[Black]宇宙人「ガチャ」
宇宙の探査と云うより、対宇宙人と思われる公的機関が次々に設置されているが、オレが頼りにしている天才学者まで「宇宙人が出るぞぉ」と云いはじめた。曰く、
「地球外生命体が存在する可能性は小さいがゼロではありません。ということは宇宙のとてつもない大きさを考えれば、存在しないほうがおかしい。
ただし、遠い星の宇宙人が物理的に地球にやってくるのはほぼ無理。
特殊な近道を通れば……という話もありますが、そういうルートがあったとしても生物がその移動に耐えられるのかどうか……。
考えられるのは、情報だけを他の星に飛ばすやり方です。遺伝子もウイルスも情報ですから、他の星の知的生命体の肉体を乗っ取ることは十分可能です。おそらく高度に知的な宇宙人は、そんなふうにして他の星に進出しているのでしょう。
つまり、ある日突然、巨大な宇宙船がやってくるのではなく、中身が宇宙人という人間がいつのまにか増えている、という感じです。もちろん、正体がバレたらただでは済みませんから、その時が来るまでは温和しく地球人のふりをしています。
「その時」というのは自分たちの仲間が政界やら財界、マスコミ、警察などに浸透して、一方的に攻撃されない、話し合いが出来る環境が整った時です。わたしの見るところ「その時」はかなり近づいていると思います……」
ここまでは、まあまともな話だった。が、その後こんなことを云い出した。
「世間の人は往々にして、宇宙人などいるはずがないと云いつつ、幽霊については怖っています。しかしそれは科学的に見れば逆なのです。宇宙人が実在する可能性はありますが、幽霊については皆無です。どうやって記憶を保持したり考えたり出来ると云うんです? そんなことができたら神ですが、神が個人的な怨みを根にもってネチネチと復讐したりするでしょうか? ありえませんよね……」
天才学者が云うのだから科学的にはそうなのだろうが、宇宙人が近々登場するという話に、どうして幽霊を持ち出す必要があるのか? そこに違和感を覚えた。この日の天才学者は、いつもと様子が違った。
「宇宙人を思わせる記述は古代の文献や図像にもあります」なんてことまで云い出したのである。しかしそれを云うなら、幽霊についての話や図像のほうが、はるかにたくさんある。自ら墓穴を掘ってるようなものではないか。
だいたい人間の肉体を借りるというのは、それこそ幽霊の専売特許だ。天才学者のいう「宇宙人による乗っ取り」は、昔からある「憑依」現象を云い換えただけではないか。
つまり、その天才学者が語る宇宙人というのは、聴けば聴くほど、幽霊っぽいのである。死者の霊が憑くのと宇宙人が憑くのとでは大違いかもしれないが、その区別はつくのか?
幽霊だって、「我は○○王ナリ」とか、場合によっては神の名をかたるケースもある。要するに、思い込みだからなんでもありである。ご本人は成りきってるわけだ。そのうち、アニメのキャラクターを名乗る幽霊だって出てくるだろう。そのキャラクターが宇宙人であれば、どうなる? 本物の宇宙人による乗っ取りと区別が出来るのか?
実際、精神世界ファンの中には自分の前世は「〇リウス人」だったという人たちだっているのだ。もしそのような人が幽霊になれば、きっと「〇リウス人」と名乗るに違いない。
まてよ、近々登場する宇宙人というのは「宇宙人気取りの幽霊」かもしれないぞ。
むろん無害だ。コスプレーヤーのようなものだろう。肉体がなくなった霊の、いわば宇宙人ごっこだ。脅かすくらいのことはやっても悪意などあろうはずがない。それどころ正義の味方をやりたくて仕方がないのではないか。
どうもこの日の天才学者の話はレベルが低かった。そもそもその天才学者の専門はコンピューターである。AIやブロックチェーンの話ならともかく、宇宙人のことは専門外だ。喋れば喋るだけボロが出ることはわかりきっていたはずだ。
さては、誰かに云わされたか……
先のパンデミックの際は、世界的権威の学者でさえ、重大な副作用など絶対に起こらないと証言?していた。何十年もの実績がある薬ならともかく治験中のものにどうして太鼓判が押せるのだ? どんなに偉い学者でも、へんなことを云う時はある。何かがあるのだろう。ゲスの勘ぐりになるが、脅されたのでなければカネか?
そういえば、その天才学者も研究一筋の堅物ではなかった。会社も経営しているし、贅沢、贅沢品が大好きな人物でもある……。
もしやパンデミックの第二弾が計画されているのだろうか。
政府とマスコミが一体になって危機を煽れば、宇宙人の侵略だって現実化する。多くの人が信じればそれがリアルなのだ。その上で宇宙人対策と銘打てば、どんな予算だって通りそうだし、ロックダウンも新しい生活スタイルも言うがままになる。してみると、無害な「宇宙人なりきり幽霊」にも、利用価値はあるわけだ。
自分で云うのも何だが、なかなかの名推理だと思うがいかがだろう?
何しろ宇宙人はウイルスのように人間の肉体に侵入するのである。外見で判断するのは至難。調べるとすれば遺伝子検査くらいだ。パンデミックで使ったあのピーアール検査をそのまま流用できる。
検査自体は任意でも、「宇宙人ではない証明」がないと医者にも診て貰えないとか、公共交通機関にも乗れないとなれば検査は事実上の強制である。
そして検査で運悪く陽性判定となれば、人権を剥奪されて収容所送りだ。
中身のわからないブラックボックス検査でいとも簡単に人権を剥奪されることになる!
まてよ、この問題の本質は、そこらあたりにあるのかも。
本来無害な「宇宙人なりきり幽霊」だって、一大キャンペーンを展開すれば、どうだろう。「宇宙人に乗っ取られにくい予防薬」とか「体内に寄生した宇宙人を追い出す薬」とか、バンバン売れそうではないか。
もちろん、ネットでも検閲が始まる。「宇宙人なりきり幽霊」などは禁止用語になり検索しても出てこない。「幽霊」は科学的には存在しないから「宇宙人なりきり幽霊」というのはデマというわけだ。
ああ、またまたあの暗黒時代に逆戻りだっ!
…… いや、落ち着け。だいたいオレの予想が当たったことがあったか?自分で云うのもなんだが、オレの考えることなどまったくアテにならん。先見の明があれば、底辺人生などやっていない。
となると正解はその反対か。
宇宙人=侵略者=攻撃対象 これをひっくり返すと……
宇宙人=救世主=崇拝対象?
そういえば、天才学者は「政治家やら財界、マスコミ、警察などに浸透して、話し合いが出来る環境が整った時に、宇宙人は名乗り出る」と云った。侵略者として現れるとは云っていなかった。
もしかして宇宙人を「救世主」として登場させるつもりか?
戦争もだが、各国の財政状況もひど過ぎる。犯罪も増えているし、地域社会は空洞化。家族まで解体されつつある。もう何もかもが手遅れのようだ。
このタイミングで優秀で善なる存在が登場すれば、人々は諸手を挙げて歓迎するに違いない。マスコミが「救世主」と連呼すれば「救世主」の出来上がりである。真の「救世主」は同時代の大衆には理解不能だが、そんな辛気臭い話がマスコミで流れることはないだろう。
うーん、宇宙人=救世主、その仕掛けは十分ありそうだ。
そうなると「宇宙人検査」の性格もがらりと変わるぞ。
陽性判定になれば収容所送りどころか、VIP待遇だ。何しろ救世主様なのだ。粗略に扱われるわけがない。学歴がなくてもカネがなくても宇宙人と判定されるだけで、貴族だっ!
この「ガチャ」は、大衆に受け入れられるかも知れない。宝くじに高額当選するようなものだが、宝くじに当たったことは他人には云えないし、云っても尊敬されないが、「救世主=宇宙人」と判定されれば、名誉と特権の両方が手に入る!
またバカなこと云ってる…… というような話だが、
心の準備をしておくに越したことはない。さもないとパンデミックの時のように、あれよあれよという間にテレビの云いなりになってしまう。
もちろん、「宇宙人=救世主」キャンペーンのメッキは直に剥がれてくるだろう。まず第一に、そんなことでは世の中変わらない。それどころかパンデミックの時のように人口は減り、災害はますます増えるのではないか。戦争だって拡大するかも知れない。
また「宇宙人検査」で陽性になるのは超富裕層や貴族たちばかり、ということにもなりそうだ。何のことはない、特権階級の既得権益にお墨付きを与えるだけのことなのだ。
それでも大衆は何も云わないかも知れない。パンデミックの時と同じだ。そんなヒドイことがあるハズがないと、そう信じたいのである。
そしてその期待に応えるように、タレントたちがこうコメントする。
「やっぱり、貴族や大富豪の人たちは、我々とは違う特別な存在だったんですね。これでスッキリしました。
宇宙人の方たちは、我々よりはるかに優秀で欲がなく、善意で地球を救いに来てくれたんです。我々の出来ることは彼らの邪魔をしないで、指示に従うこと。云われる通りにやってれば、それで幸せになれるんですから、こんなにありがたい話はありませんよ。ともかく、ほっとしました。
今度こそ、世界は良くなります。バンザーイ!」
◇ ◇◇ ◇◇◇ ◇◇ ◇
おまけ 宇宙小噺
「なんや その石ころ?」
「月の石や」
「どっから もってきたんや!」
「盗ったんちゃうで くれーたー」
◇◇◇
!重要!
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