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伊佐 知美
2017年3月30日 20:44
美しい街だな、とただ単純に、素直に思う。3月のおわり、1日のおしまいに近づく20時。ねぇどこか、美しい場所を。と聞くこともなく、彼は「僕のいちばん好きな場所は」と教えてくれた。クロアチア・ドゥブロヴニクという、私の心つかんだ、別の街。いつかきっと、なんて美しい時間だったのだろうと、思い返すだろうと考えた、あの日。■きっといつか、「なんて美しい時間だったんだろう」と思い出す日が来る。|伊
2017年3月27日 23:36
朝、ベッドに注ぎ込むまぶしいくらいの光で目を覚ます。少しストライプの入った、真白いそれ。反射する光、今日もうつくしく。いつもなら、まだ眠っていたいのになぁ……と思いながらもう一度目を閉じる。けれど、春はじまったばかりのスペイン・バルセロナでは、あまりにも日光が私を誘って、やまない。きれいな青空がちらり窓枠からはみ出すから、今朝の空気の手触りは、どんなものでしょうね?と思いながら、カチャ、とノブ
2017年3月25日 18:54
カチャリ、と鍵を開けて、屋上へと続く階段を登っていく。一段、二段、青い階段と手すり、白い壁、またたく星。ざわり、と透き通る風吹き抜ける。この風はどこからきたんだろう。山の向こう、昨夜珍しく降った雪、冷たく頬染めて。もしここに海があったなら、私はここへ住んでみよう、と今日決めていたかもしれない。人生に疲れたアラサーの女性よ、すべて一度はここへ来るというルールでもあればよかったのに。日本を
2017年3月22日 23:50
その日の朝、目が覚めるとリヤドの中庭から、カチャカチャ、という食器の鳴る音がした。ナビルがミントティーを淹れて、オムレツを焼きながら私が階下へ行くのを待っている。彼は私がすこし疲れているのを、言葉が通じないのになんだか分かっていてくれる気がした。初めてモロッコで目を覚ましたあの日、私はアザーンというお祈りの声を、暗がりの中でひとり耳をそばだてて聞くことになる。モロッコへ来て1週間ほどが経つ
2017年3月6日 00:00
今となっては、「東京は晴れていたのかどうか」それすら思い出せなかった。「傘は持って出なかったから、雨は降っていなかったはず」。けれど空が晴れ渡っていたのかどうかとか、それとも真っ白でグレーな曇り空だったのかとか、隣に座っていた人が笑っていたのかどうか、とか。なんだかそういった、些細な出来事。けれど普通に毎日を営んでいれば目にするような、通常であれば多少なり記憶に残していると思われるような。