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イツカ キミハ イッタep.95

ここ最近病院づいている。
先週は耳鼻科に駆け込み、皮膚科にも並んだ。来週は眼科の予約を取ったし、翌週は検査のため総合病院まで。

どこに行っても、平日だというのに大混雑で予約をしても予約時間から1時間待ちというのも珍しくない。待つのに2時間、診察に2分ということもあって、さすがにフルタイムで働く人にとって、この行列必至の病院訪問というのは、行くと決めるまでに覚悟のいることなのである。

しかしながら、やむにやまれず、待ったなしで神にもすがる思いから、病院に行くことだってある。先月がまさにそんな感じだった。

花粉症持ちだが、比較的軽度なため一昨年まで薬を飲んで来なかった。
しかしマスクをしているとはいえ、外出が増えてきたことから、耳鼻科で薬をもらうことにした。

昨年より、通い始めた近所の耳鼻科は、医院長から看護師まで全て女性で、医者という威厳を誇示しない、親戚のおばちゃんちを訪ねたみたいな気安さがあった。

平日仕事の合間に行くことを狙っていたが、なかなか合間がない。個人病院は診察開始時刻より前に並ぶか、または終了時刻に駆け込むのが最も並ばずに診察してもらえるとわかっていても、気づけば時計の針は10時を回っていた。

絶対混んでいる。

その確信はあったが、診察券を握りしめて病院へ向かった。
まず病院の自動ドアの前で何人かが立っているのが道の途中で目に留まった。
耳鼻科にはコロナやインフルエンザの方も受診されるため、きっと外で待たされているのだろうと思いきや違った。自動ドアが開いて中を覗くと、老若男女ザッと20人ほどが待合室の椅子にかけられず立って待っている人を含め、ひしめきあっていた。

踵を返すことも考えたが、ここで帰ってしまっては、今後ますます酷くなるであろう花粉に対抗できない。

意を決して受付へ向かう。近所のおばちゃんっぽい親しみやすい高齢の女性が診察券を受け取りながら、こう言った。

ちょっとぉ〜、今日はお時間かかっちゃいそうですが、大丈夫ですか?

内心「いつもだろう」と思いながら、マスクに隠れた笑顔を向けながら、言葉を返す。

いったん、自宅へ帰っていいですか?
健康保険証忘れたんで


事実、あろうことか免許証しか財布の中には入っていなかった。そこで、即座に取りに戻ることを願い出たのだが、これが結果してよかった。診察券のみ預かった形で、順番は保持され、お昼過ぎに再訪したときには、待合室には3人しか居なかった。

これまたご高齢の女医さんに名前を呼ばれて診察室に入った頃には、看護師さんたちがイソイソと昼支度に向け片付け始めていた。

どうされました?」と訊かれる前に
花粉症の薬、ください!3ヶ月分くらい」と告げると、女医先生は私を椅子に座らせることもないまま

うーん、2ヶ月かなぁ。でも、あなた、なかなか来れないんでしょ。70日分出そっか

そう言うと、鼻スプレーはいるか、目薬はいるかと、矢継ぎ早に質問をして、私の診療は終わった。

診察室での立ち話だけで、あっけなく終了したことに拍子抜けし、帰りは最近新しく出来たという和食屋でランチをして帰った。(昨年も同じ病院で花粉症を診察してもらい、その後も何度か訪れたことがあったということを念のため付け加えておく)

一方、同じ週に、これまたおじいさんが医院長の皮膚科へ予約を取って伺った。
近所だけでなく、この界隈では有名な先生のようで、予約以外は受け付けない方針だと、ホームページにも医院の受付前の貼り紙にも同様に記載があるのだが、予約を取って待たなかったことは一度もない。(今回は1時間程待った)

休日に掃除と片付けをしていた際、ギックリ腰になり、翌々日から出張予定だったため、慌てて家にあった「ゼポラステープ20mg」を腰に2枚貼り、その翌日も1枚貼ったところ、剥がして2日後に、湿布の貼ったところが真っ赤に湿疹が出来、痒くて痛くてどうしようもなくなって慌てて1枠だけ空いていた診察時間に予約を取ったのだった。

湿布の袋の裏面には「重要な基本的注意」として、消炎鎮痛剤による治療は原因療法ではなく対症療法であることに留意することとあったにもかかわらず、かつ、3年前にも足首に貼って同じ症状に見舞われたことがあったのにもかかわらず、安易さにより整形外科へ行かなかった。
身から出た錆である。(言い訳にはなるが、近所の整形外科は、おじいちゃんおばあちゃん達の社交場であり、待つだけでなく、そのいたってのんびりとした和気藹々な雰囲気が、仕事を中断して外出してきた、ピリピリムードを引きずったままの自分には大層ストレスなのだった)

おじいさん医院長に腰から臀部まで見せると、一瞥して「ひどい被れだね。なに、使ったの?」と原因特定への質問と疾病期間と症状について訊かれた。そして、パソコンから目を離し、手元のタブレットを私に印籠のようにして見せて言った。

あなた、一年前にもコレ、まぶたの上、酷く被れて来たでしょ?この時は化粧品が合わなかったようだけど。いいかい?被れやすい体質だってこと、よく覚えて行動とってくださいよ

私には、見せられたタブレットに写し出されたお岩さんのようになった女の顔が、まさか自分だと一瞬、分からなかった。

あぁ…

声が漏れたのと同時に医院長から「ハイ、処置室!」と隣室のドアを指され、私はジーンズから半分尻を出しながら、すごすごと診療室を後にした。

ふと、2人の医師とのやり取りを思い返しながら、亡くなった祖母と祖父を思い出した。

やさしく甘やかしてくれた祖母と、
厳格で理路整然と叱ってくれた祖父。


いなくなって15年ほどになるが、
近所にこうやって祖母と祖父に代わる、
頼れる人がいるこの街を、
より、好きになった。

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