見出し画像

「人生は単なるから騒ぎ」鈴木敏夫、角川書店

 ジブリっていうアニメーションプロダクションを考えると、まず宮崎駿、そして高畑勲を連想するでしょう。日本アニメーション界の監督としても二代巨頭と言えるでしょう。でも、もう一人肝心要な鍵になる人がいます。それはジブリのプロデューサーの鈴木敏夫です。そして、今日紹介するのはその鈴木さんが書いたものです。
 まず、この本を読んで私が驚いたのは、鈴木さんのマルチぶりです。プロデューサーであり、クリエーターであり、イノベーターであり、キューレーターと言えるでしょう。あの個性的な宮崎駿や高畑勲が、共に同じプロダクションで仕事をしてきたのは、鈴木敏夫なしでは考えられないんだろうと思いました。
 この本では、鈴木さんの描いた絵や落書きもたくさん紹介されています。絵が相当上手いです。また、筆で描かれたいろんな言葉が書全体の紹介されています。それは、ジブリ映画のコピーであったり、鈴木さんが考えた言葉だったり、宮崎駿や高畑勲に言葉だったりします。それがまたいい。特別に習字を習ったことなく自己流だという筆から、その勢いというのを感じるのです。
 あと、映画に使われた題字は、はじめはラフを考えてデザイナーさんが完成していたけれど、途中からは最後まで鈴木さんが仕上げていたというのです。すごい才能だと思いました。鈴木さんがまだジブリを知らない前のノートなども紹介されていましたが、そんなところでもタイトル文字はデザインが凝られていました。根っからのクリエーターなんだと思いました。
 この本には、たくさんの企画書や宣伝計画書なども公開されています。ナウシカの企画書なども全部手書きです。鈴木さんが当時、在籍していた徳間書店のアニメージュという雑誌の編集長だったことからも、アニメージという文字の入ったノートパッドに、ナウシカの企画書が丁寧なレタリングされたような文字で描かれているのです。その文字に可愛らしさ、その整然とかかれている様を見た時に、こんな人がいたからこそ、映画として世に生まれたんだな、というのを感じました。他にも千と千尋の神隠しの広告をどの新聞にどんな絵柄で、どんなコピーで展開するかなども一覧されている計画書も、当然ながら手書きです。それでいてはっきりわかる制度です。そのポスターのラフも全部、鈴木さんが描いているのです。その美しさもさることながら、その仕事量も圧倒されます。本の中では、凄まじい仕事ぶりが紹介されています。例えば、ジブリスタジオに9時から18時ぐらいまでいて、それからアニメージュの編集室に行って、3時とか4時ぐらいまで仕事する。
 ジブリの映画が一本終わると、スタッフが全員、辞表を書くということからも、その凄まじさがわかるというものです。この本の中にも、次の企画をするためのスタッフを集めるのに苦労したこと、協力会社に軒並み断れているエピソードが紹介されます。それこそ、宮崎と高畑が通った後にはぺんぺん草も生えないと、いうのです。映画はいいけど、会社がズタズタになると。それでも、毎回、鈴木さんや周りの人の奔走により、新たな映画が作られていくのは、私たちが知っている通りです。とにかく、読んでるだけで気持ちが熱くなる本です。
 最後に私が面白いな思ったエピソードを紹介します。それはある日、宮崎駿が鈴木敏夫にこう言ったというのです。「やっとわかったよ、鈴木さん。宮崎、高畑、鈴木はお互いに尊敬していないから仕事がうまくいくんだ」と。鈴木さんはそれを聞いてこう思ったというのです。「宮崎駿、還暦を越えても、映画よりも本人が俄然面白い」と。何かすごい個性的な人たちのお互いへのスタンスがすごいなと。変に妥協しないでぶつかり合う、それでいて相手を気にかけている裏話もたくさんありました。ジブリを違った視点から見られる、本です。本の裏表紙の言葉を添えます、「意味など何一つない」。そうだから自分で意味を作り上げるのでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?