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アジア諸国のファンドレイジング・トレンド:FIA Conference 2024 Plenary Sessionより

2024年2月末、オーストラリアのファンドレイジング協会Fundraising Institute Australia (FIA)がブリスベンで開催したファンドレイジング・カンファレンスに参加してきました。

本記事は、同カンファレンスのPlenary Session「Fundraising trend from Asia」で共有されたことをまとめてあります。

ちなみに、本セッションのスピーカーであるUsha Menon氏は、2017年の日本のファンドレイジング・カンファレンス(FRJ2017)で来日して登壇されていた方でもあります。
Menon氏は、アジア全域の非営利団体を対象にコンサルティング・サービスを行っていて、特に戦略策定やマネジメント、ファンドレイジング、フィランソロピーの分野において30年以上の経験を持っていらっしゃる方です。


富裕層とファミリーオフィスの成長

Menon氏から、まず共有されたことは成長著しいアジアのファミリーオフィス(Family Office)の現状です。

日本では馴染みが無いと思いますが、富裕層の一族が保有する資産を運用・保全し、一族の永続的な繁栄を目的として運営する企業形態の一つがファミリーオフィスです。資産管理会社のサービスと似ているようにも感じますが、運用の対象が一族の有形資産に加えて無形資産(一族が共有する価値観や使命、社会からの信用や評価など)の承継や運用にまで及ぶ点が大きく異なります。

アジアには、1800以上のファミリーオフィスがあり、その半分以上がシンガポールに所在しているそうです。香港においても、2025年までに200のファミリーオフィスがつくられることが期待されているとのことです。

アジアにおけるファミリーオフィスの成長(スライド資料より)

アジア全体では950以上のビリオネア(億万長者)がいて、2027年までに超富裕層(少なくとも3000万ドルの純資産を持つ層)の個人は、約21万人に達する見込みであると語られていました。

アジアにおける富裕層の成長(スライド資料より)

シンガポール

シンガポールでは、特に寛大な寄付に対する税制優遇の制度があります。2009年に、認定を受けた非営利団体への寄付に対して、250%の税額控除を与える制度ができ、2023年には、寄付者の法定所得の40%を上限とした海外寄付に対して100%の税額控除を提供するアジアコミュニティ財団(Asia Community Foundation)が設立されています。

シンガポールでの動き(スライド資料より)

インド

インドにおいては、2014年に大企業に対し、法人税後利益の2%を企業のCSR活動に割り当てることを義務付けました。2022年度にはCSR支出が33億ドル(約27000億ルピー)に達し、2027年度までには64億ドル(約52000億ルピー)に達すると予想されています。
また、小売寄付が年率9%で成長していて、2027年度までには総私的寄付の約29%を占めると予想されています。

インドでの動き(スライド資料より)

また、パンデミックの発生を受けて、インドではCrypto Relief Fundという基金が立ち上がりました。

2021年4月から2022年7月までの間に、合計5800万ドルが様々な受益者への支援に使われました。その使途は、ワクチン接種のためのユニセフへの1500万ドルの支援から、インド南部のタミル・ナードゥ州の障害者支援NGOへの16700ドルの支援まで、COVID-19(新型コロナウイルス)に関連する広範な支援活動のために使われました。

2023年1月から、この基金は、インドの医療のアップグレードに焦点を当ててファンドレイジングをする方針に変更したそうです。

Crypto Relief Fundの主な動き(スライド資料より)

中国

筆者は全く情報を持っていなかったこともあり、Menon氏からの共有で興味深かったのは、中国でもチャリティ活動やファンドレイジングに関連する動きがあることです。

2016年には、認定された非営利団体への寄付に対して最大12%の法人税控除を導入されました。
また、2015年から毎年開催されている中国の大手IT企業テンセントが運営するチャリティキャンペーン「99 Giving Day」における寄付額は、2015年の1億2800万元(1億9000万ドル)から、2021年までに23億2000万元(3億5200万ドル)に急増。この期間中、テンセントのプラットフォームには1億5600万人以上の参加者が集まったと共有されました。(ちなみに、2022年には国外にまで広がっていったそうなのですが、調べてみると「香港」でした…)

中国での動き(スライド資料より)
99 Giving Dayの主な年表(スライド資料より)

インドネシア

インドネシアでは、国内の教育問題に対して、下記のフィランソロピストやファミリー財団が協働した事例があったそうです。

インドネシア国内の教育問題への協働事例(スライド資料より)

Bakti Barito Foundationは、ご夫婦であるBapak Prajogo Pangestu氏とIbu Harlina Tjandinegara氏によって設立された財団で、インドネシアのコミュニティや環境を強化して、より持続可能で公正な社会づくりを目指して活動しています。

2017年に、Bakti Barito Foundationのエグゼクティブディレクターに就任したFifi Pangestu氏のリーダーシップも、こういった協働事業に財団が積極的に参画する要因となっているようです。

Djarum Foundationは、インドネシア国内向けにスポーツ、環境、教育、文化、社会の分野で活動している財団です。母体でもあるDjarum Groupは、1951年の創業以来、国内のたばこ産業で多くのシェアを占め、その経営者一族に生まれたVictor Hartono氏がリーダーシップを発揮して、同財団の慈善活動を牽引しています。

Tanoto Foundationは、Sukanto Tanoto氏とTinah Bingei Tanoto氏のご夫妻が、1981年に北スマトラ州のBesitang(ベシタン)に幼稚園と小学校を設立したことをきっかけに、教育支援を中心とした慈善活動を本格的に始めました。

現在では、インドネシア以外に2か国(シンガポール、中国)にもオフィスを開設し、活動範囲を広げています。

国を超えた協働事例

東南アジアにおいては、ファミリー財団や企業財団による協働事例も出てきています。2022年には、上記で紹介した3つのインドネシアの財団を含めた、インドネシア・フィリピン・シンガポールの3か国の計12の財団が関わった幼児期の発達に関する276の慈善プログラムと145の政策(国や地方自治体のものを含む)を分析した共同調査が行われたそうです。

(東南)アジア全域にわたる協働事例(スライド資料より)

2022年、シンガポールのTemasek Trustのイニシアティブにより、個人のフィランソロピストやファミリーオフィス、財団、非営利団体、企業などの80以上のメンバーから成るネットワーク体Philanthropy Asia Allianceが立ち上がりました。

同アライアンスは、アジア全域における次世代のフィランソロピー教育や環境活動、公共医療の促進を行うことを目的としています。

また、2022年10月、気候変動への対策やアジア諸地域での教育の改善、医療システムの強化を目指すCall To Actionが発表されました。下記の図は、Call To Actionのパートナーとして名を連ねている諸団体の一覧です。

Philanthropy Asia AllianceのCall To Actionのパートナー一覧(ウェブサイトより)

今回、アジア諸国におけるファンドレイジング関係の動きが共有され、非常に興味深い事例が沢山あった一方で、日本の事例が何も共有されなかったことは残念でした。個人的な見解として、英語での情報発信やウェブサイトがほとんど無いことが、日本のソーシャルセクターの取り組みが海外の人達に認知されていない主要因であると考えています。Menon氏のように国際的に活動しているプレイヤーに知ってもらい、カンファレンス等のような場でシェアしてもらえるようになる必要性をヒシヒシと感じました。

(懇親会でMenon氏と話せたので、日本の事例もこういう場で紹介してもらえると嬉しいと伝えておきました)

Usha Menon氏と認定ファンドレイザーの山﨑庸貴さんとFIA Conferenceの懇親会にて

実は、そういった問題意識は今回初めて思ったわけではなく、以前から感じていたので、日本のソーシャルセクターの事例や情報等を英語記事化する活動もしています。

ここまで読んでくださったあなたが、海外のソーシャルセクターの人達とやり取りする機会があれば、ぜひ参考になりそうな記事をその人達にシェアする等してご活用いただけると幸いです。
また、ただ単に英語で発信しただけに留めず、内容がきちんと伝わることも重要だと思うので、英語ネイティブや非日本語ネイティブにとって分かりにくい表現等があったら、遠慮なく筆者に知らせていただけると有難いです。

記事をお読みいただき、ありがとうございました!もしよろしければ、サポートいただけると日々の活動の励みになります!これからも日本の非営利活動のお役に立てるように、様々な機会に参加して得た海外のソーシャルセクターの情報や知見を発信していきますので、今後ともよろしくお願いいたします!!