床も椅子もテーブルもいつもよく拭かれていて油の飛び散りを感じたことがない。
木目の美しい梁が天井を渡って、空間に奥行きを出している。夜になると、間接照明が効いて、俄かBARのようにもなる。 

そして、店内には音楽はかかっていない。
音は餃子の注文を受けて亭主が大きな餃子盤に生餃子を並べ蓋をしたときのジューッという音と、お客さん同士の話し声くらい。

時折り店内がピタッと静かになる瞬間もあって、そういった無音の中で、熱々の餃子を集中して食べていると、なんとも言えない幸せな気持ちになる。

その日はお隣のテーブル席は、近所のママさん達による女子会のようだった。なぜ女子会だったとわかったかというと、お会計前に、みんなで手帳やスマホを広げ、次回の集合日を決めていたからだ。

「すっごいたのしかった〜、また来よ!」
「瓶ビール、美味いね。家では缶だからさ」

お隣の卓上にはビール中瓶が4本空いていた。

分かる!昼からビールと餃子なんて、オヤジじゃなくても最高だよね…と心の中で同調する。

私はメニューを見ることなく、餃子1皿とビール、そして半ライスを注文した。

ほどなくして運ばれてくる白い楕円形の、薄いブルーの中華模様の描かれた皿には、デーンと5つの餃子が良い焼き具合で乗っかっている。

卓上の店特製餃子のタレと、酢を小皿に入れて調合し、これまた店特製の辣油をひと垂らししていただく。モッチモチの皮に包まれたニンニクの香り拡がるジューシーな餡をハフハフしながら味わい、ビールでスッキリと押し流すと、いくらでもいけてしまう。

この店の餃子は一つがかなり大きいので、カウンター席のおじいさんは、「餃子2皿とビール」とだけ注文して、満足げにお土産用の持ち帰り生餃子40個を買って帰って行った。

次のお客さんは、恰幅のいいおじさんで、「冷凍餃子100個、おねがい」と言って、出来上がるまでカウンターでビールを飲んでいた。

『100個って、なんだろうね。そんなに冷凍庫に入るはずもないから、例えば日曜日に孫含めて10人近くの身内が集まるパーティーとか』

『いや、慣れている感じだから、きっと遠方から来た常連で、毎回これだけ買い溜めしておくんじゃないの?』

そんなことをテーブルで、ひそひそと話しつつ、店内を見回すのも楽しい。

持ち帰り焼き餃子、生餃子(当日限り)、冷凍餃子と3つの持ち帰り方があるので、その日のお腹の具合や冷凍庫の空き具合によって、生餃子や冷凍餃子を買って帰ることもあるが、やはりこの店で、待っている時間含めて熱々を頬張るのが一番旨いと思うのだった。

今日の昼、餃子なんて、どうでしょう?

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