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コピーライターって何やねん?

「職業:コピーライター」という奇妙な肩書き

 初めまして。黒畑です。クロって呼んでください。
 私の職業はコピーライターです。

 コピーライターという仕事を確立した人といえば、日本では糸井重里さんが有名ですね。
 かっこいい横文字の職業ですが、要は広告屋さんです。広告業界におけるライターさんが、コピーライターさんなのですね。
 そんなコピーライターの仕事って、実際どんなもんなんでしょう?あまりその実情を知ってる人はいないんじゃないでしょうか?

コピーライティングとは何ぞや

 例えば商品のキャッチコピーを考えたり、企業のCI(コーポレートアイデンティティ)というものを制作したり。そういうお仕事を、私はやっています。
 でも実は私たちの業界内では、「キャッチコピー」という言葉はほとんど使われません。みんな「コンセプト」や「タグライン」と呼んでいます。私の勤めていた会社では、一貫して「コンセプト」という言葉を使っていました。
 「コンセプト」とは、つまり概念。特定の商品や会社が、一体どんなものなのかを端的に表すオリジナルの説明というわけです。

 なるほど、新しい概念を作っているのか!
 それなら国語辞典に例えてみるとどうでしょうか。コアラのマーチなどで有名な「ロッテ」を辞書で引いたら、「LOTTE:(会社名)お口の恋人」と出てくるとしましょう(残念ながらそんな素敵な辞書はないのですが)。
 この短い言葉で、ユニークに会社が説明されているし、見た人がイメージを膨らませやすいと思いませんか?
 お菓子メーカーであるロッテのコンセプト(概念)は、「みんなの“お口の恋人”である会社」なのです。恋人という表現が、お菓子の甘いイメージともしっかり結びついていますよね。恋人のように甘やかしてくれそうな気もします。
 疲れると、ついお菓子が食べたくなる私も、この「お口の恋人」ロッテさんには日頃お世話になっております。

 そんなわけで、企業や商品は、自分達を売り出すために、このようなコンセプトを通り名にして、みんなに知ってもらおう!買ってもらおう!としているのですが、これはマーケティングに基づくものであって、決してフィーリングだけでカッコいい言葉を付けているのではありませんよ(笑)
 もちろんカッコ良さも大事です。でも広告業はあくまで、認知度や売り上げを伸ばすのが目標ですから、「決められた枠の中で」ライターもデザイナーも一生懸命、創作意欲を燃やしているのです。そして、その決められた枠というのが、広告のターゲット層だったり、市場における競合の戦略だったりするんですね。なので私はクリエイターとして、マーケティング部の人たちと打ち合わせを進めながら、共同作業でコピーの制作をしています。

 かくしてコピーライターとは、「まだ概念のないものにぴったりの概念を考える人」のことだったのでございます。

コピーってつくる意味ありますか?

 会社やプロダクトに、みんなが親しみやすかったり共感できるような概念を付けて、広告・宣伝するのはとても一般的に行われていることですが、そんなコンセプトに当たるコピーものに果たして本当に効果があるのか?と皆さん疑問にお思いかもしれません。
 結論から申し上げましょう。

はい。
効果があるから、わざわざ大金払って企業様方は作ってらっしゃるのです!!!!!!!!!!!!

 突然の大声、失礼しました。
 でも実際、コピーは売上を左右するレベルで意味がある、というのがこの業界に携わっている自分の答えですね。
 もちろん、商品そのものの分かりやすさ、用途の明確さや競合の過多にもよります。ですが、ある程度成熟したマーケットなら、他の競合との差別化のためにコピーは必要ですし、未成熟なマーケットならその市場を開拓し、多くの新しいターゲットを呼び込むためにも、やはりコピーはあるに越したことはないのです。

良いコピーってどんなコピー?

 さて、皆さんもコピーなるものの必要性を、多少なりとも認めてくれたのではないでしょうか。
そしてこうも思ったかもしれません。

「言葉考えるだけなら、なんか俺にもできそう」

くっ…!
その発言、一応プロとしてこれを生業にしている私は多少なりとも心を痛めましたが、しかしここだけの話、あなたにも良いコピーが思いつく可能性は全然あります。ありよりのありです。
 もし、ご自身で考えてみたい!というチャレンジ精神溢れる方がいましたら。ルールというルールはありませんが、これだけは意識すると良いかも、という私のミニマル原則だけ、お伝えしておきましょう。

クロ流!コピーを書くためのミニマル原則

①コピーというのは、削る作業である

自分が丹精込めて作ったもの。それはさぞ思い入れが強いものになるでしょう。
「ここを工夫して、ここは普通と違ってあえてこうしたんだよね。あとここもさー(以下略)」
そんなほとばしる気持ちを抑えきれず、うっかりあれこれ要素を詰め込みすぎて、なんだかくどくなってしまった。誰もが陥りやすく、失敗してしまう原因の第一位はこれです。大抵の人がここでやられます。
長ったらしい説明口調なコピーは、良いコピーとは言えません。コピーとはあくまで短く、分かりやすい一言であるべきです。
もちろん、たった一言で全てを説明するのは無理です。ですから、最初からそれは諦めてください。大事な要素も泣く泣く削ってください。そうやって木彫りを彫っていくように削った結果、最後に残ったものをもとに一言、コピーを書いてみましょう。きっと良いものがきるはず。最初はシンプルすぎるくらいが丁度いいです。

②伝えたいのは誰か?を常に頭の片隅に

コピーライティングは、マーケティングやブランディングと呼ばれるものの一部です。
ですから、あなたがターゲットとして据えているのがどういった人たちなのか、その年齢や性別、属性などは細かく分析し、ペルソナを明確にしておきましょう。そうすることで、どのような言葉がその人たちに響きやすいのかも導き出すことができます。造語はおすすめしません。伝わらない可能性を高めてしまうからです。
普段から使われる聞き馴染みがある言葉を使って、少し気になる素敵な言い回しを思いついたら、拍手ものです。

③言葉は音楽でもある

これは同業者でも、言ってる人はあまり見かけないのですが、「音を意識してコピーを考える」というのは、私がとても大事にしていることです。
「そうだ 京都、行こう。」ってその音、気持ち良くないですか?
「まだ、ここにない、出会い。」って耳にすっと入ってくるような感覚ありませんか?
「すぐおいしい、すごくおいしい。」ってなんだか口に出して言いたくなりませんか?
そういう音もぜひ意識してみてください。俳句じゃありませんし、五・七・五じゃなきゃダメよ、なんていう韻律はないんですが、なんとなく口にしやすい音程や言葉のリズムというのは、不思議とあるものなんです。

④句読点は武器になる

句読点って、たぶん文章とあまり深く関わらない生活をしている人は、さほど意識しないで生活してるんじゃないでしょうか。
ラインで「おはようございます。今日は、いかがお過ごしですか。」なんてメッセージ送る人いないですもんね。
「おはよ」「今日ひま?」で終了ですよね。うんうん、そりゃそうだ。句読点なんて要らないよね。
でも、そんな句読点、実はすごーく“趣”ってやつを醸し出してくれる存在なんですよ。だから、古の時代から現代まで受け継がれているわけです。
例えば、「まだここにない出会い」と「まだ、ここにない、出会い。」
この違い、分かりますでしょうか?見た人に小さく区切って読ませることで、ひとつひとつの言葉が粒だって、余韻が生まれるんです。


 伝える相手のことを考えながら、そこに一番刺さることだけ残してあとは全部削り落とす。そうやって要素を抽出したら、あとは音を意識して、あれこれ言い回しのパターンを考えてみる。どこで区切りたいか、もしくは一息で言い切りたいか、そんなことも考慮に入れながら。
 そうやって案をできるだけ沢山出していって、候補を絞っていくと、良いものが生まれるんじゃないかな?と思います。
 私から言えることなんて、こんなもんですが、もし参考になれば幸いです。

あなたにも、好きなコピーはありますか?

 コピーを書いたって書かなくたって、たぶん誰にでも気になる広告とか、「お、いいな」と心惹かれるコピーあるんじゃないかと思うんです。あなたにも、好きなコピーありませんか?
 ということで、私の大好きなコピーたちを紹介します!

CI・ブランドコンセプト編

 CI(コーポレートアイデンティティ)っていうのは、つまるところ企業のブランドコンセプト。出ました、概念です。CMとかでよく企業ロゴの下に出てくる一言メッセージみたいなのがそれです。
 SUNTORYの「水と生きる」とか、LIONの「今日を愛する」とか。HITACHIはCMで最後に必ず"Inspire the Next"ってうたってますよね?とても良い発音のアレです。

 そういうのが、一般的にCIって言われてるものなんです。その企業の理念や存在意義を表すものなので、クリエイターからすると、商品のコピーと比べてちょっと差別化が難しかったりもします(ここだけの話、どこの企業も理念は似たり寄ったりなものですから…)

 そういったCIの中でも、私が色んな意味ですごいと思ってるのが

「ひとのときを、想う。」

 JTさんです!というのもですね、JTってご存知、日本たばこ産業株式会社なわけですよ。でもこのコピーを見ても、テレビで流れるCM見てても、タバコの会社だなんて、だっれも意識しないで見てますよね?で、たぶんそれがまさに狙い通りなんですよ。

 タバコって、体に悪いとか臭いとか、国の教育がネガティブキャンペーンしてるくらいですから、もう堂々と喫煙の映像を流せない時代になってます。そんな崖っぷちに立たされている産業です。そして、そんな彼らの打った策が、ひとの思いやりや愛情を描いた広告を流しまくるというものでした。そしてその最後には、「ひとのときを、想う。」ですよ。
 これ、すごいです。要は、タバコという商品そのものに全く触れずに、「自分達は、あなたのことを想っていますよ」「非喫煙者への配慮を必ずしていますよ」っていうアピールができている。「だからたばこを、喫煙者を嫌わないで、私たちはお互いを想い合いましょう」というメッセージになっているんです。

 自分達の商品を沢山売るためにタバコ良いでしょ?って言うのをやめて、社会の風潮に合わせる。圧力に真っ向勝負はせず、表向き足並み揃えながら、しかし自分達が社会に受け入れられ、生き残っていくための生存戦略として、考えられたコピーなんだと思います。

「そこまで考えてCM見てねーよ」

というツッコミが入った気が。ですよね(笑)
 でも、普段いわゆる「広告」っていう枠の中で、自社や商品そのものの魅力をどう売り込むかを考えている私には、とても衝撃的なコピーでした。
 ひとつやふたつ、諦めて、方向転換しても良いのねって。そんなわけでこちらを紹介しました。

商品・サービス編

 まずは、長年愛されてきたあのお菓子の超有名コピーであるこちら。

「やめられない、とまらない」

 そうです。押しも押されぬヒット商品「かっぱえびせん」です。 当たり前に知ってるよという感じだとは存じますが、うーん。やっぱ超シンプルで超いい!最高傑作!
 一度食べたら袋が空になるまでとまらない。 カルビーさん、よっぽど自信作だったんだろうな、というほどの強気なコピーですが、そのコピーの通り、とびきりの美味しさでロングセラー商品となりました。
 もちろん、ここまで売れ続けているのはもともとの商品のポテンシャル。 でもこれ、やっぱりこの一言の力はめちゃくちゃでかいと思うんですよねー。「やめられない、とまらない」って、なんならちょっと怖いくらいのパワーみなぎる言葉ですよ(笑)


続いては、意外と知らない人も多いこのコピー。

「がんばる人の、がんばらない時間。」

 こちらは、ドトールコーヒーのかつてのコピーです(悲しいですが、このコピーは惜しまれつつ引退。現在は別のコピーが採用されています)。

 ドトールって、スターバックスやタリーズと比べると、価格帯が安くて、店内も気軽に入れる感じにデザインされてますよね。凝りすぎてないというか、オシャレすぎないというか。
 一方のスターバックスには、根強いファンがいることで有名です。それは価格が高くても顧客が離れないブランド力があるから。スターバックスにいる人が、なぜか積極的にSNSに写真を投稿するのも、そのブランド力のなせる技。
 しかし、ドトールはそこでは勝負していません。誰でも気軽に入って一息つける、そんな場所を提供してくれますし、それはスターバックスにはないものでしょう。だからこそ、その気軽さを表現したのがこのコピーなのです。仕事の合間に、受験勉強の合間に、さっと休んで行きませんか?
 そんな目論見通り(なのかは分かりませんが)、ドトールは顧客の回転率が良いらしいです。
 「俺は居心地の良すぎる飲食店の株は買わねえ、回転率が悪いからだ」と言っていた友人が、そういえばドトールの株主優待券は持っていたっけ。それはつまり…とか、私、何も言ってないですよ。

おまけに、クロのコピーもちらっと紹介

 ここまで色々語ってきたクロですが、そんな私のコピーも最後にひとつだけ紹介させてくださいな。
って、もうこの記事のトップ画像に、どでかく貼ってるんですけどね(笑)

「鼓動を感じるコンクリート」

 これは、北海道の會澤コンクリートさんの新商品のコピーです。その新商品というのが、バクテリアが練り込まれたコンクリートです。なぜコンクリートにバクテリアかというと、これには深い事情がありまして。

 そもそもコンクリートって寿命があるの、知ってました?
 大体60年くらい。その寿命が来るとコンクリートはひび割れたりして劣化、老朽化していくんです。だから都内のビルって、壊しては建て替えを繰り返し、実はその度にCO2が沢山排出されているんですね。うむ、それはけしからん。
 ということで、それを変えたいと思ったのが會澤さんたち。オランダとの共同研究で、ひびが入っても自己治癒する、全く新しいコンクリートを開発したんです。
 でも、ある意味それは業界では大きなタブーでした。だって永久に壊れないコンクリートができてしまったら、いずれコンクリートが必要なくなってしまうから。自己否定みたいなものです。
 当然、同業他社からの大きな反発を買いました。

 しかしそんな圧力に屈することなく、會澤が地球の未来を想ってつくったのが、「バジリスク」という商品です。モルタルと一緒に練り込まれたバクテリアが、コンクリートできた割れ目を修復してくれるという、かつてない代物でした。

 そして私は、その「概念づくり」を任されたのです。
 数々の打ち合わせを経て、最終的に「鼓動を感じるコンクリート」というコピーに決まりました。微生物が練り込まれている「生きたコンクリート」を表現し、なおかつ力強く生き続ける、そんなイメージが持てるこの言葉が、商品のコピーに選ばれました。
 こちらのコピーには、導入となるストーリーもあり、動画も制作されたのでぜひ下記URLからご覧になってくださいませ。
https://www.youtube.com/watch?v=mTWUu-5KJ5c

これは、人類にとって大きな革命かもしれない。
もはやコンクリートではないのかもしれない。
しかし、これが本質だと気づいた時から、
先へ進む覚悟はできていた。
私たちの見つめる先は、私たちがいない未来だ。

鼓動を感じるコンクリート
Basilisk


コンクリートに生命を吹き込み、
人類と環境を支えつづける遺産に変える。
だから未来の子どもたちは、コンクリートを知らない。


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