吸い込まれそうな青い目の沈没【オーストラリア・バイロンベイ】
通りの奥に、これからまさに歌い始めようとする人を見つけた。男の人が、ふたり。
ギターを持って視線を下げる、小麦色の肌をした髪の長い人。その一歩後ろでバナナをフォークで切りながら、ミューズリーらしき何かをボウルに入れて、これからまさに食べようとしている人。
歌う人と、食べる人。何なんだその組み合わせは、と思って視線を彼らに投げること数秒。
その隙を掴まれる。
目が、合った。そして私を見つめて笑う(歌う人は、往々にして道行く人に笑いかけるものなのだ)。ギターを弾き始める目と手。吸い込まれそうな、薄いブルーだった。海の一番浅い、一番淡いその色。
時間が止まるかと思う。目が、離せなくなる。かろうじて、足だけ動く。
危ないな、色々とこの街は、と思ってようやっと立ち止まらずに通り過ぎる。
わたしはこれまで、旅の沈没というものとは無縁で生きてきた。けれどもしかしたら、沈没とまでは言わずとも、長く滞在してしまう街はこんなところなのかもしれない、と着いて数分で思っていた。
オーストラリアのゴールドコーストから、バスで1時間半。海沿いのチルな街、バイロンベイ。
ノースショアにも少し似た、明らかな海沿いの街は、わたしの好きなカラフルなサマードレスとサンダル、あとはサーフショップや美味しいバーガー、ビールが飲める場所にあふれていて、地図を見ずとも「あぁ、あちらが海だ」と分かる街の構造をしていた。
風が、海から吹いて来る。濡れた肌が、海から遠ざかるほどに乾いていく。
ああ、やっぱり少し危ないな、と思う。わたしはシティに憧れて田舎から出てきた人間で、いまは地域取材することをおもな生業としているけれど、たぶんシティからは離れられない。けれどもし離れるとしたら、こんな街であってほしい。
心地よい音楽たちが、街のそこここで流れて、人々が高らかに笑う。犬が、走る。鳥が、飛ぶ。
ねぇお願いだから、そんなに見ないで。笑いかけないで。バイロンベイ。ここを好きになって、移ってきてしまう人の気持ちが分からなくもない。
いつも遊びにきてくださって、ありがとうございます。サポート、とても励まされます。