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『アートがわかると世の中が見えてくる』(前﨑信也)

以前読んだ、『13歳からのアート思考』にて、自分なりに絵画を解釈する楽しさを深められました。
自分の感性のおもむくまま、自由に解釈する楽しさこそが至高と思うようになりました。

今回、『アートがわかると世の中が見えてくる』を読んで、
冒頭から「アートを理解することは、感じることとは、異なる」という記述がありました。
『13歳・・・』とは違う、新たな切り口に惹かれ、読み進めたところ、
これは、アートを介した、歴史本なのだと気づきました。

例えば以下の4つです。

1.アートはお金持ちのための物
アートを維持していくは、当然ながら、「作り手」と「買い手」が必要です。
「買い手」にフォーカスします。アートとは、生活必需品ではないため、必然的に「お金に余裕のある人」が買い手となります。
お金に余裕がある人は、権力者とイコールであることが多いです。
彼らは、権力の誇示・大きな家を飾る・困ったら換金できる資産といった用途で、アートを所持します。
権力者は時代によって異なります。天皇、仏教寺院、将軍。WWⅡ後はどれも権力が弱まり、「買い手」が減りました。

2.文化のお手本は、中国から欧米へ
江戸時代ごろまでは、政治や文化のお手本といえば中国でした。
例えば、遣唐使や遣隋使、留学に行った禅僧。科学技術の発達も数百年単位の差があり、
同時期に作られた陶器を比べても、圧倒的に中国のものが優れていました。
しかし、開国以降、明治時代ごろには、そのポジションは欧米列強にとってかわられました。
なぜならば、アジア諸国が次々と欧米に支配されていき、日本は国家存続の危機を感じたからです。
福沢諭吉を中心に、中国のコピーを排除し、欧米ウケする日本独自文化が生成されていきました。

3.なぜ日本には、世界TOP5レベルで美術館が多いのか?
理由は、地域文化振興、税金対策、バブル期の権力誇示です。
1つ目と2つ目は密接に関わっています。後述しますが、戦後の資産家たちは重い相続税を課せられることになりました。
しかし、公益目的の寄付行為ならば、それはかかりません。
よって、
「地域文化振興のため、自分のコレクションを寄付しよう。
そして、遺族が管理しなくてもいいよう、美術館を建てて財団法人に管理してもらおう」
という流れが資産家の間で起こりました。
3つ目について、バブル期はお金が余っていました。
それまでの間に、都市部ばかりに美術館があることに対して、地方権力者はコンプレックスを抱いていました。
よって各地に公立の美術館が建つことになりました。

4.平等と、凝り固まった美術教育が、日本美術を潰しにかかっている
日本のアート作品の価値は世界で下がり続けており、美術館の大半は来館者不足による経営難となっています。

その理由は二つです。
一つ目は1と通ずるところがあります。
戦後の権力者、つまりアートの買い手になりうる存在といえば、資産家や大企業、公益財団法人です。
しかし、政府は資産家に対し、相続税などの重い税負担を課します。「平等」社会実現の一環です。
また、多くの大企業は株式会社となったため株主優先の経営、公益財団法人はそもそもお金儲けをできない仕組みなのです。
一億総中流社会が量産したのは、アートを支えるほどのお金は持っていない、小金持ちでした。

二つ目は、美術教育です。
日本の学校では、アートの見方や楽しみ方を教えません。
例えば、描かれたモチーフが何を意味するか知っていれば、作品に「共感」できるかもしれないのに、現実は、鉛筆と紙を渡されて描けと指導されます。
かつ、美術館の説明は難しくてわからない、面白くないことが多いです。
これは、美術館を支える「学芸員」のキャリアパスに問題があります。
彼らがキャリアアップしていくためには、”専門家に”評価される展覧会を開くことが求められます。
専門家を満足させるには、一般人へのわかりやすさなど二の次にせざるを得ないのです。

===

本書を読んで、アートと日本史とどちらも学べて有意義でした。
後半のほうに記載のあった
 ・ゲストをもてなすための「カンバセーションピース」を家に置く
 ・ギャラリーへ行って、作家さんから直接話を聞く、作品を買う
この二つは実践してみたいと思います。

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