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撃 つ

撃 つ

立つ春に

夜勤あけの

頬殺げおちた

夫が深々と眠る

横で遊ぶ幼児二人

閉じたカーテンには

太陽の光が引っかかる

室外は春の草花がみだれ

芳香がひたと吹き抜けるが

機械油を滲ませた夫は今深夜

子供は夜をおえて夜が来るのに

激しいとまどいをキャッキャッと

わたしの臓腑めがけて発するがただ

父親の眠りの外で遊び太陽のない事も

小さな魂に抱きしめて笑いにかえている

ぼくたちのお父さんはとてもえらいんだよ

工場の現場で直接機械ととり組んで汚れてね

一生懸命鉄をつくっている工員だよ でもね

僕をだきあげおい将来の革命家よというんだ

鋼のような意志と優しさと想像力で羽ばたけ

お父さん達のおかれている状況や貧しい今を

体中で掴み真の平等な社会を創りだしてくれ

明かるさだけは忘れるな敵の正体見誤まるな

海の風にうたれながら工場の煙突を指さして

仲間がいっぱいいる機械にくわえこまれて

けれどくじけない笑いで肩をたたき合う

庶民そのものの相棒たちゆるぎのない

父親の寝顔の基を読みとる子の確信

狭いアパートに満ちているわらい

朝が夜になる子供の過酷な日び

三交替現場労働者かていでの

日曜日のないカレンダー群

わたしのひらかれた眼に

カーテンを裂く女達の

味噌汁が噴きあがる

おそとおそと行く

突きあげる子よ

室外へと向う

ふかい昼に

腕を組み

詩集「生える」より (11)

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