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『ポルコ・ロッソ』のような大人になりたかった。


ジブリの作品を最近DVDで借りて見直した。子供の頃はテレビの金曜ロードショーで何回も紅の豚を見た気がするが、最近だともののけ姫やラピュタばかりやっている気がするのは勘違いだろうか。テレビ自体見なくなって久しいので事情は分からない。

もちろん、どの作品も好きだしこれが好きだと言える作品も多いのだが、その中でも子供の頃はピンと来なかった作品の中に『紅の豚』がある。

渋くて丸いグラサンをかけた口の悪い豚が紅い飛行機に乗って空を飛ぶ物語だと思っていた。ワクワクするような冒険譚では無いと思って何度も観たいと思わなかった。だが、24年生きてきてある程度周りから大人だと認められるようになってきた頃から、渋くて格好良いものに惹かれるようになった。タバコを吸う大人の真似をして、ココアシガレットを咥えては煙なんて出ないのに人差し指と中指の間に挟んでいた。髭やスーツを着てアンニュイな雰囲気の色気がある大人になりたいがまだ到底成れそうにない。

そんな自分に比べてポルコ・ロッソはどうだろう。見た目は豚だが、白いスーツを着てタバコを吹かし、じゃじゃ馬娘のフィオや大人の色気が凄いマダム・ジーナの為に奮闘する姿に熱くなってしまった。顔に青痣を付けて最後にキザなカーチスと殴りあうシーンなんて最高だと思う。女や金の為にとか、プライドの為にやっているように見えるがそうではない。


不器用な自分を守る為に、ポルコは戦っているのだ。


ポルコはジーナの事が好いているし、ジーナもポルコのそんな不器用で素直になれないところを愛しているのだろう。お互いが理解しているはずなのに、二人は付き合うことはない。ジーナが働いているバーに行っては酒を呑み、タバコを吹かしては紅い飛行機に乗って帰る。ただ見送るジーナとポルコの距離感が絶妙に描かれている。大人な関係とはまさにこんな関係だと思う。自分の本心を伝えたいけど、伝えられない子供のようなもどかしさを備えて生きている。大人の真似が上手くなっただけなのかもしれない。

それに紅の豚には嫌いなキャラがいない。基本飛行機乗りの空賊達は悪党ではあるけど憎めない愛想がある。空賊の掟に従って皆んな自分という存在を保とうとしている子供に見える。何だかんだ冒頭では子供の面倒をみたり、フィオの負けん気な性格に惚れたりしてる。自分は大人だぞ、その中でも悪党なんだと強がっているようにしか見えないがそれすら愛らしく見える。

登場人物の中で唯一の子供であるフィオを見ると、フィオだけが一番大人に見える。マダム・ジーナでは無いのかと言われそうだが、フィオもジーナも年齢の違いでしか判断出来ないのかもしれない。フィオは立派に飛行機の設計士の仕事をするし、働きものだし、将来の事を考えて行動している。天真爛漫な生き方をしているように見えるが何処か大人びている要素がある。そんなフィオとジーナを比較してみてもジーナもフィオのような時期があり、フィオと似通っている部分があるからこそ最後のシーンでも描かれていたが交流し続けているのだろう。昔の自分もこうだったなぁとフィオを見ながら思っているんだろうか。

そんな事を思っていたら先日、ポルコ・ロッソの声優の森山周一郎さんが亡くなったと聞いた。ジーナの「もうあなたしか居なくなってしまったわね」と何処か遠くを見つめるジーナの顔を思い出してしまった。ジーナの声優の加藤登紀子さんがYouTubeで森山さんに触れているので見てほしい。エンディングでも使われた『時には昔の話を』めちゃくちゃ良い曲なのでそれを含めて聴いてほしい。



ポルコは僕にとって憧れな大人だった。タバコも吸わないし、スーツも余り着ないし飛行機乗りでもないけれど、不器用ながら好きなものや人のために格好悪くても奮闘出来る大人になりたい。


『あばよ、戦友。』












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