見出し画像

女性が海外MBAを目指すこと

このテーマは非常に複雑で、発信を慎重にしなければならないテーマなのですが、自分の立場上、共有することが最も大事なテーマの1つであるとも考えています。

異論の余地がもしかしたらあるかもしれない投稿であることは承知していますが、揚げ足取りに終始するのではなく、生産的な思案や議論の素材にして頂ければと考えています。


この仕事で最も困難だった瞬間

これまでこの仕事をしてきて最も困難だった瞬間の1つは、米国担当の同僚の代理で、外部のフェア会社が主催する女性出願希望者(アプリカント)特化型のフェアにサンフランシスコとロサンゼルスで出展した時でした。

95%以上、語学の問題ではありません。

米国で声高に議論される女性の活躍に関わる議論について、米国独特の文脈も理解した上で、米国に住んでいない日本人しかも男性として、プレゼンテーションやパネルディスカッションを通じて公の場で発信することの難易度が高いからです。

ロサンゼルスは女性卒業生1名も召喚したのでまだ気楽でしたが、先にこなしたサンフランシスコは事前にそれなりに勉強していたもののどうなることかと冷や汗ものでした。

特に、パネルディスカッションは、パネリストである各校MBA入学審査官が私以外米国人女性で、聴衆も約95%が女性(おそらく大半は米国人)という状況でしたので...

自分がモデレータをして、女性卒業生・在校生がパネリストを務めるのとはまるで訳が違います。

事前に女性特化型のフェアであることさえ知らされずに打診を受け、久々の西海岸出張かぁ、出張の用事が済んだら代休を取ってロサンゼルス(アナハイム)のディズニーランドで遊んで帰るかぁ、とウキウキして快諾したことを、詳細を知ってからそれなりに悔やんだ部分もありました。

結果、ディズニーランドには行ったのでそれはそれで良かったのですが 笑

なぜ私に代理出演が打診されたかというと、単純に時差とフライト的に負担が軽く、スケジュールが空いていた、という理由に尽きます。

ちなみに、この外部業者が行うフェアで、同様の女性特化型フェアが日本で催された事例がないことも言及しておきます。

それは、フェアを実施するにはあまりに市場規模が小さいとみなされているからです。


東アジアの中でも突出して小さい日本の女性比率

IESE(イエセ)では、MBAプログラム全体における女性比率が30%程度です。

米国の一部学校では、40%を超えている学校もあることを踏まえると、要因が直接学校のせいでない部分も少なからずありながらも、IESEが学校として改善していかなければいけない分野の1つがこの分野です。

そんな中でも、中国や台湾などでは、例年、出願段階でも入学段階でも過半数を女性が占めていることが殆どです。

IESE固有の事情はなく、おそらく他の学校でも似たような状況のはずです。

そこまでのレベルではないにせよ、韓国は次点です。

日本は、海外MBAに行く女性の中には、肌感覚で女性が20%未満しかいません。

外部業者が開催する学校合同フェアの参加者データではもう少し女性が多いです。

最も気軽に参加できるイベントである当該フェアから実際の海外MBA入学までには数々の障壁と行程があり、その過程において何らかの事情で断念している女性が少なくないことが肌感覚とのズレから容易に想像できるので、あえて肌感覚を優先しています。

入学審査委員会(アドミッションコミッティー)の中でも、「本気で女性を比率として増やしたいなら、今すぐに日本人を全員不合格にすれば多少は改善するよ」と、私から自虐気味に2-3回指摘したことがあります。

要因分析について、東アジア他国との差分という切り口からは推測の域を出ないところもあるので、詳細を控えますが、少なくとも女性がキャリアを積むということについて、日本が遅れていることは明らかです。


キャリアの早い段階で海外MBAを目指す可能性

女性が海外MBAを目指すべきかという大きな問いについては、日本の女性が置かれている複雑な事情がわかる立場からすると、必ずそうだとは言い切れない部分もあります。

しかし、少なくとも、いくらなんでももう少しそういう女性がいてもいいはずだ、とは思います。

海外MBAは、将来のキャリアへの保険として機能する側面もあります。

自分でタイミングも含めてコントロールできないライフイベントを複数抱える女性にとって、海外MBAはキャリア形成上、つぶしを効かせるという意味で有効なカードと言える側面があります。

ここでは、そもそもその不確実性に関わる負担を今後は男性が一層担っていくべきだ等という別の議論はせず、私の認識する現状に即してのみ話を進めます。

ならばいつ、という点について、パートナーをそもそも欲するか、欲する場合の結婚・出産適齢期はいつか、パートナーとの関係性は海外MBA留学期間中どうするのか、等、論点がとても多く複雑ですが、1つの可能性を考えてみたいと思います。

海外MBAの場合、フルタイムの職歴が最低でも3年あることが入学の最低要件のことが多いです。

3年程度の職歴(つまり25-26歳)で入学してくるのは、MBAを早く取りに行くことが慣例化しているインド人だったり、既に戦略コンサルタントとして職業人生を就業年数の割に濃く過ごしてきている方が多いです。

が、女性が大きなライフイベントを迎える前に保険として海外MBAを取得するといった事例が日本でも増えてきても良いはずです。

こんな早期に海外MBAへ来ることのハードルは、いくつかあります。

まず、日本からの受験生の半数強程度が社費です。

社費で3-4年の就業年数で海外MBA留学をさせてくれることは、一部の外資戦略コンサルティングファームや日本政府を除いては、男女問わず、稀です。

ですので、ある程度私費が前提になるかもしれません。

次に、MBA受験への準備にかかるリードタイムです。

私の感覚では、男女問わず平均1.7年くらいがMBA受験準備を開始してから合格までのリードタイムです。

それを踏まえると職歴が浅い段階で来るためには社会人の相当初期段階からフルパワーで準備に取り掛かる必要があります。

しかし、これ自体はある程度可能で、しかも、一般的に女性の方が男性よりも語学能力(英語)に長けているので、一層の短縮も可能かもしれません。

逆にGMATを苦手とする女性は男性より多いですが。

そして、仮に私費であるにせよ、MBA中の貢献に足る社会人としての経験の不足、資金不足といった職歴が短いことによって派生して生じる問題です。

但し、経験不足に関しては、一般的な日本の女性の自己肯定感の低さを考えると勝手に自分で不足していると判断している例が相当あるのではないかと思っています(実際、前述のインド人は入学しているわけですし)。

資金についても女性向けに奨学金を厚めに積んでいる学校は多いですし、男女問わず、日本人は海外MBAを目指す上での財務計画が世界的に見ても相当保守的であるのも事実です(これについては、良い面悪い面両方あります)。




その他のモデルケース


一旦、一つの可能性としてキャリアの早い段階で海外MBAを目指す可能性を提示しましたが、他にも色々とモデルケースは存在します。

旦那さんが育休を長期に取得可能という意味でレアケースかもしれませんが、「夫と子供2人を連れてのMBA留学」を成し遂げているIESE在校生もいます。

彼女の場合、むしろ、年齢的にはそれなりに上の部類に入ります。

2人目のお子さんは現地バルセロナで出産しています。

そして、年齢の壁を完全に打ち破って、卒業後のフルタイムオファーを、素晴らしい会社から勝ち取っています。

また、過去には夫婦同時MBA留学ということで、旦那さんがIESEで、奥さん(お子さん二人連れ)が同じバルセロナにあるESADE(エサデ)でMBAを取得してといった例もありました。


今年も、子連れではないながら、同じ事例が日本人と韓国人で1組ずつあるのですが、なぜか二人ともIESEに来るという展開にはなりません 笑


海外MBAを目指す日本人女性を取り巻く外部環境

差し支えのない範囲で包み隠さず書きたいと思うのですが、海外MBA界隈の多くの利害関係者(MBA採用企業、ビジネススクール等)が日本人女性を喉から手が出るほど欲しがっているのが、昨今の現実です。

こういった流れにあやかることを忌み嫌う方がいるのは百も承知ですが、その是非をここで議論する気はなく、あくまで否定し難い客観的事実としてお知らせしています。

採用面に関して、女性は、社内での昇進にガラスの天井がある、男性ほどの期待をされていないし扱いにくいと思われている、といった日系企業で頻繁に聞く話とは真逆です。

MBA採用企業の大多数は外資系企業で、その中でも日系企業寄りでない企業が多いので、このあたりに対する考え方は、日系企業のそれと大きく異なります。

IESEにおいても、Women in Business Clubが、女性の活躍に特化した大規模な会議やセミナーを定期的に開催するなど、この流れに乗った気運が存在します。

繰り返しになりますが、この流れを好き好むかどうかは個人の価値判断です。ですが、機会が明確にそこにあることは否定の余地がない事実です。

海外MBA界隈の文脈を離れても、日本の女性ビジネスパーソンを取り巻く状況が好ましいものとは思っていませんが、それでも一部の国よりは相対的に良好です。

最近状況が変化しつつあるものの、男尊女卑の最先端を長らく走っていたサウジアラビアから昨年出願してきたサウジ人女性のエッセイは、社会的・家庭的にも女性として完全に「詰んだ」状況からここまで這い上がってきて、更に海外MBAを使ってその先に行こうとしているという壮絶なもので、正直面接なしで合格でも良いと思いました。

ちなみに、彼女は面接の末に、合格となりました。

私はこんな仕事をしていながら、海外MBAに行けば万人が報われるといった海外MBA狂信者的発想は一切持ち合わせていません

しかし、報われ得る方がそれに気づいていないのであれば気づいて頂く手助けはしたいと思っています。

そして日本人女性の場合、おそらくもう少し対象者はいて、私が普通に仕事をしているとリーチアウトしづらいところにいる方々でもあるのかなと予想しています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?